24
京は倒れた鈴木を一瞥すると、何も言わず廃墟の奥へ駆け出した。
「京!」
零が叫ぶ。
しかし京は振り返らない。
錆びついた階段を、一段飛ばしで駆け上がっていく。
「待て!」
田口と零も後を追う。
崩れかけた階段を駆け上がり、屋上へ飛び出す。
吹きさらしの屋上。
強い風が、コンクリートの上を唸るように吹き抜けていた。
京は屋上の縁に立ち、そのまま下を眺める。
落ちれば助からない高さだった。
ゆっくりと振り返る。
その瞳は悲しみとも怒りともつかない感情に満ちていた。
「まずは、おっさん」
京は田口を真っすぐ見据える。
「てめぇからだ」
口元に薄く笑みを浮かべる。
「ここから飛び降りれば、お前は確実に死ぬ」
「やめろ!」
田口は一歩踏み出した。
その時、零が静かに口を開く。
「……本当に、そう言い切れるのか?」
京の表情がわずかに揺らぐ。
「なんだと?」
零は京を見据えたまま続けた。
「お前の能力は万能じゃない。
何度も使えば、お前自身の身体にも限界が来る。
今ここで飛び降りたとして、お前が無事でいられる確率は何パーセントだ?」
京は何も答えない。
初めて迷いが、その瞳に浮かんだ。
その瞬間だった。
突風が屋上を吹き抜けた。
「!!!!」
京の身体が大きく揺れる。
足を滑らせ、宙へ投げ出された。
「京!!!!」
零の声と同時に田口が反射的に駆け出す。
地面へ滑り込みながら腕を伸ばす。
その手が、京の腕をつかんだ。
「ぐっ……!」
京の身体は宙づりになる。
田口は必死に片腕だけで支えた。
その腕からは血が滴り落ちている。
「手を離せ!」
京が叫ぶ。
「たとえ、俺が死んだって、誰も悲しまない!
だから放せ!」
田口は歯を食いしばる。
腕に激痛が走る。
それでも手は離さない。
「黙れ!」
怒鳴り返した。
「お前の身勝手で、今度は俺が死ぬかもしれない…!
俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだよ!」
京の目が見開かれる。
田口はさらに叫んだ。
「それに――!」
「お前はまだ死ぬべきじゃない!生きて、自分の罪を償え!
現実から逃げるな!」
京の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
その瞬間。
田口の身体が少しずつ前へ引きずられていく。
限界だった。
すると背後から力強い手が田口の腕をつかむ。
「田口さん!」
零だった。
零は田口の腕をしっかりと支え、そのまま京の腕へ手を伸ばす。
「京!もう終わりにしよう。これから一緒に、罪を背負うんだ」
兄の震える声が、夜空へ響いた。
零と田口は力を合わせ、京の身体をゆっくりと引き上げる。
やがて京は屋上へ倒れ込み、大きく息を吐いた。
三人とも、その場に座り込む。
誰一人として言葉を発することはできなかった。
ただ吹き荒れる風だけが、静かな夜の屋上を通り過ぎていった。




