302話_side_Serafina_黒い森_奥地
~"討伐者の少女"セラフィーナ~
目を開けると、わたしは知らない場所に一人で立っていた。
静かだ。
打ち捨てられた廃墟、だろうか。
礼拝堂のように見える空間だが、壁は崩れ、天井には穴が開き、床は土と雑草に侵食されている。長椅子のクッションは破れて肘掛けが苔生し、本来であれば象徴的な聖像が在るべき場所には何もない。
無惨に朽ち果てた建築はわたしの知らないものであるはずだが、何故か少しの既視感と懐かしさを覚える。
「ああ……孤児院に似てるんだ」
わたしとランディーが生まれ育った孤児院は、元は『教会』の施設だった場所を再利用して運営されていた。この風景は、あの孤児院の草臥れた礼拝堂にどことなく似ている。でも、それだけじゃあない。所々に散見される見慣れた意匠は、蔦と塵に覆われてわかり難いが、もしかすると討伐者ギルドのロビーに共通のものではないだろうか。
崩れた壁の亀裂から見える外の景色は一面の木々で、周囲は暗く、夜の帳に覆われている。
月明りが異様に明るくて、視界には困らない。
屋根が崩落して出来た頭上の隙間から月光が差し込み、宙を舞う小さな塵がキラキラと輝くのだ。
「そっか……」
直感的に理解する。
ここは、わたしそのものだ。
セラフィーナという人間を形作るあらゆる要素が織り成す心象世界なのだ。生まれ育った孤児院。足繁く通った討伐者ギルド。そして、彼女と出会った黒い森。おんぼろなのはわたしの心が貧しいから。だけれど静かで明るいのは、わたしが今、落ち着いて前を向けているからに違いない。
わたしが理解を得ると同時に、背後に人の気配を感じた。
「――――これが、キミのイデアなんだね」
振り向くと、そこには会いたくて会いたくてたまらなかった少女――スメラギさんが静かな瞳で周囲を見回していた。
何故、とは思わなかった。
彼女の存在を感じるままに手を伸ばし、そして彼女がわたしの手を掴んだ。その結果がここにあるだけだ。
わたしと彼女は一定の距離を置いて対峙した。
屋根と一緒に天井の梁が崩落したのか、朽ちた礼拝堂の丁度中央を分断するように巨大な建材が横たわっていて、それがわたしとスメラギさんの間を隔てている。腰にも届かない高さなので、乗り越えるのは手間だが不可能ではない。
でも、そうしようとは思わなかった。わたしも、彼女も。
きっとこれがわたし達の正しい距離感なのだと、根拠もなく悟っていたから。
「あっという間に昇格してしまったんだね」
スメラギさんがぽつりと言う。
彼女の赤い瞳は、複雑な感情を宿してわたしを見ていた。
「あの魔物――スコールもおんなじようなことを言ってました。有格者がどうのって」
「うん。スコールはキミを探していたんだ。私が、教えたから」
「そっか」
不思議と驚かなかった。そんな気はしていた。
ただ、そのわりには――
「わたしを探してるって風でもなかったような……?」
「それは、その、あの人は、人間を見分けるのがちょっと苦手だから……教えても覚えてくれないというか」
「あー、うん」
そういえば、スコール自身もそんなこと言ってたかも。
となるとたぶん、スコールのことをディスっていたハーティも結局同類なんだろうな。彼女達は魔物だけど、自身の外見が人間と酷似しているのだから、人型の判別がつかないわけがないと思うのだ。
つまり、彼女等は馬鹿なのだ。
もの凄く歯切れの悪いスメラギさんは、きっと彼女等の名誉のために一生懸命オブラートに包んであげたのだろう。
「でも、こんなに早く覚醒が訪れるとは思っていなかった。あのもう一人の昇格者の影響かな」
「……?」
「キミのイデアが昇格者同士の共鳴を呼んだのかも」
「ごめんなさい。スメラギさん、何を言ってるのかよく」
わたしが困惑していると、スメラギさんは瞑目して息を吐いた。
そして赤い瞳を開くと、音もなくわたしに杖を向けた。わたしは動揺も警戒もしなかった。
「私がキミの手を取ったのは、お別れを言うため」
「向こう側なんですよね、スメラギさん」
「私は最初から目的ありきでキミに接触した。だけどキミを操ろうとしたわけじゃない」
「それはわかってますよ」
選ぶのはキミ達だ、と言ってくれたのはスメラギさんだから。
「今のキミがあるのはキミ自身の選択の結果。キミが、キミ自身の意思で私に手を差し伸べたならば、それに応じる義理があると、私が決めたから手を取った」
「義理、はちょっと寂しいな」
わたしの呟きは拾うことなく、スメラギさんは言葉を続けた。
「ちゃんと『さよなら』をしないと、きっとキミ達は私を探してしまうと思った」
「そう、だね」
「うん。だからさよなら。もう一人の彼にも言っておいてくれると、助かる」
彼女は優しいのだ。
優しいから、わたしの手を無視しても良かったのに、ちゃんと明確な決別を告げに来てくれたのだ。
私と貴女の道は交わらない、と。
嬉しくて、でも悲しくて、わたしは零れそうになる涙を堪えようとする。
スメラギさんがあんなに決然としてるのに、わたしだけボロ泣きなんて格好悪いじゃないか。でも奮闘虚しく雫が零れ、せめて見られまいとわたしは俯く。
身を隠そうとは思わなかった。ボロ泣きだろうが変顔だろうが、ここで立ち去るスメラギさんをちゃんと見送るのが、わたしが彼女に返せる最初で最後の報いだと思ったから。
「それと」
「?」
立ち去る素振りを見せたかと思うと、スメラギさんがついでのように口を開く。
わたしは思わず、涙に濡れた瞳のまま彼女を見詰めた。
「キミが今、危機的な状況に置かれていることは理解している。でも、スコールもハーティも私の友人だから、私はキミのほうに肩入れすることはできないんだ。ごめんなさい」
「い、いいよ。そんなの、わたしの手を取ってくれただけで、嬉しかったから」
この瞬間に現実の時間がどうなっているのかわからないが、きっとスメラギさんがここを立ち去ればわたしも現実に戻り、またクロードさん達と共にハーティと戦うことになるのだと悟っている。なにも状況は好転していないし、もしかするとそのままスコールとハーティに殺されることになるかもしれないと、わかっている。
スメラギさんにしてみれば、むしろスコール達のほうを心配する立場であるはずだ。それこそ、この場でわたしを無力化してしまえば、それはスコール達に明確に利する行為であると、彼女が気付いていないはずがない。
だけど彼女はそれをしなかった。逆も言える。わたしがスメラギさんに勝てるかどうかは置いておいて、例えばここで彼女を無力化して人質にしたり出来れば、スコール達を退かせることが出来るかもしれない。だけど、わたしにはそんな気は少しもなかったのだ。
だからお互いに、礼拝堂に横たわる境界線を越えようとはしなかったのだ。
「私はキミに、新たに何も授けることはできない。だから、あの日の言葉をもう一度だけ言う」
「え?」
彼女は踵を返しながら、あの日とまったく同じ調子で告げた。
「必要なものは見せた。あとは、キミ次第だ」
それだけを言い残して立ち去る彼女の輪郭は急速にぼやけ始める。
そしてその細い背中が礼拝堂の入り口を潜る頃には完全に闇夜に解けて消えてしまった。
呼ぶ声が聞こえる。
「――――ナさん?セラフィーナさんっ!!」
ハッとして顔を上げると、焦燥した顔のクロードさんに名前を呼ばれていた。
改めて確認するまでもなく、危機的状況の真っ只中だ。レベッカさんはハーティと一騎打ちを強いられ、ロルフさんとクレアさんは『バード種』に翻弄されて防戦一方だった。クロードさんとヴェルナーさんはそれぞれに魔法を唱えながら魔物を捌き、起死回生の一手を模索している。
「状況わかってるのかい!?寝てる場合じゃないんだよっ!」
声を荒げるヴェルナーさんの言い分は尤もでぐうの音も出ないが、それに反応するよりも先にわたしは慌てて支援魔法の維持に意識を注ぐ。幸いというかわたしがスメラギさんと邂逅していた時間は現実では殆ど一瞬に過ぎなかったようで、支援魔法は少々構成が綻んでいたが問題なく立て直すことが出来た。
そしてその傍ら、わたしはスメラギさんが言い残した言葉の意味を考えていた。
悠長に思考に没頭出来る状況ではないので、口に出しながら確認するしかない。
「クロードさん、切り札っていうのを使えれば、なんとかなりますか?」
「わかりません。しかし反撃のきっかけにはなります」
だけれど彼が切り札とやらを使うためには、今維持している連繋魔法を解除しないといけない。同時には使えないのだ。切り札を使うためには連繋魔法が邪魔だけど、連繋魔法を失えばその瞬間にパーティーの認識共有が途切れ、その落差が齎す衝撃は各人に致命的な隙を生んでしまう。
特に前線でハーティと立ち合っているレベッカさんなどは感覚が研ぎ澄まされている状態だ。ここに生じた認識の落差は例えるならば背後からいきなり目を塞がれるとか、急に周囲の空気が薄くなるとか、そういうものに等しい。それだけの混乱を生むのだ。
連繋魔法は強力だが、その分、なくなった時のリスクが大きいのである。
「なんとか私が引き継いでみるつもりだけど、クロードよりは間違いなく精度が落ちるし、その分私のリソースは減るから火力は落ちる!」
魔法を飛ばして上空のバード種を牽制しながらヴェルナーさんが言う。
結局のところ、賭けでしかないのだ。
状況が好転するかは誰にもわからない。だけどこのまま膠着していれば遠からず破綻する。故に危険でも変化を求めるしかないのだ。
「…………うん」
わたしは一人頷き、両手を握る。
答えは出た。わたしが何をすべきか。いや、何が出来るのか。
あの日、スメラギさんが見せてくれた中に答えはあった。
「クロードさん、わたしが連繋魔法を引き継ぎます」
そう言うと、ヴェルナーさんは「はぁ!?」と素っ頓狂な声を上げたが、クロードさんは少しだけ意外そうにしたものの、動揺することなくわたしに問い返してきた。
「できるんですか?」
「できます」
「ちょっと待ちなよ!そもそもセラフィーナさん、連繋魔法を覚えていないだろう!?」
ヴェルナーさんの言葉は正しい。このパーティーに入ってからわたしの魔法を見てくれていたのは他でもないヴェルナーさんとクロードさんなのだから、わたしが使える魔法は彼等も把握している。連繋魔法は習得に適性を要するし、そもそも難度が高いので、とりあえず見送られたという経緯だ。
でもわたしには確信があった。
大丈夫だ。だって、
「クロードさん。わたしの手を取って。それだけでいい」
やり方は、あの日スメラギさんが教えてくれた。
不思議なことではない。だって彼女は知っていてわたしに接触したのだとさっき言っていたではないか。
だからわたしは、あの日と同じでいいのだ。彼女やスコール達が言う『格』というのがなんなのかわからないけど、何かわたしに人とは違うモノが備わっているとすれば、それは――
手を、繋ぐことだ。
「なるほど。セラフィーナさんを信じましょう」
「クロード!?」
「彼女は僕達の仲間ですよ、ヴェルナー。たとえ信念を別つとしても、です」
少し意味深なことを呟きつつ、しかし疑う素振りもなくクロードさんがわたしの手を取る。
その瞬間にわたしの脳裏に描き出されるのは、クロードさんが構築した連繋魔法のモデルだ。魔法モデルは上位層の術理法則を恣意的に抜粋したものだ。だから下位層である物理法則を用いて的確に伝達することが出来ない。
だけれどわたしにはそのプロセスは必要ない。
手を繋ぐこと。
それはただのポーズではない。
これは容認であり、理解であり、連理なのだ。
それぞれが、それぞれの意志で、手を取り合うということ。
その行動そのものに意味がある。物理的に手が触れ合う必要も本当はない。
わたしはあなたの手を取る。そのように、希う――――それが意識を繋ぐ縁となる。
「これは……!」
「おい嘘だろ。マジか!」
流石のクロードさんも驚きを露にし、ヴェルナーさんに至っては珍しいくらいに興奮した表情を浮かべている。
わたしがクロードさんの連繋魔法を完全な形で引き継いでみせたからだ。少しのラグもなく、そして精度が低下するどころか、わたしの異質な特性はこと『連繋』という分野に特効的な力を発揮する。
前線でレベッカさんが特徴的な気炎を上げた。
「そこねぇ!ふやぁ!!」
「なんとっ!?」
追い詰められつつあったレベッカさんが盛り返し、今までの劣勢が嘘のようにハーティを圧し始める。
まるでいきなりハーティの動きを見切れるようになってしまったかのような、劇的な変化であった。
「なんだこりゃあ、なにが見えてんだ俺は!」
「これ、セラちー、の……?」
混乱したような声を上げるロルフさんの剣が、しかしこれまで掠りもしなかったバード種の片翼を斬り落とす。その横ではクレアさんのダガーがやはりバード種の喉笛を捉えて焼き切っている。
「魔力が、魔法が、スケマティックが、見える……!」
ヴェルナーさんは笑みすら浮かべていた。
その手が紡ぎ出す魔法の構築速度が、一瞬前とは桁違いに速くなっていた。互いの速度に慣れつつあった膠着状況において、この激変は容易く相手の虚を突いた。
彼が放った高火力の砲撃魔法になす術もなく飲み込まれ、一気に三羽のバード種が焼失する。
「セラフィーナさんは、こんな世界が見えてたのか!そりゃあ魔法の上達が早いわけだ!!」
そう。わたしが連繋魔法のホストとなったことで、わたしの特異性の一端を他のメンバーにも共有出来るようになったのだ。わたしが認識共有の上位者として立ったおかげで、それが可能となった。
わたしの眼には魔法が見える。
この世界に満ち満ちている魔法の息吹が、輝く軌跡となってわたしに――そしてわたし達に理解を齎すのだ。
息を吹き返したみたいに反撃を開始するわたし達の姿に、羽ばたいて後退したハーティが首をひねる。
「これはいかんな。よくわからんが、くだらん拘りを捨てるべき時だな!なので虫けらども、全軍突撃っ!!」
おバカ故に深く考えないのか、あるいは動物的直感の為せる業か。手柄欲しさにスコールを出し抜く気満々に見えたハーティはけろりと方針を転換し、周囲を固めていたスコルピオン種を戦線へ投入してきた。
そこで自分の手で獲物を狩ることに拘泥してくれればサソリを相手にする前にバード種だけを殲滅出来たかもしれないのに、とわたしは唇を噛む。
だが、そんなわたしの肩にぽんと手を置いたのはクロードさんだ。
「よかった。僕の出番が残っていましたね」
「そうだねぇ。これでクロードの出番が無かったらダサいなんてもんじゃなかったよ」
そうだ。わたし達には『切り札』が残っていた。
津波のようにサソリが押し寄せる光景を前に、クロードさんは剣を鞘に収め、悠然と進み出る。
その細身のシルエットが、徐に魔力を纏い、輝く。
「いきますよ……――――『転神』!」
ぶわり、と魔力の輝きと共に膨らんだシルエットから、無数の何かが伸びる。
四方八方へと鞭のように撓りながら広がり行くそれは、白磁の荊であった。凄まじい速度でわたし達の頭上を越えて広がった無数の荊が、迫りくるスコルピオン種を刺し貫き、絡めとり、薙ぎ払い、吹き飛ばす。
同じく荊に狙われたハーティとバード種達は、泡を食ったように悲鳴を上げて上空へと逃れたようだった。
荊の節々に咲いた黒い花が種子を蒔き、地面へと落ちたそれらからはやはり白磁の荊が生え、尋常ではない速度で成長し、絡み合い、鋭利な棘のバリケードを築き上げた。
恐ろしい早業で完全に敵の出鼻を挫き切ってから、するすると静かに荊が収束していく。
最後に、そこには真っ白な人型だけが残る。
「く、クロードさん……?」
思わずわたしの呼びかけが疑問符を帯びたのは、クロードさんのアヴァターのビジュアルが色々な意味で衝撃的だったからだ。
まず、真っ白だ。本当に白くて、白磁としか表現のしようがないそれは石膏の彫刻みたいだ。
サイズは人間大で、元のクロードさんの大きさから変わっていないように思える。
ただ、その輪郭はどう見ても女性のそれだ。
慎ましやかだが美しい乳房と、細くくびれた腰つき、そして柔らかに膨らんだ臀部。するりと滑らかな首筋に、丸みを帯びた肩、全部が全部、溜息が出る程に美しい造形をしている。
『驚いてくれて、嬉しいです』
わたしへと振り向いたクロードさんはくすりと笑むような表情を見せたが、その口は動いておらず、意思として届いた声音は普段の彼よりもだいぶ高い響きだった。顔はちゃんとクロードさんだったが、元々女顔の彼なので、びっくりするくらいに違和感がない。
あとは、そう、荊だ。
なにより特徴的な白磁の荊。
それはアヴァターの長い頭髪であり、あるいは袖口のフリルであり、優雅に広がるロングスカートであった。彼のアヴァターには肉体と衣服の区別がなく、白一色の肢体にはまったくの境界線というものがない。シルエットは豪奢なドレスを纏った貴婦人そのものであるが、その実、肢体と一体化した無数の荊がそのような輪郭を形作っているだけに過ぎない。
ていうか、その、真っ白だから目立たないし、咄嗟に気付かなかったけど、普通に全裸なのではなかろうか。肉体と衣服の区別がないから当たり前と言えばそれまでだが、まあ彫像味が強いせいで淫靡さがないのは救いだろう。
「え?クロードさんって、実は女性?」
『男ですよ』
荊のドレスを纏ったお姫様みたいな風貌で、肩を竦める姿にまるで説得力がない。
生まれて初めて見た転神のアヴァターに遠慮なく驚いていたいところだけど、状況がそれを許してはくれなかった。クロードさんが作り上げた白磁の荊のバリケードは、徐々にスコルピオン種に食い破られつつある。
後退して様子見していたハーティ達もすぐに攻撃を再開するだろう。
『セラフィーナさん、森の中央――魔界から遠ざかる方角がどちらかわかりますか?』
「え?あっはい!」
魔界との境界線上であるここは空間が歪んでいるし、魔物に追い立てられて遮二無二移動したわたし達は当初のルートどころか自分達の現在位置すらを見失っていたが、わたしにはなんとなくわかる。
というのも、スコールから遠ざかる方向へ意識を向ければ、そこはサソリの布陣が最も密集している方向であり、即ちスコールがわたし達をそちらへ行かせまいとしているのがわかるからだ。そもそもスコールが居たのが魔界方面なのだから、逆を目指せば森の外縁方向となる。
それを説明すると、クロードさんは頷いた。
『敵中突破して退却します!皆さん、もうひと踏ん張りお願いします』
クロードさんのアヴァターを中心に、レベッカさんとクレアさんを先頭、ロルフさんとヴェルナーさんを殿として移動を開始する。わたしはというと連繋魔法を維持するポジションとなったので、比較的に一番安全なクロードさんの隣を行く。
『僕の姿を、魔物のようだと思いますか?』
クロードさんが囁くように問い掛けてきたので、わたしは彼を見る。
彼のアヴァターはある程度不定形に出来ているようで、さっきはスカートの下にちゃんと脚があったのに、今は下半身がスカートごと無数の荊となって、それで魔物を跳ね飛ばしながらうぞうぞと地面を這い進んでいる。
なるほど、中々にショッキングでクレイジーな光景かもしれない。
「魔物より怖いです」
正直なところを告げて、わたしは「でも」と言葉を続けた。
白一色で傷一つない無窮のアヴァターは、確かにデザインに不穏なところはあるものの、それを補ってあまりある程に幻想的だ。むしろ、不気味さが魅力を惹き立ててすら居る。
なので、
「とっても綺麗だと、わたし思います」
そう言うと、クロードさんは嬉しそうに微笑んでくれた。




