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悪逆令嬢のうろ覚え救済論(旧題:輪廻転生って信じる?)  作者: Lynx097
七章_小夜啼鳥は朝を待つ

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341話_side_Luke_ちょっと前_討伐者ギルド



 ~"英雄の末裔"ルーク~



 リタとリンが喋っている間、俺はリンの兄であるダイとの交流を図ることにした。

 麗人という表現がぴったりなリンと血が繋がっているとは凡そ思えない、武骨で大柄な男だ。色白なリンとは違って肌はよく日に焼けており、程好い脂肪と分厚い筋肉を纏った益荒男である。肌に刻まれた朱色の刺青はリンと揃いなので、おそらくは民族的なシンボルか何かだ。禿頭はたぶん敢えて剃っているのだと思うが、僧侶が頭を丸めているというよりは、完全にアウトローのスキンヘッド的な印象を受ける程度には威圧的な風貌。ただ、よく見ると面立ち自体は穏やかで、双眸はむしろ少し気弱そうにすら見える。こちらの言葉が話せないことはさて置いても、先程から控えめに佇んでいる様子から察するに、どうやら周囲に気を遣うタイプと見た。



「王国語が全くわからないわけじゃないんだよな?」


「スコしなら、ハナす」



 なるほど。だったら話は早い。

 完全に意思疎通が叶わないわけでないならば、遣り様はいくらでもあるし、しかも俺には秘策があるんだなこれが。

 俺はだいぶ高い位置にあるダイの顔に意味深な笑みを向けて、徐に自分のバックパックを取り出して中身を探る。



「こんなこともあろうかと!」



 勿論用意しておりますマイソウルフードことヌードルだぁ!

 いつかにアンジュに振舞った時と変わらず、俺のバックパックには常に二つのカップヌードルが備えられているのである。これってそもそも東方の国家から輸入している保存食のはずだから、ダイ達にとっても馴染みがあるアイテムに違いない。

 そんな俺の目論見通り、ダイは目を丸くしてカップヌードルを指差した。



「らーめん!」


「お!その言葉知ってるぜ。東方だとヌードルをそう呼ぶんだろ」


「らーめん!うまい!すき!」


「だよなぁ!俺も大好物だぜ!」



 言語の壁がなんのそのだ。俺達は今確かに新たな友を得た。

 ヌードル好きに悪いやつは居ない。俺の哲学である。

 最初から多くを語る必要などなかったのだ。俺とダイはがっしりと握手を交わし、俺は友好の証にヌードルを彼へ進呈した。どことなく懐かしそうな顔で、嬉し気にヌードルのパッケージを眺めたダイは、妹へと振り返って異国語でなにやら語り掛けた。

 ちなみに女性陣は俺とダイの唐突な意気投合っぷりに驚いたような呆れたような視線を向けていた。



「え。ルークそれいつも持ってんの?」


「おう。二つな!」


「どんだけ好きなのよ……」



 流石に引くわ、みたいなげんなり顔のリタであるが、好きなもんは好きなんだからしゃーない。

 というか、



「一応言っとくけど、アンジュは大喜びで食ってたからな。ヌードル」


「なんかあたしも好きになってきたわ」


「せめて食ってから言えコラ」



 それこそコイツどんだけアンジュ好きなんだよ、っていう。

 などと言っていると、若干面倒くさそうに兄の相手をしていたリンが話し掛けてきた。



「まさかこんなところで故郷の品を見ることになるとは思わなかったよ」


「あ、これリンさんの故郷で売ってるやつなんだ?」


「そうだね。遠い異国で久方振りに目にした故郷の品がカップ麺であったことには、喜ぶべきか嘆くべきか……」


「リンは好きじゃねえのか?ヌードル」


「そもそも、私は殆ど食べたことがないんだ。嫌いではないと思うけど」



 それはそうと、とリンは言わされてる感満載の口調で俺に問う。



「これはこちらでも流通しているのかな?要は、どこに行けば買えるのかという話だが」



 ああ、ダイに訊けって言われたんだな。妹にそんなことを訊かせる程度にはダイはヌードル愛好家らしい。実に仲良くなれそうだ。

 どちらかというと呆れ気味な女性陣の理解は中々得られそうにないが。



「うーん。流通はしてねえなぁ。然るべき場所に行けば買えるけど、旅先で調達するのは難しい気がするぜ」



 ちなみに、それなら旅するクランである『剣の誓い』の俺がどうやってヌードルを手に入れているのかというと、簡単な話でクランが業者に発注しているのだ。個人規模で調達するのは難しくてもクラン規模で発注するならばその限りではない。無論、地域によるところはあるけども。

 つまり俺のバックパックのヌードルはクランの備蓄を持ち出している物なわけだ。ついでに言うと学院ではおっちゃん従者のクラークがクランから取り寄せてくれていた。



「然るべき場所、とは?」


「そうさなぁ」



 心当たりは色々とあるが、ここは一つノエルのクライエイン商会を宣伝しておくことにする。

 ウチのクランとの直接的な取引はないはずだが、ノエルのところも輸入食品を取り扱っているのはリサーチ済みである。ヌードル愛好家の一人として、常に複数の入手経路を確保しておくのは当然の嗜みだ。

 なのでクライエイン商会直轄の店舗に行けばヌードルが買えるはずだ。



「ただし、それなりに値は張るぜ」


「まあ、それはそうだろう。輸送コストがある」



 なお、お値段一個で凡そ魔物一体分である。

 そこそこの魔物を一体討伐すれば、そのスコアでヌードルが買える計算だ。なお俺が稼いだ討伐スコアの一部は最初から『ヌードル費』としてクランに徴収されているのである。

 俺は無類のヌードル好きなので値段そのものは気にならないが、普通に考えれば一食の値段としては割高だろう。リタなんかは値段を聞いて明らかに戦慄している。



「貴族の食べ物じゃないのさ!」


「いや俺貴族。てかお前も貴族だろ」



 こんな反応一つとっても、やっぱり育ちの違いというか、金銭感覚って露骨に出るよなぁ。

 というのも、同じように値段を聞いても『ふーん』みたいな顔をしていたどっかの誰かは、全然お金に困ったことがないんだろうなって。尤も、どっかの誰かことアンジュの実力であれば一晩森で活動すれば一食どころか百食分くらい稼げそうだからそりゃそうかって話でもあるが。



「ま、とりあえずそれは友好の証にやるよ。てかもう一つあるからリンにもやるよ」


「いいのか?これは忝い」



 俺がぽいっと渡したヌードルを受け取ると、リンは背負っていた雑嚢の中に仕舞った。なんだかんだで懐かしさは感じていたようなので、少しでも喜んでくれれば俺としても嬉しい。

 若干軽くなったバックパックを背負い直して大剣との位置関係を調節していると、ふと思い立った様子のリタがリンへと話し掛けた。



「ねえリンさん。例の件、ルークにも協力してもらっちゃだめかな?」


「例の件?」



 俺は一瞬考えたが、すぐに先程リタ達が話していた『学院に会いたい人が居る』のことだと察する。



「ダンクーガ小伯爵に?」


「うん。ぶっちゃけ、あたしよりもルークのほうがあの人と仲良いから」



 リン達が会いたがっている相手が学生かどうかは知らないけど、少なくともエンディミオンに滞在している人間だということは話の流れでわかるが、同時に敢えて情報を伏せていることにも気付いていた。その相手が公に出来ない人物なのか、あるいはリン達の抱える事情というのが公に出来ない類のものかはわからないが、俺としては特に詮索するつもりもなかったわけだ。とはいえ、リタが手を貸すと明言している以上、俺としても協力を請われれば応じるのは吝かでない。

 ただ、どうやらリタ曰く目的の相手は俺の知己らしいぞ。

 俺ってそもそも学院に通い始めるのが他の同級生より遅かったし、英雄伯家という立場もあって周囲からそれなりに一線引かれてる節があるので、自慢じゃないが仲の良い相手なんて数えるほどしか居ないぞ。

 まさかカシテル先輩じゃねえだろうし、わざわざ異国人が会いに来るほどのヤツってなるとヴィスコンティ家のリコ先輩か、それかプリムって線もあるか……?



「仲が良い、だって?ダンクーガ小伯爵と、彼女が?」



 すると、何故かリンは驚愕の表情を見せた。

 え、そんなに驚くような相手なのか。ますますわからん。

 リンは驚愕を無理矢理に飲み込むと、思案気におとがいを撫でる。



「ふむ……ダンクーガ小伯爵、私達は北のアシュタルテ侯爵令嬢に御目通りを願いたいのだが」


「へ?ああ、なんだプリムか」


「ず、随分と親しげに呼ぶね」


「まあ、ダチだからな。んでプリムに取り次げばいいって話なら、構わないぜ。向こうが受けるかどうかは知らねえけど」



 流石に結果までは責任持てないけど、話を通すだけならばいくらでも。どうせプリムは嫌な顔するだろうけど、いつものことだし、なんだかんだで無碍にしないのもいつものことだ。

 ところで俺がプリムと最後に会ったのは花告祭(イドフィオーレ)の最終日の展望広場でのアレだ。プリムがミリティアを殺そうとして俺が割り込んだアレ。あの時プリムはきっと本気で俺を殺そうとしていたし、俺もそんな彼女を本気で迎え撃つつもりで居た。マリア部長、もとい元部長のマリア先輩の介入で激突は回避されたわけだが、そのまま決裂して以後プリムと話す機会はなかった。

 だから今後プリムと会った時にどうなるのかはわからないが、たぶん、それはそれ、これはこれだ。俺はプリム自身に思うところがあるとか、敵対する理由があって立ちはだかったわけではないので、別にプリムとはこれまで通りの付き合いをするつもりで居る。これはきっと彼女の側も同様だろう。またプリムがミリティアを殺そうとするなら俺は本気で割って入るし、プリムは邪魔立てする俺を本気で排除しようとするだろう。でもミリティアが絡まなければ俺と彼女が敵対する理由も必要もないし、ミリティアとプリムの確執は彼女等の事情だから今のところ俺には関係ない。俺がプリムを阻みミリティアを助けるのは俺がミリティアの味方だからではなく、どちらも俺の友達だからだ。

 友達同士が殺し合う――ってか実力的に一方的に殺すことになるのを見過ごせるわけはねえだろう。


 それはともかく、俺の返答を聞いたリンは、とうとう瞳を真ん丸にした。かと思えばいきなり吹っ切れたように笑いだした。



「あははははっ!ダチ?そうかダチか!その発想はなかった!」


「いや何がそんなおもろいのかわからんけども」


「いやいや、実に面白い話だよこれは。まあそういうこともあるだろうね。他でもないマルグリットが言うことでもあるから、信じるに吝かではない」



 俺はリタに『どういうこと?』と視線で問うも、彼女のほうも困惑気味に首を傾げるだけだ。

 ついでに言うとダイもびっくりしたように妹のことを見遣っているので、どうやらリンだけにしかわからない何かの琴線に触れたらしい。

 一頻り笑った後のリンは、ここで会った最初よりも幾分か気の抜けたような顔になっていた。



「ではその時が来たら、是非よろしく頼む。もし叶ったならば、私達も貴方達に報いることを誓おう」



 それだけを告げると、リンは外套を翻して颯爽と去って行った。ダイが慌てた様子で大股に追い掛けていく姿がなんとなくシュールだ。

 俺達はというと、なにがなんだかわからない。



「なあリタ、つまりどういうことだ?」


「あたしに訊かれても」


「ふぅむ。妙な匂いのする御仁でしたが、異国人故ですかな?」


「「!?」」



 いきなり話に入って来た第三者の声に、俺とリタは揃って飛び退く。

 その声は、並んで立つ俺とリタの中間という至近距離から聞こえてきたからだ。厳密には、中間のちょっと下のほう。

 俺達が驚きと共に見ると、そこには小柄な黒い影が。



「お前は……なんで毎回心臓に悪い登場するかな」


(それがし)が悪いように言われるのは心外ですぞ。気付かない貴兄の精進が足らんのです」



 このこまっしゃくれた物言いのガキンチョの名はノアール。『剣の誓い』に所属している討伐者の一人である。

 出自の事情で正確な年齢は定かでないらしいが、凡そ十歳前後の体格に、見るからに暑そうな漆黒のローブを纏い、フードまですっぽり被って外見を隠している。フードには獣の耳を思わせる装飾が付いていて、ピンと立った二本耳のシルエットがトレードマークだ。



「ええっと、たしかノアールさん、だっけ?」



 胸元にも届かない高さにあるノアの顔に目を向けて、リタが伺うように言う。

 ノアは外ではフードを取ることがない生物なのだが、礼儀を知らないわけではないので、せめてリタに顔が見えるように少しだけフードのつばを持ち上げてみせる。クランの連中は口を揃えて『可愛らしい』と評するノアの容貌であるが、俺に言わせれば口調に似合いの生意気そうな顔だとしか思えない。



「某、ノアール・ディー・クリューガーと申す者。見知りおき願いますぞ、ベリエ殿」


「よろしく。えっと、クリューガーってことは、クレメンスさんの?」


「娘です。養子ですがな」


「あ、女の子だったんだ」


「よく間違われますが、某はメスなので、お間違いなきよう」



 そんな格好してるから間違われるんだと思うがね、俺は。

 クレメンスは結婚していないし、する気もないように見えるが、そんな彼がある時にどこからか拾ってきたのがこのノアというガキンチョであった。詳しい事情は親父達が知っているだろうが俺や大多数のクランメンバーには知らされていないので、大多数の認識はクレメンスの養女で年齢に見合わぬ優秀な密偵、といったところだ。

 そう、ノアは生意気なガキンチョだが、大言壮語ではなく本当に腕が立つのである。



「んで、アイツ等がなんか気になるのか?」


「あいや、そういうわけではありませんぞ。某は仕事がありますのでこれにて」



 呼び止める間もなく、ノアは雑踏に紛れて姿を晦ませてしまった。こうなるともう見付けられないので、追いかけるだけ無駄である。

 なんかはぐらかされた感はあるが、なんだろう。リンとダイの兄妹に何かあるのだろうか。



「変わった子だよね、あの子」


「まああれくらいアクが強くないとクレメンスの子供なんてやれないんだろうな」



 実際は、クレメンスとノアの関係性は親子というより主君と配下みたいな感じに見える。

 ノアがクレメンスのために常から方々の偵察を行い情報収集をしているのは彼女の自発的な行動だし、それがクレメンスの異常な手際の良さの支えとなっているのだ。てか『剣の誓い』の屋台骨を支えているのがクレメンスの手腕ってことは、間接的にはノアの働きがクランを支えていると言っても過言ではないのかもしれない。

 余談だが先日ミアベルが巻き込まれて最終的に親父が収拾した酒場の騒動で、その場にいた『パンドラ』所属の討伐者の名前を調べ上げてクレメンスに迅速に報告したのもノアである。

 要するにノアは優秀だ。

 しかし、てことは、である。



「妙な匂い、ねぇ」



 そのノアが言及したことには、なにか意味があるように思えてならないのだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] さも聞いてた情報と違う!といったような反応だー まるで偽情報つかまされた素人のスパイかなにかのようですなーあやしーなー さてヌードル。これも何気にあやしいアイテムですね。 わーいってゴチに…
[一言] 今話のキーワード『ダチ』。 このワードでテンション上がるリンは少年マンガ愛読者か!? 彼女の脳内では、ルークとプリムが河原で殴り合い→ダチになる妄想がダーって走っちゃったのか!?
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