第4話 二人で一人前
身分差があり過ぎて、皇族のテオが文官のクノハルや宦官のオユアーヴと一緒に食事を取ることなんて本来はあり得ないはずのことだったのだが。
何せ、この【黒葉宮】は狭くて陰気な場所なので、一人でいると本当に気が滅入る。
いつしか同じテーブルを囲みながら、テオ達四人はご飯を食べるようになっていた。
「……『シルバー&ゴースト』だが。 今日中に整備しておく……」
食事の終わり頃。
宦官のオユアーヴは焼いたパンをもそもそとかじりながら、無愛想にそれだけ言った。
この男はおべっかを述べることはおろか愛想笑いすることすら皆無なのだが、元々が優秀な職人だったので、テオは『シルバー&ゴースト』のメンテナンスを一切任せているのだった。
「分かった。 どのくらいかかりそうなんだ?」
そうだな。
今回の整備に必要な費用を教えて欲しい。
「二銀貨……」
「は……?」
真顔でテオは繰り返した。オユアーヴを詰問するように。
「銀貨だと? 二銅貨の間違いじゃ無いのか!?」
オユアーヴは面倒くさそうに頷いた。
「いや、銀貨だ……。 いい加減、部品の交換が必要で……」
ここでガルヴァリナ帝国の通貨について説明しよう。
一番上が白金貨ことシヴェ。大貴族の館の金庫にはぎっしりとこの白金貨が詰まっているらしく、皮肉った者から「貴族の金」と呼ばれることもある。
二番目がノミテ。金貨である。帝国城で勤務するぺーぺーの文官の月収が大体ノミテ二~三枚だと言えば、想像できるだろうか。
三番目が銀貨、トゥレと呼ばれている。大体の下っ端の文官達は、ノミテが貨幣としてあまり使い勝手が良くないので、トゥレに換算して給与が払われるよう事前に申請を出しているそうだ。
四番目がキニュ。銅貨。十キニュもあれば帝都の庶民向けの料理店で腹一杯食べられる。
五番目がタンテ。見た目から「黒貨」と名付けられたらしい。子供へのちょっとしたお小遣いとか、はした金扱いされがちな、最も不遇な貨幣である。庶民は「我らの金」とこれまた皮肉っている。
当然、他国ではまた違ってくる。
紙幣だってあるにはあるが、今のところ主立った帝国の貨幣はこれら五種類なのだった。
ちなみにテオ+ユルルア姫の月額の生活費は、ノミテで貰っている。
だが、たったの五ノミテと少しである。
正真正銘の皇族の全費用としては信じられないほど少ない。
時折、ユルルア姫の実家から支援が届くけれど、アテにしてはならないし……。
……どうしてテオがこんなに貧乏なのか、理由がある。
テオはれっきとした皇族なのだが、後ろ盾の実家がもう無い上に、本人も目立った公的な活躍をしていない所為で貰っている皇室予算が本当に少ないのだ。
そのため、心が貧しくならない程度には、毎日毎晩のように質素倹約の生活を送らねばならない。
オレから見ても間違いなく、他の皇族や帝国城外の大貴族の方が遙かに良い暮らしをしているんだよな……。
「待て、オユアーヴ、待て!」
テオは顔を引きつらせた。
「今月はもう余裕が無いんだ。 ロウがまた違法賭博で大損した、その請求をこちらへ回してきた。 銀貨二枚はどうやっても支払えない!」
ロウとはオレ達の協力者である。
クノハルの年の離れた異父兄なのだが、何につけても金遣いが荒い男なのだ!
「……!」
ちらりとだけテオはクノハルの方を睨んだ。
が、涼しい顔で食後の白湯を飲んでいる。
神経が太いのは兄譲りだぞ、これは。
「だが……しかし……それでも……」
不満そうな顔でブツブツと文句を言うオユアーヴの気持ちも分かる。
「か、必ず工面するから……少しだけ、だ……」
なおもテオが言い訳すると、オユアーヴは諦めたようで、テオから目をそらした。
「先立つものが、無ければ……無理だ……無理なんだ……。 止めてくれ……」
いい加減に整備しないまま『シルバー&ゴースト』を実戦で使おうものなら、安全を保証できない。
オユアーヴはそう言いたいのだろう。
手先は恐ろしく器用なのに口は凄まじく不器用な男なので、ある程度はこちらが汲んで理解しないと会話が出来ないのだ。
「分かっている、よく分かっている、だから……!」
居づらくなったテオは、それっきり黙々と朝食を食べて。
先に食べ終えて化粧をしていたユルルア姫と一緒に、【帝国第一学院】に向かうための支度を始めた。
――あ。
昨晩から、ずっと忘れていた。
テオはともかく、オレの自己紹介がまだだった。
オレは【精霊】。
【精霊】クラウンだ。
オレを従えているテオとは、いつも二心同体で暮らしている。
とある事情で下半身不随の身となったテオ。
車椅子が無ければ移動すらままならない。
しかし、『シャドウ』として活躍する時限定で、オレが本来ならば動かせないはずのテオの身体機能を代行。
オレ達は二人でようやく一人前に戦うことが出来るんだ。




