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悪逆令嬢のうろ覚え救済論(旧題:輪廻転生って信じる?)  作者: Lynx097
六章_宵の霊薬

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254話_side_Rx_貴族学生寮_ミリティア私室



 ~"主人公の幼馴染"レックス~



 ミリティアさんから花告祭(イドフィオーレ)の顛末を聞いた。



「勝手なことをしてごめんなさい。浅はかだったわ」


「俺に詫びる必要はないが……」



 彼女が俺の方針を無視した独自行動を取ったことを後ろめたく思っているのは察するに余りあるが、それ自体は別にいい。俺が彼女の行動を制限する権利などないし、彼女が考えた末の決断だったというのであればそもそも支持するつもりであった。無論、あまりに無謀で無意味な試みであれば諫めるだろうが、そこにミリティアさんの合理性があるとすれば否定はしない。俺の合理と彼女の合理は違うのだから。

 強いて言いたいことがあるとすれば、



「だがまあ、せめて先に言っておいて欲しかった、というのが正直なところだな」


「返す言葉もないわね。結局、貴方が察してルークを送り込んでくれなければ、たぶん死んでた」



 こうして話を聞いていて、俺はミリティアさんという女性の歪さを垣間見た気がした。今の台詞もそうだが、彼女は一歩間違えていれば死んでいたかもしれないと自分で認めているにも関わらず、そのことを酷く淡々と語るのだ。

 ミリティアさんには死への恐怖がない、というわけではない。彼女のそれは慣れに近しい感覚なのではないかと思う。彼女の前世における末期のことは聞き及んでいるが、おそらくはその経験のせいで、彼女は『死を受け入れる』という行為に慣れてしまっている。

 死にたいのではなく、死んでもいいのではなく、死んでもしかたない、と考えるのだ。

 だから今回の件はミリティアさんは自身の浅慮の結果だと思っている。浅慮の結果死に至るのは仕方がない。そう考えていることが言葉の節々から感じられるのだ。

 これが本来在り得ない二回目の人生だから、命の価値を軽く捉えてしまっている、というわけではない。


 ミリティアさんにとって、己の命の価値とは、最初から軽いものだったのだ。

 おそらくは、前の人生から。



「そこで俺が自分で助けに行ければ格好もついたんだがな」



 自省が過ぎて消沈するミリティアさんを励ます意味も籠めて敢えておどけて見せると、彼女は薄らと笑った。



「あんまり言いたくないけど、たぶんルークでも戦力不足だった気がする」


「アシュタルテさんは現時点でもそれほどに?」



 彼女が原作でボスキャラクターとして描かれているのは聞いているし、それだけの才覚を秘めている人物ではあるのだろうが、だが原作的に言えばまだ序盤の終わりくらいの時期のはずだ。現時点で既に現役の討伐者にして二つ名持ちでもあるルークの戦闘能力を考えた時、それほどの格差があるとは考え難いところだが。



「結局戦ってないからわからないけれど、少なくとも私っていうお荷物を背負って勝てる相手じゃないでしょ」


「まあ、それはそうか」


「しかも、プリムローズ一人でそれなのに、終いにはマリア様まで出てきちゃったし」



 マリア嬢か。俺にとってはわりとタイムリーな名前だ。なんせ今日一緒の茶会に参加してきたところだ。尤もそれを言うならばアシュタルテさんもそうなのだが。

 展望広場では最終的にマリア嬢とヘルガー嬢が割り込んだおかげでアシュタルテさんが矛を収めてくれたということらしい。



「個人的には、マリア様が向こうについたのが痛いわ」


「そこは疑う余地がないな」



 今日の茶会で嫌というほど理解出来たからな。なんというか、アシュタルテさんのマリア嬢に対する溺愛とでも言えばいいのだろうか。おそらく逆も然りだろう。アシュタルテ侯爵令嬢とヴァンシュタイン公爵令嬢の友好というよりは、普通にそういうのを抜きにした親友関係にしか見えなかった。

 つまり、将来的にアシュタルテさんと敵対すれば、即ちマリア嬢をも敵に回す可能性が非常に高いということだ。



「そう言えば、マリア嬢は原作続編の登場人物だったか?」



 以前聞いていた情報をもとにそう言うと、ミリティアさんの瞳がきらりと輝いたように見えた。

 これは彼女のスイッチが入った印である。俺はそのスイッチを『レガリアスイッチ』と勝手に呼称している。心の中で。



「そうよ。無印に登場してないわけじゃないけど、主要キャラとして出てくるのは続編のほう」


「ちなみに俺は続編については全然知らないんだが」



 続編に関してはミリティアさんからも本当になにも聞いていないに等しい。原作無印の展開を捻じ曲げたら、そもそも続編の物語が成立しない可能性もあると考えて、俺も特に訊こうとは思わなかったわけだ。

 ミリティアさんも方針を立てる際に必要以上の原作知識を語らないように気を付けているようだが、それはそれとして原作について語る機会があれば嬉しいのか、俺の言葉に嬉々として乗っかってきた。



「続編のタイトルは『夜明けのレガリア Secretly Sorceress』って言うんだけど」


「シークレットリィ・ソーサレス……秘密の魔法使い、といったところか」


「そうね。通称は『レガリアSS』」


「レガリアの関連作品は〇Sの略称が伝統なのか?」



 レガリアMSとかレガリアGSとか。

 素朴な疑問を口に出すとミリティアさんは『待ってました』とばかりに説明してくれた。



「良いところに気が付いたのねレックスくん!」


「どうも?」


「実は最初の頃の関連作品にはそんな縛りは無かったんだけどね、どっかのタイミングで偶然の一致を編集部が伝統にしちゃったみたい」



 ちなみに企画段階では仮称『レガリアSS』はセカンドシーズンの略だったそうで、SSという略称が先に決まっていて、そこに単語を当て嵌めて出来上がったのが先の『秘密の魔法使い』ということなのだそうな。そこをいくと、更に続編が出たとすれば『レガリアTS』になるのだろうか。実際にあるのかどうかは知らないが。

 相変わらずこの関連の話をするときのミリティアさんは異常に活き活きしている。訊いていない蘊蓄まで滔々と説明してくれるが、俺はそれを聞く時間が嫌いではない。溌剌とした彼女の表情もまた。



「時系列的には原作無印の二年後。舞台は同じく、ここ」


「ということは、主人公はミアベルではない?」


「卒業してるからね。別主人公だけど、前作キャラはそれなりに登場するからファンも安心よ」



 放っておくとここからまた無限に話が逸れていきそうなので、俺は微笑ましく思いつつも口を挟む。



「つまりマリア嬢は続編時点だと大学部生か?」


「ええ。原作無印の終わりが来年だから、SSの開始は丁度私達の学年が大学部の一年生になる。だからマリア様は三年生」


「ちなみに、ホーキンス先輩も居るのか?」


「え?ええ、居るけど、なんで?」



 なんで訊いたのかと言われるとなんとなくなのだが、今日の婚約(仮)記念であんなにも喜んでいたマリア嬢――というかアシュタルテさんの姿を見ているので、未来でもマリア嬢とホーキンス先輩が一緒に居ればいいなと思っただけだ。



「いや、なんとなくだ。話の腰を折って悪かった」


「そう……?」



 若干腑に落ちない顔のミリティアさんであったが、気を取り直した様子で話を続ける。



「で、続編におけるマリア様って、所謂『作中最強キャラ』なのよね。諸説あるけど」


「ほう。最強」


「少なくとも、レガリアキャラの強さ議論スレとかだと必ず筆頭候補に挙がるくらいには強キャラ」


「ミアベルよりも強いのか?」



 現在ならばまだしも、原作無印終了後のミアベルはアシュタルテさんの魔法資質を取り込んで『宵の魔王』を打倒せしめた本物の最強キャラだと思っていたのだが。



「そこが面白いところで、勿論ミアベル最強説を推す人も居るけど、ミアベルって続編では直接的な戦闘描写が無いのよね」


「そうなのか」


「ファンサービスで登場するし、裏で戦ってましたみたいな描写はあったけど。でほら、無印だと最終的にミアベル最強みたいな結論になりがちだけど、実はプリムローズ戦も魔王戦も相性でごり押しした感も否めないのよね」


「その両者に対する特攻を有していたからミアベルが勝ったのだという意味だな」


「そうそう。実際ミアベルって才能チートだから学べば学ぶだけ成長するって言われてるんだけど、別に好戦的なわけでもないしそっちの道に進んだわけでもないから、要は無印終了後に更に腕を磨いているのか読者目線ではわからないの」



 成程。そこに議論の余地が生まれるということか。

 例えばマリア嬢は現時点でも執行部の部長を務めたほどの実力者で、おそらく続編でもバリバリに戦闘描写がある人なのだろう。即ち疑う余地のない実力者。ミアベルは才能こそ最強だが、実際に戦闘者として強いとは限らないという論理には一理あるし、そもそも腕を磨く必要などないほどに時間魔法が反則過ぎると言われればそれもそうだ。



「ちなみにその最強スレ?ではアシュタルテさんの名前は出るのか?」


「あんまり。勿論居ないわけじゃなかったけど、彼女の場合は実際ミアベルに負けちゃってるし、シスターレイチェルにも負ける可能性があるって原作者に明言されちゃってるから」


「そういうものか」



 答えのない強さ議論はさておき、つまるところ並居る反則級の能力者の中で最強候補に挙がるくらいには精強な人物であるマリア嬢が、現時点でアシュタルテさんと昵懇の仲になっているのが脅威であるということだ。今のマリア嬢は三年後のマリア嬢ほど強くはないのだろうが、それは彼女以外の人間も同じことだ。

 ところで、俺には一つ、非常に気になることがあるのだ。



「時にミリティアさん、素朴な疑問を一つ、いいだろうか」


「勿論。なに?」



 続編が存在することはわかった。そこでもゴリゴリの戦闘描写があるということも、まあわかった。

 となると、である。



「続編では、一体なに(・・)と戦っているんだ?」



 無印の最後で『宵の魔王』はミアベルによって討伐されているはずだ。無論それで全ての魔物や黒い森が消えるとは思っていないが、少なくとも続編を謳う以上は無印同等程度かそれ以上のラスボスを設定する必要があるはずだ。それは続編という物語を構成する上で当然のことである。ジャンルががらりと変わってしまうならばまだしも、ミリティアさんの説明を聞く限りは続編も無印同様の魔法バトルものらしいし。

 いや、まあ、無印はバトルもある(・・・・・・)学園ラブコメという体だったはずなので、同様という表現は若干語弊があるかもしれない。俺が知らないだけで続編もちゃんと学園ラブコメ成分があるのかもしれないが。

 俺の疑問提起に、ミリティアさんは「あれ?」と目を丸くした。



「あ、ああ!そっか、それを説明しないとだった」



 腑に落ちた様子のミリティアさんはぽんと手を打った。

 どうやら、ちゃんと続編は続編で倒すべき敵が存在するようだ。それが喜ぶべきことかというと、全くそうは思えないが。



「続編の敵役は『魔公』よ」


「魔公、というと」



 言い伝えの『宵の魔王』の配下として、やはりうたわれる存在だ。

 魔王は王なのだから、当然臣下が存在する。魔物の公爵、即ち魔公だ。魔王同様に詳細な情報は残って居ないが、三百年前の魔王討伐において魔公はともに討たれたと言われている。実際、それ以降に魔公らしき存在が確認されたという記録はない。



「魔王は復活直後にミアベルに討たれて今度こそ消滅したけど、その力の一部を現世に遺したの」


「つまり、その力を使って魔公が復活した……?」



 俺の確認にミリティアさんは首肯し、ついでのように「後付け設定だけどね」と補足した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 強さ議論だと万全な状態が前提で議論するから諸説あるだろうけど、人間は寝てる時攻撃力も守備力も0だから戦闘能力だとオート防御と暗殺できるメンタルがあるプリムローズが攻守ともにダントツだろうなぁ…
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