385話_sideout_某所_昼過ぎ
寺院からそれほど離れていない路上にて、リュウは戦闘の痕跡を発見することが出来た。
周囲に民家や店舗がない、だだっ広い道だ。
わりと派手にやりあったようで、元々舗装もされていない路面は無惨に罅割れ、所々が隆起したり陥没したりしている。道端の木々がへし折れていたり、いくつかはまるで引っこ抜かれて投擲でもされたように、土の付着した根を投げ出して物悲しく横たわっていたりもする。
僅かに残るのは認識阻害系の魔法の痕跡。これだけ派手にやってもリュウ以外の者が現れていないのは、そのせいだろう。
「…………」
表情を歪めたリュウが無言で見下ろした場所には、半ばからへし折れた見覚えのある長槍の残骸。
ダイが愛用している得物であった。
周囲を見回してもダイの姿は見えず、折れた槍が放置されていることと所々に飛散した血痕を鑑みるに、おそらくここで彼は何者かと戦いになり、敗北して連れ去られたのだ。ダイは確かな実力を持つ戦士であるが、この場のまるで暴風雨が吹き荒れた後の如き惨状を生み出すような技能の持ち合わせはない。認識阻害の痕跡をも加味すれば相手が強力な魔法使いである可能性が高い。
となれば、デミであるダイが敗れてしまったのは無理もないことだ。
手早く検分したリュウは懐に手を入れて数枚の紙片を取り出した。
「式……飛燕」
言霊に魔力を籠めて告げると、紙片は独りでにパタパタと折り畳まれ、燕尾を有するヒトガタとなる。
それはリュウの手を離れて宙へと舞い上がり、そして命令を待つようにリュウの周囲を旋回する。
「ダイを探せ。開」
短い命令に従い、ヒトガタは飛翔して四方へと散っていった。
リュウはこういった細工系の魔法は得意ではないので、ヒトガタの式神によるエリアサーチも効果は限定的だ。広い街の中でダイを見付けて来させることはリュウの力量的に難しいが、こうして明らかな痕跡が残る場から、移動した形跡を辿れということであれば出来る。
そう長い時間は掛からなかった。
数分後、更に少し離れた場所で式神がダイを発見したので、リュウはそちらへと駆け出した。
リュウがダイの元に辿り着いた時、彼は道端の岩を背にして座り込んでいて、意識はあるようだった。
「――ダイ! 無事か!?」
声を掛けつつ駆け寄ると、ダイは動こうとしたようだったが、すぐに顔を歪めて脱力した。リュウが傍らにしゃがみ込んで彼の容態を確認すると、全身にそれなりの数の傷が見られるが、最も酷い負傷は右足と右腕の骨折だろう。
ただ、奇妙なことにダイの負傷箇所には丁寧な応急処置がされていた。骨折部位にも添え木を当てて清潔な包帯が巻かれている。
「一体なにがあった?」
「リュウ、今すぐ寺院に戻るんだ。俺のことはいいから。早くッ」
捲し立てるダイを宥めつつ事情を訊き出してみると、どうやら彼は案の定、教会の修道女と戦っていたらしい。修道女の目的はダイの足止めであり、もう一人の修道女が今頃は寺院に潜入しているだろうとのこと。寺院の結界の性質を考えれば、正確にはそのもう一人が潜入を果たしたのが確認出来たからこそ明確な敵対行動を取ってきたということだろう、とリュウは判断した。
「お前の相手をしていた修道女はどうなった」
「少し前まではここに居た。俺の傷を治療したのは彼女だ。きっとすぐに戻ってくる」
「なに? その傷を負わせた本人じゃないのか?」
「そうだけど、治療したのも同じ人だ」
何がしたいのかわからない、というのがリュウの正直な感想だったが、ダイ曰く、件の修道女の目的はダイの足止めで、移動のための足と抵抗のための腕を潰して武器を破壊したが、殺す気まではないので手当をしたということらしい。
リュウが見たところ処置はこの場で出来得る限り完璧と言っていいくらいには適切で、これなら安静にしていれば後遺症もなく綺麗に治るだろう。
ケイが危険な状況であることは理解したリュウだが、だからといってダイをこの場に放置していくことも憚られる。件の修道女が健在なのであれば、つまりダイは人質ということだ。治療をして、拘束するでもなく放置している辺り、どうにもそんなつもりはなさそうな気がしてならないのだが、だからといってダイの身柄を任せておくことなど出来ようはずもない。
頭を悩ませるリュウに、その時、後ろから声が掛かる。
「貴方方を害する意図はありません」
「ッ!」
リュウが刀の柄に手を掛けつつ振り返ると、こちらに歩み寄ってくる一人の修道女の姿が目に入る。
黒髪に黄緑の瞳をした、どちらかというと東方系の容姿を持つ女性だ。背が高く、手足が長い。リュウが驚くほどに気配が希薄で、能面のような無表情と合わさって、少々現実味に乏しいような雰囲気の人物であった。
教会に特有の白青金の修道服は、元々は貞淑な修道女らしく一切の露出を拒むデザインであったのだろうが、ダイとの戦闘の結果か、スカートは引き裂かれたように破れ、両袖も半ばから千切れてなくなってしまっている。ただし、その下にあるのは素肌ではなく、青黒い重厚な輝きを放つ金属製の手足であった。
一見して鎧のようにも見えるが、中に生身の肉体が入っているにしては明らかに体積がおかしい。どう見ても本来あるべき四肢を取り払って金属製の四肢と交換しているようにしか思えなかった。もしかすると、四肢のみに留まらないのかもしれないが少なくとも顔面は生身だ。
「ラクサーシャと申します。どうぞシスターラクスとお呼びください」
臨戦態勢で睨み付けるリュウに対して、まるで緊張感のない様子で名乗ったラクサーシャは、リュウの刀の間合いの外側で足を止めた。剣閃が届く範囲ではなく、魔法が届く範囲という意味での間合い。魔剣士の間合いを見切っているようだった。
ラクサーシャはその金属の腕に素朴な紙袋を抱えていた。リュウがそれを一瞥すると、ラクサーシャは疑問と捉えたのか自分から説明してくれる。
「これですか? これはミスタ・シシドにと思って軽食と水分を調達して参りました。少々遅くなりましたが、昼食ということで。細工などしておりませんので、ご心配なく」
「……わからないな。なにがしたい?」
ラクサーシャの話す言葉は流暢なタイホウ言葉なので、リュウも同じ母国語で返す。
「ミスタ・シシドからお聞きではありませんか? 私の役割は足止めにございます。そしてそれは一旦完了しております」
人形のようなヤツだな、とリュウは思った。
ラクサーシャの口振りから判断するに、彼女にとってこれは不合理な行動ではない。ダイの足止めとして彼と戦い無力化した。なのでそれはそれとして、次は負傷したダイのために治療を施し身辺の世話を焼く。例えその傷を負わせたのが自分自身であるとしても、彼女は修道女として当然の道徳的行動によって、負傷者への対応をしているに過ぎない。
独特、と表現するのも怪しい奇妙なヒューマニティである。
「つまり、俺もダイと同じようにして隣に並べるということか」
「叶うのならば、そのように。もしよろしければお名前を教えていただけないでしょうか?」
「墓標にでも刻むのか?」
「お望みとあらば、当方で死後のお世話もさせていただきますが」
嫌味も通じず、リュウは仏頂面で「結構だ」と返し、ついでに名乗っておく。
「立ち合うのであれば、少し離れましょう。ミスタ・シシドを巻き込むわけにはいきません」
「……俺としては、まったく異論はないが」
ただそれはこちらの台詞なんだがな、とリュウはぼやきを呑み込んだ。この場で戦いになれば、リュウはダイを巻き込まないように気を遣って立ち回らなければならないし、ラクサーシャはダイの存在を効果的な人質として活用出来る。
どう考えてもこの場で戦端を開いたほうがラクサーシャには有利なのだが、とうのラクサーシャから場所替えの提案をされてしまった。この奇妙な修道女がどういう性質かなんとなくわかってきた気がするリュウは、いつでも抜刀出来る体勢を保ったままラクサーシャに場を譲るように、ダイが間合いの外に出るようになる位置まで離れた。
するとリュウの予想通り、ラクサーシャはすんなりとダイの元まで歩み寄り、調達してきたものの内容を説明して手渡し、傷の具合を確認し、献身的に世話を焼いているようだった。勿論、ダイのほうは非常に複雑そうな顔である。元来お人好しであるダイのことだから、例え手足をへし折った本人であっても献身的に接されれば無碍には出来ないのだろう。
このまま放っておいて寺院に取って返したほうがいいんじゃないか、とリュウの脳裏に過らないでもなかったが、まあそれを許してくれるラクサーシャではないだろう。彼女はこなすべきことを淡々と実行しているだけで、決してリュウ達の味方ではないのだ。
ダイをその場に残して、少し開けた場所まで移動する。ロイエンタールの街は人口の多さもあって建築が密集した造りになっているのだが、中心地が賑わっている代わりに街外れになるほどに土地が余り気味の場所が増えてくる。
なのでこの辺りには存分に刀を振り回せる空間がいくらでもあって、ダイの姿が見えなくならない程度に離れた道路とも広場ともつかない場所でリュウは足を止めた。一刻も早くケイの元に戻るために、早々にラクサーシャを無力化してダイの安全を確保せねばなるまい。時間を掛ける気もなければ、無意味な遣り取りをする気もない。
リュウは腰の愛刀を鞘走りながら踏み込むと、口上もなしに一息にラクサーシャへと斬りかかった。
リュウが使用する剣術は、その名を『逢魔幻燈流』という。闇属性の魔法の素養がある者しか体得することが出来ない魔法剣技であり、その真髄は剣戟魔法と幻影魔法を巧みに織り交ぜた変幻自在の剣閃である。幻燈流を象徴する概念は『弐太刀不要』であり、初撃決着が基本にして極意と言える。
繰り出す一撃は幻燈流の奥義の一つ『逆サ彎月』。
幻燈流の魔剣士にとって、刀の鞘とは単なるケースではあり得ない。鞘とは魔力の媒介にして、剣戟の増幅装置に他ならない。その尤も基本的な使い方はずばり増速。初撃決着を極意とする幻燈流を体現する、絡繰り仕掛けの神速抜刀である。
抜刀の姿勢から繰り出す、増速された逆袈裟の剣筋はそれだけで必殺足り得る威力を秘めているが、それだけでは終わらないのが幻燈流である。雷光の如き一撃を隠れ蓑にしてひっそりと沿えるように、幻影の剣閃が放たれている。それは雷光が虚空に刻んだ影のように、あるいは水面に映る鏡写しの月のように、逆袈裟の剣閃とシンメトリな袈裟斬りを描く。幻影であるが故に視覚に映らず、しかし実体のある剣閃として致命の威力を持っている。
目に見える斬撃だけを受ければ、幻影に斬られる。
初見で見切ることはほぼ不可能と言える技なので、技自体はリュウの予想通りにラクサーシャに通用した。予想外だったのは、ラクサーシャの耐久力である。
彼女はリュウの剣戟に対して鋼の拳で真っ向からカウンターを合わせてきた。鎧そのものといえる手足を持っているのだから、斬撃にもひるまず拳打で対抗してくるのはおかしなことではないが、切っ先を滑らせて受け流すのではなく、むしろ刀を叩き折るくらいの勢いで殴り抜いてきたのだ。結果的には互いの攻撃の威力が高過ぎて弾き合い、刀の切っ先と拳の打点が擦れ違うように受け流し合うことになった。
刀を振り抜いたリュウは、それを引き戻さない限り追撃を放てないが、片腕しか使っていないラクサーシャにはもう片方の拳が残っている。それを以てして殴り掛かろうとしたところに、幻影のほうの斬撃が炸裂し、首を狙っていたそれはラクサーシャが更に踏み込んでいたことで狙いを外し、肩のあたりに直撃した。
痛み分けの結果に互いに後退して一旦距離を取り、リュウは愛刀の刀身に欠けがないかを確認しながら言う。
「……これでも一応、斬鉄剣までは履修したんだがな」
ラクサーシャの身体がどこまで生身なのかはわからないが、幻影の魔力斬撃が肩口に直撃したことで周辺の衣服が千切れ飛び、彼女の脇の辺りまでが露出している。修道女らしいといえばいいのか、いかにも色気のない下着に包まれた乳房は生身で、肩関節より先の腕がまるごと金属化しているようだった。
そして、実体の斬撃を受けた拳は勿論のこと、幻影の斬撃を受けた肩口のほうにも殆ど傷らしい傷がない。表面を引っ掻いたような跡がついているだけだ。過去に幾度となく、鍔迫り合いになれば相手の刀ごと斬り伏せてきたリュウにとっては中々受け入れ難い光景である。
それに対して、ラクサーシャは肩口に引っ掛かった衣服の残骸を取って捨てながら、無表情で答えた。
「私は手刀で鉄を斬れますよ」
「……ちなみにどこまで生身なのか訊いてもいいのか?」
「四肢の付け根までは義体化されております。なので狙うならば胴体か頭部がよろしいでしょう」
ダメ元で訊いてみたらあっさりと答えが返ってきてリュウは眉根を寄せた。
鵜呑みにすることは出来ないが、どうせ事実なのだろう。と思える程度にはこのラクサーシャという女性のことがわかってきた。
結局のところ、手足に鎧を纏った拳闘士と立ち合うのと同じだと思うしかない。ただし、並の拳闘士であればリュウは鎧ごと四肢を断ち切ることが出来るのだが、この女性は易々とやらせてくれそうにない。
「今度は、私から参ります」
地を滑るような挙動でラクサーシャが距離を詰めてくる。
重い四肢を装備しているとは思えない、滑らかで速い動きであった。
当たり前の話ではあるが、武器の間合いという点ではリュウのほうが明らかに有利である。魔法による射程延長を抜きにしたとすれば、ラクサーシャの拳が届かない距離からでもリュウの刀は届くのだ。
魔法使いの戦闘者には大別して二つのタイプが存在する。文化や流派によって呼称は様々だが、一番ポピュラーな表現は『魔術士タイプ』と『魔剣士タイプ』である。
前者はとにかく魔法のみで戦闘を組み立てるタイプの戦闘者。極端な例になると、術者自身は微動だにせず、展開した魔法だけで敵を滅多打ちにする固定砲台のような動きをし始める。
後者はリュウのように武技と魔法を複合的に運用するタイプの戦闘者。あくまで主体は極めた武技であり、魔法はそれの補助拡張に用いることが多い。
どちらのタイプにもメリットデメリットが存在しているが、ラクサーシャはそういう意味では明らかに『魔剣士タイプ』であり、リュウと同様の戦闘者である。
つまり、武技とは無関係に無軌道な魔法が不意打ちしてくることはない。魔法に武技を絡めるのは、それが適性的に高効率で強力だからやっているのだ。敢えてそこから外したところで弱くなるだけなので、普通はやらない。
要するに、警戒すべきはラクサーシャの拳。その一撃が実体の拳であろうと、魔法により拡張されたものであろうと、出かかりを見逃さなければ対処は出来る。
「――――む?」
と思ったのだが、踏み込んできたラクサーシャがリュウの刀の間合いの外側で拳を振り被るので、リュウは怪訝さを感じる。
愚直に踏み込んでも拳が届く前にリュウに斬られるだけなので当然の判断なのだが、当然そこからでは拳が届かない。となれば普通に考えれば魔法で拳打の射程を延長してくるはずだが、その兆候もない。
これがその辺のチンピラであれば迂闊にも隙を晒してくれてありがとう、と侮蔑を籠めて斬り捨てるところであったが、ダイを倒した相手に油断などするはずもないリュウは慎重になる。ラクサーシャの攻撃に対して意趣返しのカウンターを合わせると見せかけて、最初から回避するつもりで待ち構える。
無論これは、最早反射で間合いを見切るレベルに達しているリュウだからこそ可能な逡巡であって、並の遣い手ならばラクサーシャの間合いを見切るどころか、意外なまでに静かで速い踏み込みに反応すら出来ずに正面から殴り飛ばされるだけだっただろう。
そして放たれたラクサーシャの拳を、リュウは直前まで引き付けて引き付けて、危なげなく回避した。
拳の伸びた延長線上から身を逃すように仰け反り気味に避けたリュウの、眼前に突き出されたラクサーシャの金属の腕から、ガチン!と金属同士がぶつかるような音が響く。
次の瞬間、ラクサーシャの腕が伸びた。
「ぬぉ!!?」
流石のリュウも不意を突かれて声を上げる。
比喩ではなく、文字通り、拳打の勢いにそのまま釣られたみたいにラクサーシャの腕が伸びたのである。
これ以上ないくらいに驚いたリュウだが、それはそれとして、余計に伸びた分だけ伸び切った腕は隙だらけなので、遠慮なく斬らせてもらおうと刀を翻すと、その眼前でラクサーシャの腕が甲高い音を立てて回転し始めた。
「どぅおわ!!!?」
自分が見ている光景がなんなのかわからないが、とにかくラクサーシャの腕は骨格を軸にして高速で回転していた。拳打からピンと伸ばされた指先を切っ先に見立てて、腕そのものが巨大な槍のようだ。
ただし、触れれば引き込まれて挽肉にされる回転凶器である。
更に踏み込んできた彼女の腕にミンチにされる前に、リュウは反射的にラクサーシャの足先を斬り払って隙を作ろうとして、彼女は足まで金属塊であったことを思い出して断念し、無理矢理刀を引っ込めて回避行動を取る。
警戒して最初から避けるつもりにしていて正解だった。もしこちらから踏み込んでいれば今頃は肉を抉られていたこと請け合いである。
充分に距離を取ったところで体勢を立て直してラクサーシャを見ると、彼女は冷静に腕を元の形に戻していた。
ガションガションと圧が抜ける音を立てながら、ラクサーシャの片腕はゆっくり回転しながら元の長さに戻り、最後にもう一度甲高い音を立てて元通りの腕になった。元に戻ったというか、再び腕に擬態したと言ったほうが正しい有様に思えるが。
「一体なんなんだそれは」
思わず問わずに居られないリュウに、ラクサーシャは至極真面目な声音で答えた。
「ロケットドリルパンチ!でございます。飛びはしませんが」
「……すまん。なんだって?」
「ロケットドリルパンチ!でございます」
成程わからん。リュウは頷いた。
「びっくり人間だなあんた。もしかして他の手足も変形するのか?」
「多少は。ただ、もう一人のシスターに比べれば、私はまだ人体の形状を保っているほうではあります」
これ以上のゲテモノが存在するのか、とリュウは天を仰ぎたくなる。
もしかしなくても、そのゲテモノこそが今まさにケイに肉迫しているということではなかろうか。ケイの傍にはリンが居るはずだが、もう一人のシスターとやらがラクサーシャと同等の戦闘能力を有しているとすれば、どう考えてもリンには荷が重い相手だ。
「ロケットドリルパンチ!を初見で躱されたのは初めてです」
「……そんなに多くの者を沈めてきた技なのか?」
「はい。今までに二度しか使ったことがありませんが」
リュウは頭が痛くなってきた。
ラクサーシャは相変わらず無表情なので、真面目に言っているのか冗談なのかが今一わからない。ただ冗談を言う人間ではなさそうなので、内容は冗談にしか思えなくても真面目に話しているのだろう。
「以前使用した際は、自分の衣服を巻き込んでしまってあらぬ醜態を晒しましたので、まずは袖を毟らなくては使えません」
異形の腕を衆目から隠すためには袖は絶対に必要であろうから、使いどころを非常に選んでしまうというわけだ。
「欠陥武器じゃないか……」
リュウがげっそりしながら言うと、ラクサーシャは無感動に反論を述べる。
「浪漫のためならば、多少の欠陥には目を瞑るのが世の常でございます」




