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第58話 二人の過去

 食堂にはキシャナが作った料理をカロとマウロがテーブルに座って食べていた。

 キシャナはシェーナ達を迎え入れると、カロとマウロの処遇が気になっていた。


「おかえり。首尾はどうだった?」

「ああ、リィーシャさんが運営する孤児院で二人を預けることになった」

「そうか……それなら安心できそうだね。二人には私からその事を伝えるよ」


 キシャナにとって、奴隷と扱われて救助された二人を自分の境遇と重ねて苦労と絶望は誰よりも理解していた。ダークエルフの故郷で過ごした時間はキシャナにとって地獄であり、運よく逃げ出せてプライデンに流れ着けたのは幸運だった。

 キシャナは中腰になって、カロとマウロの目線に合わせて話す。


「食べ終わったら、キシャナお姉ちゃんと温泉に行こうか」

「うん!」


 カロとマウロが元気な声を揃えると、キシャナは二人の頭を軽く撫でる。

 元々、前世からキシャナは子供の面倒を見たりしていたので手慣れている。

 食事を終えた二人はキシャナの手を繋いで、温泉場へと向かった。


「ふぁぁ……二人共、戻って来てたのか。そのお揃いの防具はどうしたんだい?」

「少し寄り道して、買い物をしていたんだ」


 二階の自室からグラナは目をこすって姿を現す。

 どうやら仮眠を取っていたようで、シェーナの姿をしたグラナは寝癖が目立っていた。


「寝癖がひどいな。洗面台で髪を整えてあげるから来てくれ」

 シェーナは洗面台でグラナの髪をブラシで梳(と)かしてあげると、自分の寝癖を直しているようなものなので、苦労せずに手際良く髪を整えていく。

 そして桶に水を汲んで洗顔すると、シェーナはタオルで顔を拭いてあげる。

 眠気が吹き飛んだグラナはシェーナに感謝する。


「わぁ、ありがとう。シェーナは魔法使いの才能があるよ」

「そんな大袈裟なものじゃないさ。その姿だと自分がだらしないように見えるから、これから身だしなみはグラナで整えてくれよ」

「……善処するよ」


 シェーナはブラシをグラナに渡すと、どことなく歯切れの悪い返事だ。

 シェーナとルグラナは食堂のテーブルに座ると、ルトルスを交えて三人で話を始める。


「私とグラナ……魔王の過去について話そうか」

「奇遇だね。私もルトルスの過去についてシェーナに話そうかと思っていたところだよ」

「二人は仲が悪いように見えるけど、ガフェーナで何があったの?」


 シェーナは単刀直入で原因を二人に訊ねる。

 しばらく二人は沈黙していたが、最初に口を開いたのはルトルスだった。


「ガフェーナは魔王復活前からリンスルと戦争状態だったのは知っているだろ? 私の元上司であるディアン枢機卿は魔王の復活を成功させて、戦況を一気にひっくり返した」


 それを起点にガフェーナは五大国と勇者一行と戦争状態に突入し、結果的に魔王は勇者一行によって倒された。

 魔王を復活させたディアン枢機卿は、『支配の契約』を結んで自分の配下に置くことに成功させた。魔王は身辺の世話をさせるために、ルトルスの姉であるカルラを指名した。ディアン枢機卿直属の暗黒騎士で団長を務めるカルラにとって、メイドや召使いがする仕事をさせられるのは誇り(プライド)が許せなかったはずだ。


「どうしてルトルスのお姉さんを指名したの?」

「……当時の私は寝起きで復活させられた上に、望まぬ従属を強いられて機嫌が悪かった。ディアンが腹心の部下に置いていたカルラで憂さ晴らしをしようと考えたのさ」


 シェーナはグラナにカルラを指名した理由を聞くと、まるで子供の考えそうなことだった。

 当然カルラは拒否したが、上司であるディアン枢機卿の命令も下って任務を遂行することになった。


「最初は嫌々で仕えていたが、ある時カルラは私に勝負を持ちかけてきた」


 自分より弱い者に仕えるつもりはないと言う意思表示だったのだろう。

 勝負は至って簡単で、どちらかが降参するまで戦うルールだった。

 その時に立ち会ったのが、妹のルトルスで結果は圧倒的な力を見せつけた魔王の勝利で幕を閉じた。


「勝負に負けたカルラは私に身を委ねて……肉体関係に及んだ」

「それからは私が知っていた誇り高い暗黒騎士団長のカルラ・ライヤーは消え去り、カルラを奪った魔王と魔王に打ち負かされたカルラに怒りが募ったよ。何より一番悔しかったのが、黙って見ていることしかできなかった私自身だった」


 グラナはそこまで言うと、ルトルスと顔を合わせることができずに視線を逸らしてしまう。

 ルトルスは拳を強く握り、どうしようもない怒りを胸に閉まっていた。

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