表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪逆令嬢のうろ覚え救済論(旧題:輪廻転生って信じる?)  作者: Lynx097
八章_笑顔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

502/948

4.1話_side_Uso_少し前_エンディミオン魔法学院

・記念すべき通算500話目がエイプリルフール企画の謎話であるという謎の偶然。

・500話達成は嘘じゃない模様。

・500話の内容は嘘である模様。




 期末試験を目前に控えたある日の午後。カッチェさんは自室で日課のティータイムを優雅に楽しんでいた。

 多くの学生が試験前の最後の追い込みや、あるいは目前の悪あがきに精を出して学院中が阿鼻叫喚の時分であるが、勿論デキる女であるカッチェさんには無縁のこと。中間試験では友人のマシュマロチビことプリムさんの成績に後塵を拝する結果となったカッチェさんであったが、その悔しさをバネに期末試験に際しては万全の準備を進めてきた自負があるため、この期に及んで無様に慌てたりはしないのだ。

 今はむしろ、いつも通りのルーチンをこなして心を落ち着け、試験に臨むコンディションを整えるべき時間なのだ。


 とそこへ、穏やかな空気をぶち壊す闖入者が現れる。



「カチェー! たいへんっス!! たいへんなんスよぅ!!」



 語彙力の敗北を体現したような台詞と共にバンと扉を開け放って転がり込んできたのは、カッチェさんにとっては幼少期からの友人であり腐れ縁の幼馴染であるコーデリアという少女であった。

 言葉通りに大変な大慌ての様相で現れたコーデリアの手には、なにやら封筒と便箋のような物が握られていた。

 長年の訓練のおかげで、突然コーデリアが泣き喚いたところで動揺すらしないカッチェさんは、優雅にカップをソーサーに置き、ふぅと溜息を吐く。

 さよなら私のティータイム、である。



「あらコーディ。今日も貴女は元気ね」


「そんなこと言ってる場合じゃないっス! これを見るっス!!」



 詰め寄ってきたコーデリアがその手の紙を押し付けてきたので、カッチェさんはやれやれと思いつつも受け取って取り合えず封筒の差出人を確認する。

 どうやらコーデリアの父であるフォンテ伯爵からの手紙であるようだ。つまりは父親が娘に宛てた家族の手紙というわけなので、当人から促されたとはいえ自分が内容を見てもいいものかとカッチェさんはほんの一瞬葛藤したが、どうせ自分が読まない限りはコーデリアに延々と粘着されるのが目に見えているので、せめてさっさと片付けようと諦めて紙面に目を落とす。



「あら、あら。まあまあ……」



 コーデリアの実父であるフォンテ伯爵は、当たり前だが娘のおつむの出来をよく理解しているようで、手紙は難しい表現を極力排した非常に易しい文体で占められていた。

 ただし、その内容は全く以て優しくはなかったが。

 このエンディミオン魔法学院は単位制を採用しているわけだが、各科目において単位取得の是非に大きく関わってくるのは言うまでもなく定期試験の点数である。シンプルに、試験で一定以上の点数を取らなければ単位が出ない、という科目が多い。担当する教員や講師次第では別途の評価項目を設けて学生への救済措置を取ってくれることもあるが、まあ例外的な話だ。

 それとは別に、実はシステム側での救済措置もあるにはあって、それが特別補習――所謂『特補(トクホ)』である。試験で点数が足りなかった者も、休暇中に実施される特補に参加すれば単位を得ることが出来る場合がある。場合があるというのは建前で、特補を受ければほぼほぼ単位が出る。

 悲しいことにコーデリアという少女は筋金入りのおバカなので、過日に実施された中間試験の成績もそれはもう散々であった。期末試験も似たような結果に終わるのは火を見るよりも明らかであり、十中八九休暇中の特補を受けてなんとか凌ぐことになるのだろうなというのがカッチェさんの予想だ。


 ところで、この『特補(トクホ)』という制度。特別と銘打っているからには普通の補習とは意味合いが違う。

 当然ながらその特別感は決して褒められた意味ではなく、受ける側には大変な不名誉であると言われている。

 それはそう。特補を受けるということは自らが成績弱者であると周囲に喧伝しているようなものだから。馬鹿が服を着て歩いているコーデリアは周囲に馬鹿と思われたところで気にもしないだろうが、仮にカッチェさんが特補を受ける羽目になったとしたら、そんな辱めにはとても耐えられないのでその前に自主退学待ったなしである。


 長々と説明したが、要するにフォンテ伯爵からの手紙の要旨がそれなのだ。

 簡単に要約すれば、愛娘のあまりの出来の悪さに業を煮やした伯爵が、コーデリアに最後通牒を突き付けてきた。特補の不名誉を受けるなど言語道断であり、そうならないように期末試験では奮起するように。もし万が一にも特補を受けなければ単位が出ないような状況に陥ろうものならば、その時は周囲に恥を晒す前に学院を退学させるので覚悟しておくように。と、そんなことが馬鹿でもわかる易しい表現でつらつらと書かれている。

 ちゃんとコーデリアに理解出来る表現でわざわざ伯爵が直筆している辺り、彼の真剣度が窺えて、つまるところがガチギレである。


 なるほど。カッチェさんは頷いて、朗らかな笑みを浮かべた。



「貴女とは長い付き合いだけど、とうとうお別れの時が来たようですわ」


「ああっ! カチェがもう既に過ぎ去った人間を見る目をしてるっス!?」


「貴女のことは忘れないわ。どうかお元気で」


「まってほしいっス! 潔く見捨てないでほしいっス!! 助けてほしいっスぅ!!!!」



 鬱陶しく泣きついてくるコーデリアの無駄に実ったバストに埋もれながら、カッチェさんは半眼になる。



「そんなこと言っても無理なものは無理ですわ。中間試験の悲劇をお忘れになって?」



 そうなのだ。このカッチェさんも最初からセメント対応だったわけではない。

 中間試験の際には親身になってコーデリアに勉強を教えたりもしたのだ。カッチェさん自身の復習もかねた勉強会を開催し、おバカな幼馴染を救わんと精一杯の努力をしたのである。

 そして返ってきた真っ赤な成績表を見て、カッチェさんは自身の無力さと敗北の味を知ったのだ。カッチェさん自身もマシュマロチビに完膚なきまでに敗北したショックを消化しきれていない時分に叩き付けられた無慈悲な追撃に、心を折られかけたのを今でも昨日のことのように思い出せる。



「カチェはわたしが居なくなっても平気なんスかぁ!?」


「今生の別れでもあるまいし」



 別にコーデリアが退学になったとて、自領に戻るだけである。会おうと思えばわりといつでも会える。



「甘いっス! わたしがいつまでもフォンテ領に居ると思ったら大間違いっス!! きっとすぐに顔も知らないおじさんのところに嫁がされるに決まってるっス!!」


「いや、伯爵もそこまで無情ではないでしょう」


「そんなことないっス! おっぱいしか取り柄がないわたしの使い道なんてそれしかないっス!!」



 実のところコーデリアの悲観的な未来予想はわりと的を射ているとカッチェさんは思う。なにもフォンテ伯爵はコーデリアが憎いからそうするのではなく、むしろ愛娘の将来を真剣に憂いているからこそ、彼女がまだ若く、需要があるうちに手堅いところに永久就職させようと目論むだろう。

 というかその妥当な未来予測が出来る程度の論理的思考力を、ほんの少しでいいから勉学方面に発揮すればなんとかなるとカッチェさんは思うのだが、それが出来れば苦労はしていないのである。



「カチェ~お願いっスよぅ~わたしカチェと離れたくないっスよぉ」



 えぐえぐと遂に泣きが入ったコーデリアは伝家の宝刀である『一生のお願い』を繰り出してまでカッチェさんに助力を乞うてくる。なおカッチェさんが覚えている限りではコーデリアの『一生』は既に三十回目くらいに突入しているはずである。

 つまるところ、結局のところ。



「はぁ……仕方ありませんわね」



 なんだかんだで助けてあげちゃうのが、カッチェさんであった。





 ◇◇◇





「ねぇカチェ? どこに行くっスか? 勉強教えてくれるんじゃないんスかぁ?」



 優雅に廊下を歩くカッチェさんの後ろに続きながら、コーデリアが疑問の声を上げる。

 コーデリアを助けると決めたカッチェさんであったが、彼女は自分の手でコーデリアに勉強を教える気は更々なかった。というか、それでは無理だというのは中間試験の際に痛感しているのだ。

 正直に言えば、カッチェさんは自分自身が試験で好成績を収めることならばまだしも、他人に教えることに秀でている人間であるとは自分でも思っていなかった。その結果が中間試験時のコーデリアの惨憺たる赤点無双に現れているわけで、となれば今度はカッチェさんよりも教え上手な人間を連れてくるしかあるまい。

 その人物が必ずしもカッチェさんよりも成績優秀である必要はない。ただ教え上手であればいいのだ。天元突破したおバカであるコーデリアに、ほんのちょっとでいいから人間の知性を授けてくれるだけでいいのだ。


 というわけでまずは、カッチェさんの交友関係の中からあたってみることにする。

 カッチェさんが最も懇意にしている相手といえば、同学年の侯爵令嬢達――マシュマロチビことプリムさんと、色々な意味でおかしいレムさんだ。

 レムさんの部屋のほうが近かったのでそちらから訪ねてみると、彼女はちょうど自室に友人を招いて勉強会をしているところだった。ナイスなタイミングと言えるが、目前に迫った期末試験に備えて最後の追い込みに入っている学生は少なくないので、レムさん達もそのパターンなのだろう。


 部屋の中に友人達を残したままカッチェさんの呼び出しに応じて廊下に出てきてくれたレムさんは、事情を聞き終えて神妙な顔で頷く。



「話はわかった。でも私でいいの?」


「というと?」


「いや普通にカチェのが頭いいじゃん。カチェで無理だったことが私にできるとは思えない」



 ことが勉学の話である以上、レムさんの言うことは尤もだ。

 ただし、コーデリアという少女の規格外のおバカさを考慮に入れなければ、であるが。



「コーデリアさんは最早そういう次元ではありませんのよ。尋常な手段でどうにかなるとは思えません。むしろ頭のおかしいレムさんに任せれば化学反応的ななんやかんやで上手くいく……という奇跡のような可能性を探る次元でしてよ」


「ナチュラルに私がディスられてて草なんだが」



 なお、とうのコーデリアはカッチェさんの後ろでうんうんと頷いている。尤もらしい顔をしているが十中八九話がよくわかっていないのでノリで頷いているだけだろう。



「というかフォンテのお父さんもなんでこんな直前になって言うの。時間があればもっと色々できたかもしれないのに」


「お手紙自体はたぶん中間試験の後くらいには届いていたのだと思いますわ。コーデリアさんのことだから『後で読めばいいっスぅ~』とか言ってその辺に放っておいて、そのまま忘れたのでしょう。で今日、何かの拍子に思い出して見てみて、こうして大慌てしているのです」


「すげーっス! あってるっス! なんでカチェわかるんスか!?」



 なんでと問われれば、幼馴染であるが故に培われたおバカさん専用の悲しい洞察力であるとしか。

 試験の前に手紙に気付けてよかったと思うべきか、いっそ気付かないでいてくれれば苦労することもなかったのにと嘆くべきか。

 深々と溜息を吐いたカッチェさんを同情の目で見遣りつつ、レムさんは申し訳なさそうに眉根を寄せた。



「カチェに恩を売りた――もとい力になってあげたいのは山々だけど」


「今何か言い掛けました?」


「いいえなにも。残念ながら私も手一杯なの」



 そう言ったレムさんは、自室の中でのやり取りに耳を澄ますようにジェスチャーで促してきた。

 彼女の自室では彼女の友人達が試験の勉強をしているはずであるが……?

 耳を澄ませば開けっ放しのドアを通じて、室内の会話が微かに聞こえてくる。



『……ジュリ、この問題の答えは?』


『どれどれ……これはπ=2hだぞ!』


『…………じゃあ、こっちは?』


『ふむふむ……パイ=2エッチだ!』


『………………なら、これは?』


『ぱい いこーる にー えっち!』


『なんでぜんぶ一緒なの?』


『ぱいがえっちなのは宇宙の真理だからだぞっ』



 どうやらレムの友人であるジュリアとクロエが二人で数学の勉強をしていて、ジュリアがクロエに教えているという構図のようだが、内容には不安しか感じない。

 やれやれと肩を竦めるレムさんと、頭痛を感じたような気がして額を押さえるカッチェさんを他所に、室内の会話はなおも続く。



『ジュリ……まじめにやって?』


『わたしは真面目だぞ。クロちゃんのためならなんだって、手取り足取り教えてあげるぞ!』


『……勉強に足は、使わない』


『そんなことはない。足でできることだってたくさんあるんだ。ほら、こんな風に――』


『んっ……ジュリ、手が』


『大丈夫だぞ。わたしに任せるんだ――』



 あまりに聞くに堪えなかったので、カッチェさんは開け放たれていたドアを無言で閉めた。

 カッチェさんの後ろで「足を使う勉強法があるっスね!?」と真面目に驚いているコーデリアには、決してジュリアを会わせないようにしようとカッチェさんは堅く心に誓う。



「わかったでしょうカチェ」


「ええ。わかりたくもないですが」


「私には純真無垢なクロちゃんがクレイジーサイコレズの毒牙に掛からないように監督する役目があるの。悪いけどフォンテの件は他をあたってくれ」



 そうします、と答えてカッチェさんはコーデリアの背を押して足早にこの場を離脱する。

 こちらもある意味で純真無垢なコーデリアを、一刻も早くあの特級危険物から遠ざけなくてはならない。

 立ち去る二人の背後からは、レムさんが室内の二人に割り込む声が響いていた。



『コラそこの変態!! いえすクロちゃんノータッチをまもりなさぁーいッ!!』





 ◇◇◇





 続けて二人はプリムさんの元を訪ねてみることにしたのだが、カッチェさん的にはこちらはもっと望み薄だと考えていた。というのも、中間試験の結果で女子学生の学年首位を取ってしまったプリムさんは、学院のほうから面倒ごとを押し付けられてしまったからだ。

 具体的には同級生の問題児とされる三人娘の勉強の面倒を見てやってほしい、と。

 その三人娘はコーデリア程壊滅的ではないが普通に成績不振で、しかも揃いも揃って由緒ある伯爵家のご令嬢なので無碍にも出来ず、扱いに困った学院側がこれ幸いとプリムさんを生贄にしたのである。プリムさんもなんだかんだで面倒見がいいので、断ればいいものを律儀に引き受けてしまって、現在まさに奮闘中であるはずなのだ。


 プリムさんの自室に辿り着いたカッチェさんは、勝手にドアを開けてそーっと室内の様子を覗き見る。カッチェさんはプリムさんと仲良しなので、部屋には勝手に入ってきていいよとお許しを貰っているのだ。

 廊下に居た時点で微かに声が聞こえてきていたが、カッチェさんの予想通り、室内ではちょうどプリムさんが小さな身体で声を張り上げて頑張っているところであった。



『ミリティアちゃん! もうちょっとやる気だそーよ! なんで頑張らないの!?』


『私やればできるもの』


『じゃあやろう?』


『違うのよね。やればできるのがわかってるから、やらないのよ。実力を試すから試験と呼ぶのよ。試すまでもなくわかっているのだから、やる意味がないと思わない?』


『一回でもやってから言えやぁ!!』



 問題児その一、ミリティアさん。

 とにかくやる気がない。一丁前に屁理屈を並べる知性はあるので、きっとやれば本当にそこそこ出来るのだろうけど、本当にやらない。



『フランちゃんはさぁ、とりあえず試験中に鉛筆転がすのやめよう?』


『いーでしょ別に。なにがダメなの?』


『選択問題の回答、全部鉛筆転がして決めてるでしょ?』


『うん』


『うんじゃなぁーい!! 頭で考えろぉ!!』


『アタシの頭が言うのよ! えんぴつに頼れば大丈夫だって!』


『それもう試験受けてるの鉛筆じゃん! なんなのその謎の鉛筆信仰!?』



 問題児その二、フランツィスカさん。

 とにかく不真面目。勉学というものに一切興味が無い。何故学院に通っているのかもわからない。



『ヘルガちゃんは……まずそのヘッドホンを外すことから始めようか』


『…………?』


『いやいや「はてな?」じゃなくて。そもそもダメだからね。試験中じゃなくてもダメだし試験中はもっとダメだから』


『…………』


『校則で禁止されてないのは許されてるからじゃなくて、未だかつてそんなことする輩が居なかっただけだから』


『…………ごめん、なんて?』


『それ取れやぁー!! もおおおおおおっ!!』



 問題児その三、ヘルガーさん。

 何を考えているのかわからない。マジでわからない。



「…………そっ閉じですわー」



 見なかったことにしたカッチェさんは、傍らのコーデリアに視線を向けた。



「? ……なんスか?」


「いえ、なんだか急に貴女が愛しくなってきましたわ」



 あの問題児共に比べれば可愛いものではないか。ただ単に馬鹿なだけ。

 やる気もあるし、真面目だし、考えてることだってわかる。ただ有り余るほどに馬鹿なだけで。


 まあ、ある意味それが一番厄介なのかもしれないが。





 ◇◇◇





 次はイオあたりを頼ってみようと思って二人で歩いていると、ふとコーデリアがなにかを見付けて声を上げた。



「あ! ばんちょー! おーいっス!!」



 ぶんぶんと手を振りながら彼女が駆けていく先には、たまたま通り掛かったのであろう二人の女子学生の姿があった。



「誰が番長ですかっ!」



 と憤慨気味ながらも笑って迎えてくれたのは、皆の番長ことミアベルさんだ。

 彼女はカッチェさん達と同学年の平民学生なのだが、平民だてらに誰もが一目置く、まさしく番長的存在であるのだ。コーデリアを追い掛けたカッチェさんもまたミアベルに挨拶をする。



「ごきげんよう、番長。クライエインさんも」


「クレインワースさんまで! うぅ、なんとか言ってよノエルぅ」


「諦めようよ番長」



 親友のノエルにまで速攻で裏切られて、ミアベルはがっくしと項垂れた。

 ちなみに何故そんなことになってしまったのかというと、話は入学当初にまで遡る。ミアベルという少女は平民階級だが非常に優秀なので、やっかみから彼女をいじめようとする輩が湧いたのだ。それはとある下位貴族の令嬢が率いる女子グループであったのだが、ミアベルはそれを相手取って、多勢に無勢の状況をものともせず反撃して、徹底的にぼっこぼこにして土下座させて泣いて詫びさせ全員を舎弟にしたという情け無用の伝説的な逸話を持っているのだ。



「嘘です! 嘘ですからそれ! 盛り過ぎですから!!」


「そうだよね。ミアベルがやらせたんじゃなくて、あっちが勝手に泣いて土下座して子分になったんだもんね」


「ノエル!?」



 なんと、事実は噂よりもなお壮絶だったらしい。

 いじめっ子達が自分からそんな真似をする程度には、ミアベルによって恐ろしい目にあわされたということだったのだ!



「ああもう……、それでお二人はなにかご用ですか?」



 最早訂正する気力もないのか、強引に話を進めたミアベルに、カッチェさんはこれもなにかの縁であると相談をしてみる。ミアベルもまたマシュマロチビほどではないが優秀な学生なので、教師役としては申し分ない、かもしれない。



「――――というわけですの」


「それは大変ですね!」


「たいへんなんス! 助けてほしいっス!」



 期末の結果次第では学院に居られなくなるというコーデリアの状況を聞いて、ミアベルは我がことのように深刻な面持ちで考えてくれるのだが、どうにも感触は良くなさそうである。

 力になってあげたいけど、とミアベルは情けない顔になる。



「わたし、人に教えるのヘタクソだからなぁ」


「あら。それは意外ですわね」


「中間の時もリタに教えようとしたんだけど……」


「リタさん、半泣きで『アンタはもう二度と人に教えようとするな!』って言ってたもんね」



 それを聞いたカッチェさんはコーデリアと肩を寄せ合ってひそひそと囁く。



「マルグリットさんといえば、あの半分ヤンキーみたいなオラつき少女でしてよ」


「おそろしいっス。そんなやつでもばんちょーの迫力には耐えられないっスね」


「やはり番長。ただあるがままに威圧感を振り撒いてしまうのね……!」


「あのー、聞こえてますよー?」



 冗談はさておき、実際のところミアベルは典型的な天才肌なので、出来ない人間の考えが理解出来ないのだ。

 悪意のない天才ムーブに心を折られたマルグリットが音を上げたというのが真相らしい。

 というか、その状況を横でたぶんにこやかに見守っていたのであろうノエルこそが一番の邪悪なのでは、とカッチェさんは思ったのだが、それを口に出すととても恐ろしいことが起きそうな気がして黙っておいた。

 そこでミアベルが、そのノエルへと水を向ける。



「はぁ……ノエルはどう? なにか案はないかな?」


「んー」



 ノエルはおとがいに指を当てて思案気に、



「試験本番まで殆ど時間もないし、たぶんフォンテさんはもう普通の手段じゃダメだと思うんだ」


「はっきり言いますわね貴女。否定はしませんけど」


「っスっス」


「というわけでここは、発想の転換をしましょう」



 なにやら自信ありげなノエルの姿に、否が応にも期待感が高まる。

 全員の視線を浴びたノエルは、笑顔で秘策を告げた。





「替え玉受験です!」





 ……やっぱりこの子が一番邪悪なのでは、とカッチェさんは思った。





 ◇◇◇





 時は流れ試験後。

 カッチェさんの自室には成績表を掲げ持ってくるくる踊るコーデリアの姿があった。



「やったっスー! これで学院に居られるっスー!」



 そう。ノエルの邪悪な提案によって、コーデリアは見事に危機を乗り切っていた。

 コーデリアが、というよりは実際に苦労したのは今まさにカッチェさんの眼前に居る一人のメイドであるわけだが。



「ご苦労様です。いい仕事でしたわ」



 くるくる踊るコーデリアを横目に、カッチェさんがそのメイドを労うと、彼女は慇懃に「恐悦至極」と腰を折った。

 なんでもこの学院で小遣い稼ぎに何でも屋を営んでいるとかっていう人物らしく、どれほど役に立つのかと若干懐疑的だったカッチェさんの予想を裏切り、彼女は完璧な働きをしてくれた。

 コーデリアに扮して全ての試験を代わりに受け、そして絶妙に情けない成績を獲得してくれたのだ。本当にギリギリのラインで『特補(トクホ)』を免れつつ、しかしながら点を取り過ぎることもなく、コーデリアのおつむでも頑張ればありえなくもない気がする、かも? と教員が思ってくれそうな感じの情けなーい点数を取ってきた。完璧である。

 言うまでもなくゴリゴリの不正行為だし、メイドに支払う報酬も決して安くはないが、そこはフォンテ伯爵も了承済みなので問題なしだ。結局伯爵はコーデリアが特補の不名誉さえ受けなければそれでよい(というか諦めている)ので、コーデリアがマネーで解決するという手段を選んだのであれば、それはそれで一つの成長であると無理矢理納得することにしたのだろう。



「ところで貴女、どんな依頼でも受けてくれるのかしら?」


「適性な報酬をお約束いただけるならば」



 では、とカッチェさんはなんとなくの思い付きで言ってみた。



「そこで踊ってる子に、自力で赤点回避させろという依頼は、」


「おそれながらお嬢様」



 カッチェさんの言葉に食い気味に答えたメイドは、人生の悲哀を悟ったような顔で重々しく告げた。



「ボクは、値段が付けられない依頼は最初から受けないことにしているんですよ」


「適性な報酬を設定できない、と」



 要するに。

 どれだけ金を積まれようが無理なものは無理! である。カッチェさん的にはその気持ちは非常によくわかる。


 ふむ、とカッチェさんは呟き、脳内で計算する。学院のカリキュラムは前期と後期に分かれていて、試験は中間と期末の各二回だから……

 カッチェさんは徐にメイドの手を取った。



「貴女とは、長い付き合いになりそうですわね」


「今後とも御贔屓に」



 具体的にはあと二年半で十回くらい顔を合わせそうな気がするカッチェさんであった。



登場人物紹介

・カッチェさん

 友達想い


・レムさん

 大抵狂ってる


・プリムさん

 マシュマロチビ


・コーデリアさん

 おバカ


・ジュリアさん

 クレイジーサイコレズ


・クロちゃん

 純真無垢


・ミリティアさん

 まだ本気を出していない


・フランツィスカさん

 鉛筆


・ヘルガーさん

 話を聞かない


・番長

 ミアベルさん


・ノエルさん

 邪悪


・メイド

 パーフェクトだ



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の人物紹介がなんか、プリム氏が書いたっぽくて笑える! [一言] 500話おめでとうございます。 続きを楽しみにお待ちしてます。 ぱんつネタが出るかと思って、身構えてました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ