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琥珀姫  作者: 雲居瑞香
13/27

13.その当日











 国王の結婚式の朝。忙しいために屋敷に戻らず、宮殿に与えられた仮眠室で起床の準備をしていたアルキスは朝早くからサフィラの突撃訪問を受けた。


「アルキスーっ! 大変大変! 大変なのっ!」

「うおっ。いきなり開けないでくださいよ!」


 ちょうど着替えていたアルキスは仮眠室の扉を勢いよく開いたサフィラに苦情を言った。普通、ノックくらいするだろう。


「あらごめんなさい、って言いたいところだけどそれどころじゃないの! 国宝のティアラが盗まれた!」

「はあ!?」


 ティアラ、というからには王妃の王冠だろう。確かに国宝だ。アルキスは急いでシャツを着て上着を羽織り、立てかけてあった剣を手に取った。

「気づいたのはいつですか? 探しました?」

「当たり前でしょ! 気づいたのはさっき。今日使うものを確認しておこうと思って金庫を開けたらなかったのよ」

 結婚式を行う神殿に、あらかじめ使用するものの多くは運んであるが、国宝級の宝飾品は当日に運び込むことになっていた。ハリラオスとクリュティエにも確認したが、行方は知らないそうだ。


「二人には式の準備をそのまま続けてもらってる。見つからなかったら、最悪、私のティアラを使うことになるけど……」


 サフィラのティアラは王妃の王冠とは違い、王女が身に着けるものだ。正式なものではない。できれば本物を見つけたいところだ。

 国宝である王冠は、普段、宝物庫で厳重に保管されている。だが、今回式で使用すると言うことで、宝物庫から出して金庫に保管していた。その金庫がある場所は国王の執務室だ。玉璽と共に保管されていた。

「玉璽は無事でしたか?」

「お兄様は玉璽と添い寝してるもの」

「……さすがですね」

 ではとりあえず、王妃のティアラの心配をすればいいわけだ。アルキスは「どうしますか」と尋ねた。サフィラがここに来たと言うことは、それなりの対策を考えているはずだ。


「まず、お兄様とクリュティエ……お義姉様には、このまま式の準備を進めてもらう。ヴァイオスがいるから、私がいなくても混乱はしないと思う。私は、アルキスと一緒にティアラを探す。いいわね?」

「了解です」


 アルキスが力強くうなずく、サフィラもうなずき返した。


「リダを私の身代わりに置いてきたわ。護衛にもなるし、お義姉様の側にいてもらう。それと、お兄様の執務室に入れる人間なんて限られているわ。すぐに見つかるわよ」


 さすがはサフィラ。すごい自信である。


「それに、エレニが新しく入った女官と侍女の顔を覚えていてくれたからね。宮殿側は私も覚えているんだけど、お義姉様と一緒に上がってきた侍女はまだ覚えきれてなかったから、助かったわ」

「……で、不審人物はいたんですか?」

 確かに、女官ならハリラオスの執務室の周囲をうろつていても仕事だ、とごまかせる。執務室も四六時中儀仗兵がいるわけではないので、忍び込むこともできるだろう。


「ですが、鍵は? 鍵は陛下と姫様しか持っていないはずですよね」


 国王の執務室の鍵は王族であるハリラオスとサフィラしか持っていない。サフィラが持っているのは予備で、ハリラオスが持っているものは、彼が肌身はなさずもっているはずだ。


「それは検証済み。あの鍵、結構簡単に開くのよね……」


 明日までに変えておくわ、とサフィラ。そう簡単に変えられるものでもないと思うのだが。

「では、金庫の鍵は? あれは暗号だったでしょう。執務室の鍵が簡単に開いたとしても、金庫の鍵が簡単に開くとは思えません」

「確かに。壊れてたわけじゃないし……私なら開けられるんだけど」

 金庫の鍵の暗号は数字を合わせるものだ。計算ができれば開けることができるのだが、高度な数字公式を使用するので、解けたとしても時間がかかる。サフィラも『開けられる』と言ったが、それでも一時間以上かかるそうだ。

 サフィラが考えるように一度目を閉じ、すぐに開いた。

「今は方法を考えている場合じゃない。犯人探しも後よ。ティアラの行方を追うわ。まだ奪われてから時間が経っていない。少なくとも宮殿の中にあるはずだわ」

「宮殿内を行き来する人間にも制限をかけています。入ってくるものはもちろん、出ていくものも持ち物検査を義務付けています」

「さすが。正規の道を抜けるのは難しい。抜け道を使うにしても時間がないはず」

「なら、確実にまだ宮殿の敷地内ですね。どこから探しましょうか」

 アルキスが指示を仰ぐとサフィラは言った。


「井戸の中!」

「……はあ」


 首をかしげたアルキスであるが、彼女の指示通り井戸を調べることにした。人に手伝わせようとしたのだが、サフィラは自分たちでやろうと言った。

「ここまで来たら全員を疑うべき。素上の洗い直しはあとでできる。ティアラが無くなったことを多くの人に知られる方が問題」

「了解。ですが、ならせめてリダを連れてきた方がいいのでは?」

 彼女は少々軽率なところもあるが、それなりに頼りになる。だが、サフィラはにっこり笑って言った。

「彼女には私の身代わりをしてもらってるって言ってるでしょ。それに、こうして私とあなたが二人で歩いてれば式の相談にも見えるわ」

「……なるほど」

 それに、アルキスがサフィラをエスコートするので、本当に恋人同士に見えるかも……と思ったが、そう思った自分にちょっと呆れた。

 井戸と言っても、宮殿の敷地内には四つの井戸がある。宮殿の建物の中に作られたものが一つ。正面門の近くにひとつ。そして、宮殿の奥に二つ。


 まず、宮殿の中にある井戸を調べたが中には何もなかった。続いて正面門の近くの井戸を調べる。

「ないわね」

「そのようですね」

 正直、井戸を覗き込んでも暗くて中が見えないのだが、サフィラにはないことがわかるらしい。

 国王級のレガリアは王族にだけ見分けられるらしい。アルキスは王族ではないのでわからないのだが、サフィラは国宝が存在するかどうかをはっきり感じられるらしい。

「まあ、この二つははじめから外れる可能性が高かったから、想定の範囲内ね。奥の井戸を探しましょ」

「わかりました」

 アルキスがサフィラの言葉にうなずく。落ち着いてきた二人であるが、移動は走ってだ。宮殿の中を走るな、と言われそうだが、結婚式当日である今日、急いでいる人も多くあまり目立たなかった。

「私は東側の井戸を探すから、アルキスは西側をお願い」

「わかれるんですか?」

 リダの代わりにサフィラの護衛をしているアルキス的には、サフィラと離れたくなかったのだが、サフィラは「ほら、行く!」と言ってアルキスを追いたてた。


「私では王冠が沈んでいるかわからないんですが……」

「私の方になかったらアルキスの方でしょ。アルキスは西の井戸で待機してればいいから」


 と、それだけいうとサフィラは駆け出した。アルキスはため息をつき、反対方向に向かった。


 西の井戸に到着したアルキスは、念のため井戸の中を覗き込んだのだが……うん。何も見えない。わかっていたけど。

 アルキスは井戸を固定している煉瓦に腰かけて、サフィラが来るのを待った。いや、宮殿の中で彼女が襲われるとは思えないが、心配である。ついでに言うなら、襲われたところでただでやられるようなお姫様ではないが。

 アルキスはもう一度井戸を覗き込もうと首をひねった。すると、水を汲みに来たのだろうか。女官服の女性と目があった。

「……ああ、すまん。水を汲みに来たのか?」

「え、ええ……」

 一応略式の軍服を着ているとはいえ、井戸にぼんやり腰かけるアルキスはどこからどう見ても変人だった。

 アルキスは立ちあがって井戸を開けた。女官が手を伸ばしてバケツを井戸に放り込み、引き上げるためにロープを引っ張った……。


「アールキース! その子捕まえてぇぇええっ!」


 朝日の方向、つまり東側から猛然と走ってきたのはサフィラだった。叫びながら走ると言う奇行に、庭の手入れをしていた庭師が怪訝そうな表情になるが、それがサフィラだと確認するとすぐに仕事に戻った。いくらなんでも奇行に慣れ過ぎである。

 サフィラからの謎の指示であったが、アルキスの体は彼女の声で動いた。とっさに女官を捕まえようとする。だが、彼女は右手の短刀を売り回し、捕らえ損ねた。


「アルキス! 殺さないで生かしたまま捕らえなさいよ!」

「了解!」


 井戸のそばまで駆け寄ってきたサフィラはアルキスにそう指示を出すと、自分は井戸を覗き込んでいた。

 アルキスはサフィラの指示通り生かしたまま捕らえるためにまず、女官の短刀をたたき落とした。素手であれば、男女と言うだけでアルキスに分がある。女官の腕を背中にひねりあげたアルキスは、女官の口に手を突っ込んだ。奥歯に仕込んである毒物を取り除く。間者などは奥歯に毒を仕込んでいることが多く、念のためだったがやはり仕込んでいた。


「さすがはアルキス」


 サフィラがしゃがんで女官の顔を覗き込みながら言った。サフィラは舌をかもうとした彼女に布をかませる。

「ティアラはありましたか?」

「うん。もうばっちり」

 と、サフィラは水にぬれたティアラを振って見せた。かつて、サフィラたちの母がしていたものと同じ王冠である。

「ということは、彼女が盗んだんでしょうか」

「おそらくね。背後関係を洗うのはあとでいいわ。とりあえず、地下牢に放り込んでおいて。女の人だから、貴族用の収容部屋でいいわ」

「わかりました」

 アルキスはうなずくと、女官を立たせた。手は後ろで拘束したままである。


「姫様、ひもか何か持っていませんか?」

「あー、これでいい?」


 と差し出したのは彼女が羽織っていたショールだ。その下はノースリーブのワンピースドレスであり、白い腕がむき出しでアルキスは思わず視線をそらしつつ、ショールで女官の手首をきつく縛り上げた。とりあえずはこれで良いだろう。

「じゃあアルキスはその人を近衛に預けてきて。私はティアラを届けに行くから」

「わかりました」

 アルキスも近衛騎士である、というツッコミはあえて入れなかった。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


サフィラとアルキスはけっこういいコンビです。


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