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第59話 償いは笑顔にすること

「……グラナはルトルスのお姉さんに手を出したことを後悔しているの?」


 シェーナは静かに問いかけると、グラナはルトルスを直視して答えた。


「勇者と再契約を結んでからは後悔しているよ。カルラは殺されたとリィーシャから聞かされて償いもできなくなってしまった。私は自らの罪を償うために、ここの宮殿で深く鎮座していた。それから面白い店を紹介すると言われて、ルトルス……君と再び出会った」

「やめろ! そんな話は聞きたくない!」

「君と言う存在が、罪を償う機会(チャンス)を与えてくれた。私は死んで詫びることはできないが、死ぬ覚悟で罪を償うつもりだ」


 グラナはルトルスに深々と頭を下げると、ルトルスはグラナの胸倉を掴んで壁に叩きつける。

 シェーナが間に入って止めに入るが、ルトルスはお構いなしに口を開く。


「私は大陸の人間を不幸にした魔王の末席だった。シェーナにこの身を捧げることを誓ってからは人々を幸せにするために私の第二の人生が始まった。お前も姉カルラや大勢の者を不幸にしたと自覚があるのなら、ここで働いて人々を笑顔にしろ。それがグラナ……お前の償いだ」

「……ああ、必ずやり遂げるよ」

「それとシェーナの姿でいるのはやめろ。これからはカルラ・ライヤーの姿で自分が犯した罪を忘れないためにいろ」


 ルトルスは胸倉を掴んでいた手を離すと、グラナはシェーナの姿から短髪の青髪でどことなくルトルスに雰囲気が似ているカルラ・ライヤーに変身をする。

「……これでいいかい?」

「ああ、絶対に私の約束を破らないでくれ」


 ルトルスは二階の自室に戻ると、しばらくそっとしておくことにする。

 グラナは無言で頷くと、正面扉が開いてサリーニャが夕食にやってきた。


「ごめん。営業の時間が終わっているのは知っているけど、何か夕食を作ってくれないかしら?」

「サリーニャか。食材は……あまり残っていないが、あり合わせの料理になってしまってもいいかい?」

「ええ、全然平気よ。無理をお願いしてるのは私だからね」


 慌ててシェーナは冷蔵庫の中を確認すると、作れる料理が限られた物になってしまうことを伝える。

 シェーナはグラナを手招きすると、台所に立たせて料理を教えていく。


「私は料理に関して未経験だが、平気なのか?」

「大丈夫。グラナが扱う魔法に比べたら簡単だよ」


 グラナに冷蔵庫から必要な食材を取ってもらうと、攻撃魔法が使えないグラナの代わりにシェーナは魔法で火を起こす。フライパンにゴマ油を引いて、豚バラ肉を軽く炒めた後に人参、玉ねぎ、白菜を入れていく。そこに鶏ガラスープと醤油を加えて火を通していく。煮詰まったら片栗粉を混ぜて、とろみがついたところで冷や飯を入れた丼(どんぶり)にフライパンの具材を入れていく。


「それで完成だよ。初めてにしては上手にできたじゃないか」

「シェーナの教え方が上手だったからね。これは何て言う料理なんだ?」

「これは中華丼だ。異世界転生する前に、前世の世界で食べられていた料理だ」

「へぇ……シェーナ達がいた世界は、なかなか美味しそうな料理で溢れていたんだ」


 感心するグラナはフライパンに残っている具材を一口試食して「美味しい」と返答する。

 グラナは中華丼をサリーニャのテーブルまで運ぶと、二人は視線を交わす。


「……いただきます」


 サリーニャは食前に手を合わせると、スプーンで中華丼を食べ始める。

 今日のサリーニャは妙に口数は少ないように見えるが、余程お腹が空いていたのだろうか。

 冗談の一つも言わずに、あっという間に平らげる。


「とても美味しかったわよ。これは夕食代ね」

「ああ、お釣りを……」

「お釣りはいらない。そのまま取っておいてよ」


 金貨一枚をテーブルに置いて、サリーニャは足早に正面扉から出て行く。

 さすがに金貨一枚は悪いと思ったシェーナは後を追ってサリーニャを引き止めようとするが、周囲には誰もいなかった。


「あれ? どこに行ったんだ?」


 見渡しが良い場所なので、こんな短時間で見失うはずはないのだがシェーナは首を傾げて店の中へと戻ると、遠目から様子を見守っていたグラナはシェーナに耳打ちをする。


「本当にここは面白い場所だよ。私は君達に出会えて本当によかった……」


 シェーナはその真意についてよく分からなかったが、グラナは吹っ切れた様子で残された丼(どんぶり)を片付けた。

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