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十二月の織姫  作者: 景雪
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ジャンクフード

 その夜、美紀は変な夢を見た。

 美紀のアパートで、崇と二人休日を過ごしていた。交際して最初の、崇の誕生日だった。何故誕生日だと分かったかと言うと、美紀が初めてハンバーグカレーを作っていたからだ。崇は子供のような食べ物を好んだ。カレー、ハンバーグ、ラーメン。ジャンクフードばかりだと美紀は半ば呆れていた。たまに、服装に気を使わなければならないレストランなどに行っても、崇はぎこちなく落ち着きがなかった。

 「なんか、味も何も分からないよ」

 崇は決まってそう言った。せっかく美味しい物を食べに来ているのにそんなことを言われると、良い気分はしなかった。

 崇の誕生日は彼の好きな物を作ってあげるのだが、いつの間にかハンバーグカレーを作るのが恒例になっていた。

 「美紀の作ってくれたハンバーグは最高だよ。 カレーもおいしい。どうせだったら両方味わいたいから、ハンバーグカレーを作ってよ!」

 そんないきさつがあって誕生日はハンバーグカレーを作ることになってしまった。外食でハンバーグを食べると、崇はいつも「もっと大きいのを食べたいな」と言っていた。美紀はほとんどやけくそになって、一キログラムの合挽肉を全部使ってハンバーグを作った。フライパン一杯に広がった肉の塊を、美紀は渾身の力を振り絞ってひっくり返して仕上げた。出来上がったそれをカレーライスに乗せると、大皿からはみ出してしまった。

 「はい。出来上がり」

 「……」

 余りの迫力に声も出せないのか、崇は圧倒されて目の前の料理をただ見ていた。けれど、おもむろにスプーンを手に取って食べ始めた。

 「うまい。うまいよ!」

 崇はむさぼるように食べた。時間をかけて何とか食べ切ったが、翌日は一日のほとんどを布団の中で過ごさなければならなかった。

 「無理、しなくていいのに」

 「無理してないよ。おいしかったもん」

 「馬鹿」

 ひどい胃もたれで崇は廃人のように寝転がっていた。

 「来年こそは……」

 「え?」

 「来年こそは……来年こそは……」

 翌年から、誕生日の度に美紀が作った巨大ハンバーグカレーに挑んだ崇だったが、毎年打ち負かされていった。夕食に食べるそれのために朝食、昼食を抜くと、胃袋が小さくなってしまって太刀打ちできなかったし、かといって朝食と昼食をしっかり食べると胃袋が一杯でまともな戦いができない。

 「来年こそは……来年こそは……」

 崇の口癖も恒例になった。にんにくをたっぷりと入れたり、とろけるチーズを一袋使ったり、美紀はいたずらを企む子供のようにボリュームたっぷりのハンバーグを作り、誕生日を迎えた崇に常勝を続けていった。

 

 「あはは……ほんと馬鹿なんだから」

 美紀は自分の独り言で目を覚ました。冬の遅い朝が窓から薄暗く差し込み、部屋をぼんやりと照らしていた。思い返してみればそんな付き合いだった。気取ってはないし、格好良くもないし、人の見本になるカップルじゃない。それでもハンバーグ一つで馬鹿みたいに競い、大笑いし、心の底から楽しめる二人だった。まだ未練を捨て切れていないことを美紀は痛感してしまった。

 「あ……れ?」

 美紀は足元に二人の人影を見た。一人は真白の服を着て、もう一人は髪の長い女性のようだった。表情は良く分からなかったが、二人は美紀に向けて笑いかけているように見えた。まだ眠っているのかと思い、美紀は上半身を起こしてカーテンを開けた。朝日が細長く差し込み、意識ははっきりとしていて、眠ってなどはいなかった。人影はすっかりなくなっていた。

 不思議な朝だった。けれどもう普段起きる七時近くで、すぐに出勤の準備に取り掛かった。寒がりの美紀は冬の朝が辛い。その日は暖房のタイマーをかけるのを忘れていて、着替えるのが億劫で仕方がなかった。けれど、つけたばかりの暖房がまだ部屋を暖めていないというのに、美紀は布団から出て着替えを始められた。テレビで気象予報士がその冬一番の寒さだと言っているのが信じられない。ふんわりと包み込むような熱を、美紀は身体の周りに感じた。本当に不思議な朝だった。

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