第61話 噂
二人は居住地区から街を一望できる展望台に続く石段を上る。
「ここの展望台は景色もいいけど、ちょっとした噂があってね」
「どんな噂?」
「展望台でカップルが告白をすると、二人の愛が成就して結ばれる」
「……ロマンチックな話だが、この手の話は噂好きの女子が流したってオチだろ」
前世でも似たような噂は盛り上がりを見せたが、実際に成し遂げた者を見たことがない。
そのおかげで一種の観光スポットになったりして賑わうだろうが、時が過ぎれば忘れられて風花していくだろうとシェーナは思う。
「そう思うだろ? 実はこの話を実体験した人物がいるんだよ」
「嘘だろ?」
「本当だよ。百年前にここでリィーシャさんが旦那さんに愛の告白をして成功させた」
「えっ!? 嘘だろ!」
シェーナが驚いたのは噂の真相より、リィーシャが既婚者だった事についてだ。
全然そんな素振りや会話もなかったので、シェーナは勝手に独身だと思い込んでいた。
「マジかよ……グラナの事でも驚かされたのに、まさかリィーシャさんにそんな隠し玉があったなんて」
「旦那さんはプライデン領内にあるエルフの里で健在だよ」
知的で神秘的な雰囲気のリィーシャから告白をする相手にシェーナは些か興味が湧いた。
頂上の展望台に到着すると、そよ風が二人を迎え入れてくれた。
噂に肖ろうと、複数のカップルが展望台をデートコースとして利用している。
キシャナはシェーナの手を繋いで展望台から街を一望できる場所に案内する。
「実はシェーナと出会う前に、ここで何度も一人で景色を眺めていた時期があって、私にも素敵な人が現れないかなってね。そうしたら、いつの間にかシェーナやルトルスやグラナが現れて私の周りは賑やかになった」
「きっと神様がキシャナの願いを叶えてくれたんだよ。そのおかげで、俺も素敵な仲間に出会えたことに感謝しないとな」
「シェーナも意外とロマンチックなことを言うね」
「リィーシャさんやキシャナの実体験を聞いたら、合理的に考えるより自然に身を任せていいかもしれないね」
「じゃあ……こんな風に?」
キシャナはシェーナに身を寄せて両手を繋ぐと、社交ダンスを披露するかのように踊りを始める。
貴族が集まる社交界でドレスを着込んで踊った経験があるシェーナだが、ダンスのセンスは全くなかった。
「元貴族なのにシェーナは踊りが全然駄目だね」
「それより剣を振るっていた方が気楽だったからね。盆踊りなら付き合ってもいいよ」
「全く……困った女騎士様だ」
キシャナは上手にシェーナをエスコートしながらダンスを繰り広げると、周囲のカップルから拍手が飛び交って注目の的となっている。
この事がきっかけで、展望台でカップルがダンスを上手く踊れたら恋が成就すると噂になったのはしばらくしてからだった。




