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藁人間  作者: Yem
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4

翌朝。

田口は警視庁捜査一課のフロアを歩き、中村のデスクへ向かった。

昨夜のニュース以来、胸騒ぎは消えないままだった。


「来たか」


中村は缶コーヒーを机に置くと、一冊の分厚いファイルを開いた。


「昨日見つかった変死体だが、身元はやはり、お前が追っていた連続殺人事件の容疑者だった」


田口は黙って耳を傾ける。


「それだけじゃない」


中村は表情を曇らせた。


「最近、都内で変死体がやけに増えている」


机の上には何枚もの現場写真が並べられる。

駅、公園、廃ビル、人気のない路地裏。

発見場所はバラバラだった。


「共通点は?」


田口が尋ねる。


「被害者のほとんどが前科者だ」


中村は写真を一枚ずつめくっていく。


「暴力団関係者、詐欺師、強盗犯、殺人の前歴がある奴までいる」


「犯人は?」


「まったく掴めていない」


中村は首を横に振った。


「証拠も目撃者もない。事件性を示すものも乏しくてな、自殺や事故として処理されたケースも少なくない」


田口は無言で写真を見つめる。


「昨日の駅の事件も妙だ」


中村は資料を一枚抜き取り、田口へ差し出した。


「司法解剖の結果、全身の骨がひどく損傷していた」


「損傷……」


「監察医の話じゃ、まるで高い場所から落下したような外傷だったらしい」


その言葉を聞いた瞬間――。

田口の脳裏に、昨日の光景が鮮明によみがえった。

ビルの屋上。

飛び降りた青年。

眩い閃光。

そして、何事もなかったように歩き去る青年の背中。


「……中村さん」


田口は静かに口を開いた。


「実は昨日、妙なものを見ました」


昼間に起きた出来事を、一つ残らず話した。

青年がビルから飛び降りたこと。

閃光が走ったこと。

そこにあるはずの青年の姿が消えたこと。

そして、その青年を追いかけたこと。

話し終えると、中村は腕を組み、小さく息をついた。


「お前がそんな冗談を言う奴じゃないことは知ってる」


田口は黙っていた。


「だが、それと今回の変死事件を結び付けるのは早計だ」


中村は冷静な口調で続ける。


「現時点では無関係と考えるべきだ。…この件は本部が引き継ぐ」


中村は別のファイルを田口の前へ滑らせる。


「お前には別件を任せる」


表紙には大きく書かれていた。


『強盗殺人事件』


「昨日未明、住宅街で一家が襲われた。犯人と思われる男は逃走中だ」


田口はファイルを手に取る。


「まずはこっちを頼む」


「……わかりました」


田口は静かにうなずいた。

飛び降りた青年のことは、頭から離れない。

それでも刑事である以上、目の前の事件を追うしかなかった。





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