第60話 それぞれの将来
翌朝、ルトルスは『闇核』回収のためにグラナと一緒に魔物討伐へと向かう。
「二人だけで大丈夫?」
シェーナは昨日のことがあったので心配になって二人の見送りをする。
「余計な心配をさせてすまない。シェーナが想像するようなことは何もないよ」
「それならいいけど……これは昼食に食べてよ」
「シェーナが作ってくれたのか?」
「いや、グラナが朝早くから作ってくれたんだよ」
塩むすびの包みと水を汲んだ竹筒をルトルスに渡すと、「ありがとう」とグラナに一言。
グラナが昼食に食べられる物を何か作れないかと頼まれたので、以前にルトルスが握った塩むすびを思い出して、それをグラナにも教えて作らせてみた。慣れない手つきで握ってくれた塩むすびはグラナの直向きな思いが詰まっている。
ルトルスは大剣を背負うグラナに瞬間魔法を唱えさせる。
移動範囲はプライデン領内に限定して、夕方までには戻ることを約束させる。
「じゃあ行って来るよ。カロとマウロに元気で暮らせと伝えてくれ」
「私からも同じく二人に伝えてね。ルトルス、私にしっかり掴まっていてくれ」
瞬間魔法が発動すると、ルトルスとグラナはその場から消えていった。
「二人共、似合っているよ」
二階ではキシャナがカロとマウロのために洋服を用意して着替えさせていた。
昨日、温泉の帰りに二人に似合う洋服を選んで買い物をしていたようだ。
「シェーナお姉ちゃん! おはよう」
「おはよう。走ったりしたら転んで危ないぞ」
元気な声で二人は二階から駆け下りてシェーナに朝の挨拶をする。
孤児院の話は温泉場でキシャナが二人に事情を説明した。
最初は嫌がっていたらしく、孤児院なら同年の子供達と一緒に触れ合えて、色々と学べる環境が整っている。この子達の成長を願いつつ、今後の人生はどうなるか分からないが、どうか幸せを築いて欲しいと切に願うばかりだ。
「じゃあ行こうか」
キシャナが二人の手を繋ぐと、シェーナはその様子を背後から眺めて孤児院へと足を運ぶ。
リィーシャに紹介された居住地区の奥隅に佇む孤児院は花壇や遊具が並べられて子供達が元気良く遊んでいる。
「ようこそ、おいで下さいました。私は当院長を務めております。シェーナさんとそちらのお二人がカロ君とマウロ君ですね。リィーシャ様から話は伺っております」
施設から院長が顔を出すと、シェーナ達に挨拶を交わす。
シスターのような風貌の院長は元々リンスル聖王国の出身で布教を広めるために、プライデンで孤児院を開いているリンスル教の信者だ。戦争孤児を引き取って、養子に欲しい夫婦や跡目が欲しい貴族の者の受け皿になることもあるらしく、その場合は院長とリィーシャが面談を行って適性があると認められれば引き渡すことになっている。運営資金はリィーシャが提供しているので、一部の商業ギルドが子供達を自立支援して冒険者や商人の育成に力を注ぎ、子供達が望めばリンスル教の神官や神官戦士になる道もあると言う。
本当はルトルスやグラナも孤児院に出向きたかったが、リンスルの人間と関わるのは避けたいと断られた。
「シェーナは私です。引率でもう一人の者はキシャナと申します」
「それは失礼しました。立ち話も疲れますでしょうから、奥まで……」
「いえ、私達は早々に立ち去ります。どうか二人のことをよろしくお願いします」
シェーナは深く頭を下げると、中腰でカロとマウロに別れの言葉を告げる。
「今日からカロとマウロのお家はここになるよ。友達と遊んだり、勉強したりできるところだ」
「うん……」
「そんな不安そうな顔をするな。楽しいことや辛いことがあるかもしれないけど、二人ならきっと乗り越えられる。お姉ちゃんがカロとマウロに嘘を付いたことはないだろ?」
「……うん! ありがとう。シェーナお姉ちゃん、キシャナお姉ちゃん」
カロとマウロはシェーナ達にお礼を言うと、孤児院の子供達と混じって打ち解けている。
院長はシェーナ達に軽く会釈すると、子供達に新しく仲間になったカロとマウロの自己紹介を始める。
「俺も二人に顔向けできるような人生を歩まないとな」
「シェーナのお姉ちゃんらしく振る舞っていた感じは好きだったけどな」
最近気付いたことなのだが、ダークエルフ特有の長耳を上下に揺らしている時は本音で喋っている。興奮したりすると、長耳をピンと立てて感情の起伏が分かり易く表れている。
上下に揺らしている長耳のことをキシャナに教えてあげると、頬を赤くして長耳を手で抑える。
「お前……私の耳でそんなことを分析していたのか!」
「カロとマウロの世話をしていた時も長耳は揺れっ放しだったぞ」
「……サリーニャじゃないけど、シェーナは一回『くっ殺』女騎士にしないと」
キシャナは長耳を直立に立てながら、シェーナを追い回すようにして孤児院を後にした。




