補完[救い-10]
この部屋は今日も静かだ。
物言わぬドルチェと、彼女を見ているラクス。そんな二人を更に見守っているケイ。この三日間、変わらずに繰り返された状況であった。
『剣の誓い』に一方的に世話になっている手前、せめて少しでも役立とうと思ってケイはラクスの世話役を買って出たわけだが、今朝もケイが彼女の部屋を訪れると、やはり彼女はドルチェに会いたがり、そして同じ光景が繰り返される。
最初こそケイもラクスに気を遣ったり、話し掛けたりもしてみたのだが、あまりにも反応に乏しく、またラクス自身が望んでいないことがどうしようもなく察せられてしまったので、今では黙って彼女の付き添いをするだけにとどめている。ケイとてラクスばかりにかまけているわけにはいかないので、こうして少し様子を見たら立ち去り、また一定時間後に様子を見に来ることにしていた。
正直を言えば、今のラクスに世話役が必要かどうかは、微妙なところだ。
四肢を失っている彼女は単身では何も出来ないに等しいので、何をするにも他者の補助が必要だ。それは間違いない。
しかし、きっとラクスは既にそれを求めなくなっている。生きる意志がなくなっているのだ。ケイが何かをしてもされるがまま、唯一の望みがドルチェに会いたいということだけで、それ以外は誇張ではなく本当に何一つとして望まない。ケイが食事の世話をしようとしても、殆ど喉を通らない。たった三日で目に見えるほどにやつれてしまったし、このままでは遠くない未来に、最悪の結果が訪れるだろう。
ケイにとっては、複雑な心境を抱かずにはいられない相手だ。
ラクスも、ドルチェも。
ケイ自身はともかくとして、大事な友人達を傷付けられた憤りはあるし、今も隔意が無いとは言い切れない。
でも、だからと言ってこの有様は、悲し過ぎる。
これでは、恨みをぶつけることも出来ないではないか。
ドルチェは最期の手紙でラクスに『生きて』と望んだ。それをラクスに伝えたのはケイだ。
だけど今、ラクスはその純粋な願いを裏切ろうとしている。いや、生きる意志を失っている以上、既に裏切っていると言ってもいい。
目の前で致命的に進行していく悲劇に対して、ケイは何も出来なかった。
ケイは、何も言う資格がない。そのことに気付いてしまったから。
何故ならば、目の前のドルチェとラクスの姿は、ともすればケイ自身と友人達の姿であったかもしれないからだ。自らを犠牲にしても、大切な人に生きていて欲しい。死してなお、大切な人には生きてと望む。
ドルチェのその行いが、呪詛に侵されて自刃する決意を固めていたケイのそれと、一体どこが違うのか。
ケイがこうしてラクス達を見守る側に立っているのは、きっとほんの些細な運命の悪戯に過ぎなかったのだ。もし、ケイが決意の通りに自刃していたとしたら、リュウやリンやダイに、今のラクスのような顔をさせていたのだと、どうしようもなく気付かされた。皆のためを想っての決断だったはずなのに、それが実はどうしようもなく自分勝手な自己満足でしかなかったのだ。
自分がここに居ても何もしてあげられることはない。そう判断したケイは静かに部屋を出ようとするが、その前に新たな入室者があった。
「邪魔をする」
とぶっきら棒に言って入ってきたのは、白衣のようなローブを羽織った小柄な男性だった。その後ろにはこのクランハウスの主である英雄伯シリウスの姿もある。
小柄な男性はロイドという名で、スレイがケイに提案したところの『義体に関する見識を有する技術者』その人である。一応、ケイ達がここに世話になることになった際に、顔合わせ程度に紹介されているので、知らない相手ではないが今のところ殆ど交流はない。
ロイドは室内のドルチェ、ラクス、ケイと順番に視線を巡らせ、不機嫌そうに顔を顰めた。
ちなみにケイは少々の心境の変化もあって、このクランハウスの中では顔を隠さずに生活している。『剣の誓い』は当たり前だが魔物を狩って生計を立てている人間の集団であるので、魔物化してしまったケイのビジュアルは相応の反発を受けるだろうと覚悟はしていたが、まあまだ三日であるし、あまり他の人間と関わる機会もないので現時点では問題らしい問題にはなっていない。
なおロイドはケイの顔を見ても表情を変えることはなかった。元から不機嫌そうな顔がそのまま不機嫌そうなだけで、ケイは彼がどういう心境で居るのか全然判断がつかなかった。
「あの……?」
いきなり現れて何を言うでもないロイドと、いきなり人が増えても無反応なラクスに挟まれて、居た堪れないケイが戸惑いの声を上げると、ロイドについてきたシリウスが仕方なさそうに口を開いて説明してくれる。
どうやら彼等がやってきたのはドルチェの弔いの準備をするためらしい。当然だがドルチェの遺体をいつまでもこのまま置いておくことなど出来ない。然るべき方法で弔ってやりたいが、そのためには義体を取り除く必要があるそうだ。
そうしなければ弔えないというルールがあるわけではなく、例えばケイの故郷で言うところの死に装束のような、どちらかというと風土的な理由らしい。
シリウスがそれを説明した後に、ロイドがラクスのほうを見て、一言だけ問う。
「構わないな?」
もしかして説明を聞いていないのではと思ってしまうくらいには反応のなかったラクスだが、無反応なだけでちゃんと聞いていたらしく、ロイドの問いにはちゃんと答えを返した。
「宜しくお願いします」
小さな声でそう言い、それから続けて、
「私も、ここで見ていてもいいですか?」
「……別に構わんが、あまり気分のいい光景ではないかもしれないぞ」
「はい。それでも」
要するに、ドルチェの遺体を半ば解体して義体を分離しようという試みなのだ。おそらくロイドとて死者の尊厳に配慮はしてくれるつもりなのだろうが、ドルチェを想うが故にラクスには辛い光景になるかもしれないと忠告してくれているのだ。
それでも、と静かに頷いたラクスに、ロイドはそれ以上を言うことをやめたようだ。
ケイは、少しだけ穏やかになったように見えるラクスの表情を見て、悟ってしまった。
きっと彼女は、これを最期にしようとしている。ドルチェが安らかに眠れたことを見届けさえすれば、それでラクス自身の役割もまた終わったことにしようと決めているのだ。
ラクスのその機微にはロイド達も大なり小なり気付いたようで、ロイドは口をへの字に曲げ、シリウスは拙そうに目を細めた。しかし、それでもシリウスは最終的にロイドにゴーサインを出した。ドルチェを弔うことがラクスの生きる意志を決定的に終わらせてしまう可能性があるのだとしても、結局避けては通れないことなのだ。
「では始めるぞ」
ロイドはベッドの傍らに立ち、片腕を伸ばしてドルチェに手を翳す。彼の手は装飾の施されたグローブに覆われていて、手の甲の上には光り輝く円盤状の構造体が浮かんでいた。ケイの魔物化した視界は、その構造体が膨大な数の魔法モデルの集積体であると見抜く。おそらく、高度な魔法具であるマギアドライブだ。
そのドライブから伸びた輝きが、ロイドの手を経由して、幾筋もの光の帯となってドルチェの身体に降り注ぐ。
「まずは構造把握だ。この少女の身体に占める義体の割合を物理的に把握する」
ぶつぶつと呟くように告げられる言葉は、傍らで見守っているラクスに対する説明であったのだろう。傍目には何をしているのかわからない状況に不安を感じないように、という気遣いが感じられる程度には説明口調の独り言だ。
ずっと不機嫌そうな顔をしているので気難しい人なのかとケイは思っていたが、意外と気遣い屋だったりするのかもしれない。
ロイドは翳したほうとは別の手に術理的な端末を呼び出し、そこに高速で情報が羅列されていく。通常の言語による文章ではなく、魔法言語と呼ばれるものだ。
「……この義体を設計した技術者は技術者としては天才的だが、倫理観というものは搭載されていないようだな。肉体との親和性は驚嘆に値するが、これを分離するのは相当に厄介だぞ」
ぶつぶつと呟くロイドの分析は的を射ている。
ケイはその技術者である修道士クロスという男を実際に見知っているので、彼に真っ当な倫理観がないことも知っているし、自身の全身を義体化していた彼の技術力が並大抵のものではないことも知っている。
黙って作業を見ていたシリウスが、気になったように言葉を発する。
「肉体との親和性が高い義体ってことは、それだけ使いやすいし、負荷も少ないってことじゃねえのか。むしろ倫理的というか、人道的だと思うが」
「何事にも限度というものがある。これは親和性が高過ぎる」
「いけねえのか?」
「主観になるから端的に言うが、例えば肉体の大部分を義体に置き換えた人間が居たとして、生来の肉体よりも義体の比重が圧倒的に多くなったならば、それは果たしてその人間であると言えるのか……という話だ」
そこに変わらぬ意志があるのなら、肉体がどうであろうと本人に違いない。と、そう言うのは簡単だが、では老いた肉体や傷付いた肉体を捨てて新たな肉体に乗り移るという行為が倫理的に正しいのかと言われると、ケイには答えが見つからなかった。
そこには相反する二つの思いがある。
呪詛の影響で肉体が魔物と化したケイは、それでも自分は魔物ではなく人間でありたいと思っている。だが、それと同時に、肉体の殆どを義体化して悍ましい怪物と化していたクロスを同じ人間であるとは認めたくないとも思っている。
「尤も、俺個人の意見を言うならば、技術の発展に倫理観が追い付いていないだけだが。カビの生えた倫理で技術を弾圧することに精を出す前に、倫理観をアップデートする努力をするべきだろうな」
いかにも技術者らしい結論で締めくくったロイドは、一つ息を吐いて端末を閉じ、翳していた手を下ろした。
たったこれだけの時間でもう何らかの見当を付けたのか、とケイやシリウスが感心するのを他所に、ロイドは何でもないことのように言い放った。
「やめだ」
え、とケイは小さく零した。
同じく咄嗟に理解出来なかった様子のシリウスであったが、すぐに顔色を変えてロイドに詰め寄る。
「なんでだ。なにか問題があったのか?」
「そうだ」
「なにか足りねえものがあるのか? だったら、」
ロイドは鬱陶しそうにシリウスを制し、眉間を揉みながら「それ以前の問題だ」と答える。
その心底から困り切ったというか、どことなく疲れた様子に、ケイのみならず、静観する体だったラクスの表情も憂いを帯びる。
三者の視線を一身に浴びて、ロイドは決定的な言葉を告げる。
「そもそも、コイツは死んでいない」
一瞬、静寂があって。
「「「は?」」」
綺麗に唱和してしまった後で、ケイ達は揃ってドルチェのほうを見た。
ベッドの上に安置されている彼女の姿は、こう言いたくはないが、とても生きているようには見えない。手足や臓器が欠損しているのは元より、何よりどう見ても血が通っていないのは肌色を見れば明らかだ。
もしかして、義体の機能の一部が生きているとか、そういう意味での、技術者的視点での『死んでいない』なのか。もしそうならばやめてあげて欲しいとケイは思う。変に希望を持たせるようなことを言うのは、ラクスがただただ可哀そうだ。
説明しろ、という圧力の乗った視線を受けて、ロイドは片手のマギアドライブを再度ドルチェの上へと翳した。
「管理者権限により接続を許可する。音声を出力――」
と、ロイドが言い掛けた瞬間であった。
マギアドライブから爆音が響く。
『なのだあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!』
そのあまりに音声に、ケイは思わず耳を押さえ、シリウスは「うるっせえ!?」と叫び、至近距離で浴びたロイドは一瞬意識が飛んだような顔になり、そしてラクスは呆然と、
「どるちぇ……?」
『ラクス!? ラクスなのだ? どこなのだ!? ドルチェをこっから出してほしいのだっ! 真っ暗なのだ窮屈なのだぁ!!』
ロイドのマギアドライブから聞こえてくる声は、間違いなくドルチェのものであった。ドルチェの身体ではなくマギアドライブを通して発声しているからか、声音そのものは彼女のものではなかったが、そのある意味特徴的な喋りは間違いなく彼女だ。ケイ自身、実際にドルチェと会話したことがあるので、彼女の口調はよく覚えている。
頭を振って音波攻撃から立ち直ったロイドは、忌々しそうに片手のドライブを見下ろし、
「少し待ってろ」
『おまえ誰なのだ! ちょ』
ぷつんっ、と無情にドルチェの音声を打ち切ってしまった。
先程までとは明らかに別種の沈黙が満ちる部屋の中で、最初に声を発したのはシリウスだった。
「つまり、どういうことだ?」
「全身の義体から齎される情報量が過多で、処理のために補助脳を増設してマルチブレイン化していたのだろう」
「お、おお王国語で頼む」
「王国語だバカヤロウ。ざっと調べた感じ、コイツの心機能が失われたのはここ数日の話ではない。おそらくはルークとの戦闘で既に心臓が致命的な損傷を負っていたのだろう。となれば血液が循環せず生身の脳機能が失われたのも時間の問題だったはずだ。それ以降のコイツは補助脳による義体の制御だけで活動していたのだろう」
ロイドは至極当然のように語ってくれているが、そもそもケイ達には補助脳という概念すらわからない。
「この場合の補助脳とは非実体な術理的オブジェクトだ。このマギアドライブと同じものと言えなくもない。物理脳と術理脳の間で定期的に相互に情報を補完しつつ、基本的には独立で思考していたようだな。一個人の中で意思決定と演算処理を分業しているようなものだ」
「よくわからんが、つまりさっき叫んでたのは、補助脳のほうのお嬢ちゃん……ってことか?」
「物理脳も術理脳も基質が異なるだけで根本的に同じものだから、どちらがどちらと区別する必要性はあまりないが、その通りだ。術理脳を稼働するためには当然魔力が必要だから、肉体及び義体の損傷状態が重度になりすぎて自前で魔力を賄えなくなり、大気中の魔力だけで自己保全を行えるようにスリープ状態に移行していた……といったところだ」
ということは。
ということは、である。
「……ドルチェは、生きているのですか?」
まだ信じきれないような表情で、縋るように問い掛けるラクスに、ロイドは仏頂面で応じた。
「だから、そう言っているだろうが」
◇◇◇
翌々日。
シリウスがロイドの研究室に様子を見に行ってみると、なんか妙なことになっていた。
『なのだー。なのだー。暇なのだー』
「…………」
ロイドが作業机に向かってなにやらやっている。これは別にいい。いつも通りの光景だ。
ただ、前回来た時は彼の横で淡々と数字を述べるだけだったマギアドライブからは、奇妙な抑揚をつけた声が垂れ流しになっている。
『あー暇なのだー暇なのだー。することないのだ暇なのだー』
「…………ッ」
『なのだーなのだー暇なのだー』
「やっかましいぞお前ェ!! いい加減にしろ!!」
ああ、苛立ちでぶるぶるしてたロイドが遂に耐えかねて発狂した。
けたたましい音を立てて椅子から立ち上がったロイドは、マギアドライブの中から退屈を主張し続けるドルチェに詰め寄る。というかシリウスの視点からはロイドが机に向かって勝手にキレているように見えて非常に滑稽であった。
「退屈なのはわかったし、暇を潰すのも構わんが、俺の邪魔をするな!」
『だってドルチェ喋ることしかできないもーん。喋るしかないもーん。ドルチェに喋る以外の暇つぶしを提供しなかったお前が悪いのだ』
「くっ、一理ある……!」」
いや認めるのかよ、とシリウスは呆れた。『くっ』じゃねえよ『くっ』じゃあ。
と、そこに口を挟んだのはシリウスが押してきた車椅子に腰掛けていたラクスである。今日も今日とてドルチェに会いに行きたいと主張した彼女に、たまたま目的地が同じだったシリウスが運転手を引き受けたのである。
「こらドルチェ。あまり迷惑をかけるものではありませんよ」
昨日とは見違えるほどに生気を取り戻した感のあるラクスに諫められて、ドルチェは声だけで『うええ』と嫌そうな反応を示した。
「これを機会と思って、貴女もいい加減に落ち着きというものを覚えてみては」
『ふーんなのだー! ドルチェ知ってるのだ。最近のラクスはぴーぴー泣き虫なのだ! 泣き虫ラクスにおちつきとか言われたくないのだー!』
ドルチェの感情的な反論に、ラクスは理性的に応じるのではなく、むしろドルチェの言を肯定するような行動に出た。
具体的に言うと、泣いた。
表情一つ変えずに、いきなり両目からはらはらと大粒の涙を零し始めたのだ。
「そうですね……ほんとうですね……すっかり涙もろくなってしまって、これでは貴女のことを言えませんね……」
腕がないので涙を拭うことも出来ず、ぼろ泣きするラクスにドルチェのほうが大慌てだ。ついでに巻き添えを食らったロイドも大慌てだ。
一人と一基は顔を寄せて小声でなにやら言い合い始める。
「ちょ、おいドルチェ、なに泣かせているんだ! なんとかしろ!」
『むちゃ言うななのだ! ドルチェになんにもできるわけがないのだ!』
「なんかあるだろ! 慰めるとか、なんか……とにかくなんかあるだろ!」
『というかむしろお前がなんとかするのだ! ほら手があるんだから、拭いてあげればいいのだ!』
「俺がか!? いやムリ無理無理ムリ!」
まあロイドにそれを求めるのは酷だろう。
学生達とのふれあいや、一時的に助手を務めたクリスティンの存在もあって、以前よりかは女性に慣れてきたように思えるロイドだが、ほぼ初対面かつ同年代ついでに美人の女性の涙を拭うような真似が出来るかと言われると、後三年くらいは修業が必要だろうというのがシリウスの見立てだ。
そんな彼等を有意義に無視して、ラクスに駆け寄って甲斐甲斐しく世話を焼くのは、今日はケイではなく何故かこの場に居たミアベルであった。
ラクスが泣き止むまで世話をして、落ち着いたのを見計らってミアベルは元の位置に戻る。シリウス達がこの部屋に来た時には彼女は既にその位置に居たのだ。
作業をするロイドの斜め前辺りで、彼の視界に絶妙に入りそうで入ってる位置で、何を言うでもなく何かをアピールする視線を送り続けていたのだ。
「んでアトリーお前はなんなんだ一体! なんでそこに居座る!? 言いたいことがあるなら言え!」
「ズルいと思うんですっ!」
「はあ?」
ならば言ってやろうとばかりに頬を膨らませたミアベルが指差すのは、紆余曲折あってドルチェを搭載する羽目になったロイドのマギアドライブであった。
「なにがだ」
「なんでロイドさんのマギドラちゃんだけお喋りできるんですか!? わたしもマギドラちゃんとお話したいですっ!」
「忘れているようだから言っておくが、お前に貸し出されているマギアドライブは試験運用品だ。そういう余計な機能を搭載するのは時期尚早――」
「いえ。多くは望みません」
ミアベルは神妙な顔で、まるで真理でも語るような重々しい語り口で、言う。
「わたしはただ、マギドラちゃんに技名とか言って欲しいだけなんですよ」
「だから……うん? なんだって?」
「わたしが魔法使った時に、剣のマギドラちゃんが技名とか魔法名とか叫ぶんですよ! めっちゃカッコイイと思いません!?」
『おお! カッコイイのだ! ろまんなのだー!』
「わかってくれますかドルチェちゃん! しかもクリスお姉ちゃんの声でとか、わたし得しかないんですけどっ!!」
盛り上がる一人と一基に、ロイドは頭を抱えて「真面目に聞いた俺がバカだった」とぼやいている。
ちなみにシリウスは車椅子のラクスが小さな声で「わかります」と呟いていたのを聞き逃しはしなかった。
「いいなー、いいなー」
『なのだー、なのだー』
その時、ストレスで禿げそうになっているロイドの元に救世主(?)が現れる。
「ちわーっす」
などと軽い感じで部屋に入ってきたのは、同じくマギアドライブの試験運用を任されている学生のレックスであった。
現れたレックスに、ロイドが光の速さで縋り付く。
「うぉわなに!?」
「頼むコーリッジ、もう一度クリスティンを派遣してくれ! コイツ等もう俺の手には負えん!!」
あのメイドの性格だと絶対、悪ノリして状況悪化すると思うよ。
シリウスはそう思ったが、それはそれで面白そうなので黙っておくことにした。




