25
屋上に、静寂が戻る。
田口は荒い息を整えながら、その場に座り込んでいた。
零は京の肩へそっと手を添える。
「京……」
その瞬間だった。
京の表情が苦痛に歪む。
「っ……!」
突然、自分の胸を強く押さえ、その場へうずくまる。
「京!」
零が慌てて肩を支える。
京の呼吸は急速に乱れ始めた。
「はぁ……はぁ……」
全身が激しく震える。
次の瞬間。
「ごほっ!」
真っ赤な血が口から溢れ、コンクリートの床へ飛び散った。
「京!」
零は京の身体を抱き起こす。
京は焦点の合わない目で零を見つめ、かすれた声を絞り出した。
「……兄貴」
零は震える声で応える。
「しゃべるな。大丈夫だ。いま救急車を呼ぶから」
しかし京は小さく首を横に振った。
「……ごめん。兄貴……ごめんな」
零の目に涙が浮かぶ。
京は苦しそうに息を吐きながら続けた。
「兄貴の……言う通り……だった。俺の……能力で……」
再び血を吐く。
「体が……もう……」
最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。
京の身体から力が抜ける。
瞳は静かに閉じられ、意識を失った。
「京!」
零は京を強く抱きしめた。
「駄目だ……!京!」
返事はない。
零は必死に京の身体をゆさぶる。
「目を開けろ!京!」
その声には、探偵としての冷静さはもう残っていなかった。
ただ、弟を失いたくない兄の叫びだけがあった。
零は涙をこらえながら田口に呼びかける。
「田口さん!救急車を!早く!」
「いま呼んでるから、落ち着け!」
住所を伝えながら、田口は京から目を離せなかった。
夜風だけが静かに吹き抜ける屋上で。
零は弟の身体を抱きしめたまま、何度も名前を呼び続けていた。




