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翌朝。
田口は警視庁捜査一課のフロアを歩き、中村のデスクへ向かった。
昨夜のニュース以来、胸騒ぎは消えないままだった。
「来たか」
中村は缶コーヒーを机に置くと、一冊の分厚いファイルを開いた。
「昨日見つかった変死体だが、身元はやはり、お前が追っていた連続殺人事件の容疑者だった」
田口は黙って耳を傾ける。
「それだけじゃない」
中村は表情を曇らせた。
「最近、都内で変死体がやけに増えている」
机の上には何枚もの現場写真が並べられる。
駅、公園、廃ビル、人気のない路地裏。
発見場所はバラバラだった。
「共通点は?」
田口が尋ねる。
「被害者のほとんどが前科者だ」
中村は写真を一枚ずつめくっていく。
「暴力団関係者、詐欺師、強盗犯、殺人の前歴がある奴までいる」
「犯人は?」
「まったく掴めていない」
中村は首を横に振った。
「証拠も目撃者もない。事件性を示すものも乏しくてな、自殺や事故として処理されたケースも少なくない」
田口は無言で写真を見つめる。
「昨日の駅の事件も妙だ」
中村は資料を一枚抜き取り、田口へ差し出した。
「司法解剖の結果、全身の骨がひどく損傷していた」
「損傷……」
「監察医の話じゃ、まるで高い場所から落下したような外傷だったらしい」
その言葉を聞いた瞬間――。
田口の脳裏に、昨日の光景が鮮明によみがえった。
ビルの屋上。
飛び降りた青年。
眩い閃光。
そして、何事もなかったように歩き去る青年の背中。
「……中村さん」
田口は静かに口を開いた。
「実は昨日、妙なものを見ました」
昼間に起きた出来事を、一つ残らず話した。
青年がビルから飛び降りたこと。
閃光が走ったこと。
そこにあるはずの青年の姿が消えたこと。
そして、その青年を追いかけたこと。
話し終えると、中村は腕を組み、小さく息をついた。
「お前がそんな冗談を言う奴じゃないことは知ってる」
田口は黙っていた。
「だが、それと今回の変死事件を結び付けるのは早計だ」
中村は冷静な口調で続ける。
「現時点では無関係と考えるべきだ。…この件は本部が引き継ぐ」
中村は別のファイルを田口の前へ滑らせる。
「お前には別件を任せる」
表紙には大きく書かれていた。
『強盗殺人事件』
「昨日未明、住宅街で一家が襲われた。犯人と思われる男は逃走中だ」
田口はファイルを手に取る。
「まずはこっちを頼む」
「……わかりました」
田口は静かにうなずいた。
飛び降りた青年のことは、頭から離れない。
それでも刑事である以上、目の前の事件を追うしかなかった。




