表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪逆令嬢のうろ覚え救済論(旧題:輪廻転生って信じる?)  作者: Lynx097
八章_笑顔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

498/947

412話_side_Frederica_メルクーシン邸

・諸事情によりちょっと短め。許せっ……!



 ~"女帝の孫"フレデリカ~



「アタシが元凶、か」



 は、は、はと祖母は笑った。愉快そうに。

 そして試すような視線を私に向けてくる。



「これは単なる興味だが……何故アタシが元凶だと考えたんだい? クルエラが優秀な女なのはリッカも良く知ってるだろう。優秀なあの子がアタシの目を盗んで行動していたとは考えなかったのかい?」



 それは私の論拠を突き崩すために探りを入れているというよりは、祖母本人が言っているように興味本位の質問のようだった。

 祖母の言いたいことはわかる。クルエラさんが祖母の意にそぐわない行動を決してしない人物であるならば、彼女の行動は祖母の意に沿う行為であった。故に祖母の思想は現在の事態を是としている。ここまではいい。

 だが、だからといって祖母がその思想を表出していた根拠にはならないのだ。

 即ち、クルエラさんが祖母の秘めたる思想を感じ取って、勝手に行動していたという可能性。そしてクルエラさんは優秀であるが故に、祖母にすらその行動を悟らせなかったという可能性。



「簡単な話だよー」


「ほう?」


「クルエラさんは確かに優秀。だけどー、おばあちゃんはもっと優秀だもん」



 そう。それだけのことだ。

 私の言葉に祖母は意表を突かれたようにきょとんとして、それからやにわに愉快気な笑みを深めた。

 ウチのクランは大所帯だ。流石に末端の隅々までを把握するのはいかに女帝と言えど不可能だろう。だから祖母の目を盗んで蠢動していた輩が厳然と存在していることは否定出来ない。

 しかしながら、だからとて、祖母が自ら認め、幹部として選出した人物の行動を把握出来ていないなんて事態が起こり得るだろうか。言い換えれば、女帝アウグスタが、腹心であるクルエラさんに裏切られるなどという無様を晒すような人間だろうか。


 答えは一つ。

 あり得ない、だ。


 結局のところ、クルエラさんが黒であるという情報が出揃ってしまった時点で、私の中で結論は出ていた。

 祖母は彼女の行動を把握していて、それなのに止めようとしない。

 止める気がない。

 クルエラさんは自分自身のために主体的に行動しない人間だから、つまり元凶は彼女自身ではなく行動原理を担う祖母なのだ。



「それで? アンタはその元凶をどうするつもりだい。ぶちのめして無理矢理世代交代でもするのかい?」


「流石に、今の私がおばあちゃんに勝てるとは思ってないよー」


「アタシゃそうでもないと思うけどね。まあいい」



 ならばどうする、と視線で促され、私は口を開く。



「何故?」



 と一言だけ。

 私がこうしてここに立っている理由はこの一言に集約されているのだ。

 私は確かに祖母を止めるつもりで動いてきたが、別にそれは彼女を無理矢理に力づくで制止するという意味ではない。祖母がなにを思ってこのような真似をしているのかを理解し、武力に依らない解決方法を模索したいのだ。

 祖母が、理由もなくこんなことをする人ではないと信じているから。


 祖母がやっていることを一言で表現すれば、それは『対立煽り』である。

 腹心のクルエラさんを使って、少々頭の足りない末端のクランメンバーなんかを煽動して、男女間の対立の火種を作る。そうして生まれた小さな、しかし無数の火種に、祖母が大きく息を吹き込んで大火へと育てているのだ。男性討伐者の横暴な行為に憤り激昂する女帝、という役柄を演じて女性討伐者達の攻撃性を煽りに煽ることで。

 それがわかったところで、その結果として祖母が何を得るのかが、さっぱりわからない。

 端的過ぎる私の問いに、祖母もまた端的に答えた。



「復讐さね」


「復讐?」



 一体何に対する復讐なのか。

 そして何故男女間の対立を煽ることが復讐になるのか。

 首を傾げることしか出来ない私の前で、祖母は机に頬杖をついて静かに語った。



「ヴィクタ達の死に対する復讐さ」


「ママの……?」



 祖母がヴィクタと呼ぶ相手は一人しかいない。彼女の愛娘であり私の実の母であるヴィクトリアのことだ。達、ということは母だけでなく父のことも含んでいるのだろう。

 両親は今から十年程前に黒い森で魔物に襲われて命を落としている。祖母の言葉が彼等の命を奪った相手への復讐を意味しているのだとすれば、つまり彼等を殺めた魔物を討伐したいという意味であろうか。

 私がそう問うと、祖母は小さく鼻で笑った。



「勿論、違う。ヴィクタ達が死んだのは人間のせいだ」



 祖母の言葉には咄嗟に反応せず、私は慎重に吟味する。

 これが意外性のあるカミングアウトかというと、実はそうでもない。というのも、両親の死には些か不審な点が散見されると一部では言われていたからだ。当時ただの子供だった私は詳しく状況を知り得る立場にいなかったし、今となっては調べようもないことが多い。確たる論拠があるわけでもなく、噂話程度の信憑性に過ぎないものだというのに、両親の死後十年が経った今でも風化しない。

 その理由はわかりきっていて、つまり祖母と『赤原同盟』の存在が、ある意味で噂の証人であるからだ。

 両親が存命の頃はごくごく小さな身内クランでしかなかった『赤原同盟』が、現在のような討伐者社会のパワーバランスの一角を担うまでに躍進したのは勿論祖母の手腕とカリスマが為せる業だったのだろうけど、そもそも何が祖母にそうさせたのかという話だ。

 両親の死には当時の男尊女卑的思想が大きく関与していて、増長した男性討伐者の横暴の結果として彼等は命を落とし、それに憤った女帝が現在の『赤原同盟』を創り上げて女性討伐者の地位向上を図った……というのが巷で最も有力な予想である。


 両親を殺した真犯人とも言える人間が存在していて、その人物に対する復讐のために祖母が今回の件を起こしたのだ、という説には些か無理がある。

 たかが一個人に対するものとしては、祖母の扇動は多くを巻き込み過ぎているからだ。

 討伐者ギルドそのものを舞台に醸成された対立構造は、最早無関係な者など居ないと言っていいくらいに深刻化している。


 逆に考えてみて、そうまでしなければ相対出来ないような存在が祖母の復讐相手だとすれば。



「もしかして、おばあちゃんは『男性討伐者そのもの』に復讐するつもりなの……?」



 祖母が、両親の死を間接的に生み出した風潮そのものを憎んでいるとしたら。

 男尊女卑という思想そのものを殲滅するつもりだとしたら。

 乱暴極まることではあるが、男性討伐者すべてを根絶やしにするというのは一つのアンサーだ。無論、可能かどうかはさて置いて、本当に根絶やしにしてしまったら色々なところで弊害が出てくるだろう。

 恐ろしい想像に身を震わせる私の思考を遮ったのは、再び大笑した祖母の声であった。



「は、は、は! ちぃとばか薬が効き過ぎたかね。いくらアタシでもそこまでしないさ」


「そうかなー? 私はおばあちゃんならやりかねないと思うけど」


「別にアタシゃ男共に個人的な恨みがあるわけじゃないよ」



 へ? と私は目を丸くする。

 およそ祖母のイメージからは出てくるはずのないあっけらかんとした物言いだったからだ。



「おばあちゃんって、男嫌いじゃないのー?」


「だったらヴィクタもアンタも生まれてないさね。傑物は男でも女でも好ましいし、愚物は男でも女でも汚らわしい。それだけのことだろう」



 当たり前のように言い切られてしまって、私はアホみたいに呆けることしか出来ない。

 つまるところ、あれだけ烈火のように男性排除を唱えていた祖母の姿は、周囲にそう見せるための演技でしかなかったということだ。

 すぐに納得するのは難しいが、まあそれはよいとしよう。だが、それをよしとした時、結局元の疑問に戻ってくる羽目になるのだ。



「だったら、おばあちゃんは一体『誰』に復讐したいの?」



 問い掛けに、祖母は隠す気もなかったのか、実に何気なく答えてくれた。





「ブラッドフォード伯爵家」





 あまりにも予想外の言葉に、私は理解に数瞬を要した。



「領、主……?」


「そう。このロイエンタールの街を擁するブラッドフォード伯爵領……それを治めているクソッタレお貴族様さ」



 それが意味するところとは、つまり。



「パパとママは、伯爵家に殺されたの?」


「そうさ。そして奴等はヴィクタ達を死に至らしめておきながら、裁かれることもなく、今ものうのうと優雅に生きている」



 自分でもわけのわからないショックにやられて、私は思わずその場に崩れ落ちた。

 毛足の長い絨毯の上に座り込む私を、祖母は強く燃えるような瞳で見遣る。

 瞋恚の炎を燈した、私の良く知る女帝の眼だ。



「いいかいリッカ。アタシの目的を教えてやろう」



 呆然と見上げる私に、祖母は遂にそれを告げた。





「アタシはね、このブラッドフォードを火の海にしてやりたいのさ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「伯爵家をぶっ潰したい」→「領邦を火の海に変える」ってっ事は。 伯爵家の痕跡をほぼほぼ消去したいって事ですかね。 良い感じに狂気に浸かってますね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ