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琥珀姫  作者: 雲居瑞香
12/27

12.似たもの兄妹

ついに11月……。










 晩夏のころ、ハリラオス王の王妃を迎える準備が整い、クリュティエが正式に宮殿に入った。その際、侍女を何人か連れてきたのだが。


「なんでエレニがいるの?」

「あ、姫様。お久しぶりです」


 そう言ってにこりと微笑んだのはエレニだった。まだ結婚したくないと言い張る彼女を、父親がクリュティエの侍女として送り出したらしい。アルキスには、「もう好きにしろ」と言っているようにしか見えない。

 クリュティエが宮殿に上がれば、今度は結婚式の最終調整である。花嫁の結婚式用のドレスの調整に付き合っていたらしいサフィラは、ふらふらとなぜか一人でアルキスの元を訪れた。ちなみに、彼は訓練中であった。


「アルキス~」


 めったにない弱弱しい声を聞いて、アルキスは模擬剣を置いてサフィラに近寄った。他の騎士たちにはそのまま訓練を続けるように言う。アルキスはサフィラを連れて建物の陰に移動した。晩夏とはいえ、日差しがきついのである。

「どうしましたか? っていうか、なんでひとりなんですか。リダはどうしたんですか」

「リダはフィリスと私が結婚式に参列するときに着るドレスを選んでる……」

「……ああ、そうなんですね」

 そして、着る当の本人はこっそり抜け出してきたと。相変わらずの行動力であるが、少し情緒不安定に見えるのは気のせいだろうか。

 アルキスはポンポンとサフィラの頭を軽くたたいた。不敬にあたる行為であるが、何となく、そうした方がいい気がしたのだ。

 すでに涙目になっていたサフィラであるが、泣きだすようなことはなく、代わりと言うようにアルキスにしがみついた。


「ちょ、姫様?」


 これはこれで困るアルキスだった。サフィラとしてはもう一人の兄に甘えているようなものだろうし、アルキスとしてもサフィラのことを恐れ多くも妹のように思っている。とはいえ、この状況はいろんな意味で心臓に悪い。ある意味未婚の男女が抱き合っているのだし、それに何より、ハリラオスが現れた時が怖い。また殴られるかも。


「……どうされました?」


 再び尋ねる。いつ訪れるかわからないシスコン国王より、今目の前にいる情緒不安定な妹姫を気遣うことにしたのだ。そっと肩に手を置き、さりげなく引き離そうとするが、サフィラはくっついたまま離れない。


「……お兄様、もうすぐ結婚するのね」


 いつも元気なサフィラとは思えないほど弱弱しい声だった。いまだにくっついているサフィラの頭をそっとなでた。


「……そうなったら、もう、私だけのお兄様じゃなくなるんだなぁって思ったら、さみしくて」


 しまったこっちも結構なブラコンだった。


 と、アルキスは気づいたが、やはり彼もサフィラには甘かった。

「陛下が姫様の兄君であることに変わりはありませんよ。それに、どうしてもさみしくなったら私の元へおいでください。お話くらいは聞いて差し上げることができますから」

「……うん」

 ぎゅっとサフィラがしがみつく手が強くなった。その時、ぽん、と肩をたたかれてアルキスはびくっとした。


「アルキス……手は出さないっていう約束だったよな……?」


 ただでさえ低い国王ハリラオスの声が地を這うようだった。サフィラの頭を撫でていた手が止まり、肩を抱いた手はそのまま固まった。


「……」


 単純に考えればハリラオスよりアルキスの方が強い。だが、それは腕っぷしの話だ。国王であると言う責任と重圧、そして民を束ねるカリスマ。それらを持つハリラオスに怒りを向けられれば、アルキスなどひとたまりもない。

「邪魔しないでよ。お兄様の馬鹿~」

「バ……!」

 ハリラオスはサフィラが放った言葉に衝撃を受けたようだった。サフィラはアルキスの肩越しにハリラオスと話しているので、シスコン兄的には最愛の妹が自分の友人とはいえ男に抱き着いて、あまつさえ『馬鹿』と言われたのが衝撃らしい。反抗期だろうか。


「サフィラ……! お前、兄がき、嫌いになったのか……」


 ちょっとどもっている。アルキスはしがみついてくるサフィラを離したくない思いと、ハリラオスからのプレッシャーがやばい。

「そう言う問題じゃないの!」

「アルキス!」

「何故私!?」

 すがりついてきたのはサフィラの方だが、怒鳴られたのはアルキスの方だった。

「楽しそうですわね。どうなさいましたの」

 おっとりと声をかけてきたのは王妃となるべく宮殿に上がっているクリュティエだ。この混沌とした状況に声をかけられるのはすごい。確かに、彼女を王妃にしようと思ったハリラオスの判断は間違っていなかった。


 現実逃避気味に考えていると、アルキスの腕の中にいたサフィラが「あ、クリュ……じゃなくて、お義姉様」と声をあげた。兄に対しては思うところはあるが、義理の姉に対してはないらしい。

「サフィラ様。エレニがお茶をおいしく入れられるようになりましたの。一緒にいかがですか」

「行く」

 即答してサフィラはアルキスから離れた。駄目押しとばかりにサフィラは「またね~」と手を振ってクリュティエについて行く。……なんだか負けた気がした。

「……クリュティエ殿が王妃になられたら、姫様が取られるかもしれませんね、陛下」

「……まあ、仲よくしてくれるならそれはそれでいい」

 と、同性同士なら寛容なハリラオスである。話をそらそうとしたのだが、できなかった。


「それはいいんだ。だがアルキス……お前、手を出すなって言ったよな……?」


 サフィラがいなくなったことで向かい合った二人である。アルキスはハリラオスに胸ぐらをつかまれた。

「出してないでしょうが! 未遂です!!」

 思わず強く否定したが、ハリラオスがある一点に気付いた。

「未遂!? お前、俺が来なかったら手を出してたってことか!?」

「言葉のあやです!」

 やってせいぜい抱きしめるくらいだ。小さな妹のように思っている彼女だ。まあ、気づいたらずいぶんと成長していた彼女に何も思わなかったと言えば嘘になるが、さすがにそこまではしない。サフィラの方もアルキスを兄のように慕っているのだし、その信頼を壊したくなかった。

「陛下は姫様のことになると性格変わりますよね! ただ相談に乗ってただけですよ」

「相談だと!?」

 俺にはしてくれないのに! とハリラオスがショックを受けているが、ハリラオスに関する相談を本人に出来るわけがない。言えないので黙っていたが。

「別に変なことじゃないですよ。陛下の式に関することです。でも、言ったら姫様が悲しむので言いません」

「そ、そうか」

 サフィラが悲しむ、と聞いてハリラオスもそれ以上の追及をしてこなかった。こんなにちょろくていいのだろうか。


 そこから何故かハリラオスの愚痴を聞くことになった。

「クリュティエが王妃になったら、宮殿の体制を変えなければならないんだ」

「……まあ、そりゃそうですね」

 現在、宮殿の奥の部分を取り仕切っているのはサフィラだ。彼女が現在、この国で最も高貴な女性になるためだ。正確には、『だった』と言うべきだろうか。

 ハリラオスが王妃を娶ると、少々事情が変わってくるのである。王の配偶者が宮殿を取り仕切ることとなり、次点となるサフィラは宮殿から手を引くことになるだろう。

「まあ、利点はある。サフィラがより政治に参入できるからな。ただ、完全に体制が移行するまでにはしばらく時間がかかるだろう」

「まあ、クリュティエ殿は姫様のやってきたことを無視なさるような方ではありませんが……そうですね。引継ぎと言うのは、総じて時間のかかるものです」

 一度、先代の近衛隊長から引継ぎをしたことのあるアルキスは実感を込めてそう答えた。


 それに、王妃が宮殿に住まうことになるのは、実に十一年ぶりのことなのである。先王夫婦がいた時のことを覚えている古参の女官たちはいるにはいるが、さほど多くない。それに、サフィラが時間をかけて作ってきた体制に慣れてきたところだ。再び体制を移行するのは大変だろう。つまり、サフィラはしばらく宮殿の奥まわりのことにかかりきりになる可能性があった。

「あれが優秀だとはいえ、まだ十六歳なんだよなぁ。普通なら、好きな人と結婚して、とか、考えるような年だそうだぞ。……考えたくもないが」

 最後がハリラオスらしいセリフであるが、二十八歳の男から発せられたとは思えないセリフは誰からの受け売りなのだろうか。

「クリュティエだ。彼女は二十一だが、サフィラくらいの時そんなようなことを考えていたと言っていた」

「そうですか。まあ、姫様が何を考えているか、いまいちわかりませんが」

 兄が自分だけのものではなくなると言っていた彼女だが、サフィラは感情より理性の方が強いタイプだ。腹の底が読めない、とも言うが。

 だから、アルキスに泣きついてきたときは驚いた。同時に、頼られていると思うとうれしくなった。

「まあ、姫様も十六歳ですしね。陛下の後ろをついて回っていた小さな姫様が、もう結婚してもおかしく無い年だと思うと感慨深いですね」

「お前までそう言うことを言うなよ!」

 そう言ってハリラオスはその場にしゃがみ込んで顔を伏せた。お前は乙女か、と言いたくなる落ち込み方である。


「わかっているんだ、俺も! そろそろあれのことも考えてやらないと、嫁き遅れになる可能性が高い! いや、むしろ、サフィラの場合、自分で政治的に都合の良い男を選んできそうだ!!」

「……」


 沈黙したアルキスだったが、十分あり得るな、と思った。どうせ選んでくるのなら、自分の好きな相手を選んできた方がまだましだ。


「一応、ヴァイオスが言うこともわかるんだよな。お前なら絶対にサフィラを大切にしてくれるし、あれがやっていることにも理解があるだろう? それに、王都を離れることなどめったにない。サフィラもお前のことは好きだろうし、都合はいいんだ……」

「ちょ、何言ってるんですか陛下。いつもの過保護ぶりはどこに行ったんですか」


 思わずアルキスがそんなことを言ってしまうくらい、ハリラオスが不気味だった。まさか、彼からサフィラの結婚を示唆する言葉が出てくるとは!


「お前、結構失礼だよな……俺が冷静に考えてみた結果だ! だが、だからと言ってサフィラに手を出すなよ!!」

「それ、もう何回目ですか! 出しませんよ」


 結局、ハリラオスはハリラオスだった。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


むしろサフィラ→←ハリラオス(笑)

サフィラはもう少し子供っぽくすねさせたかったんですが。


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