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藁人間  作者: Yem
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24/29

24

京は倒れた鈴木を一瞥すると、何も言わず廃墟の奥へ駆け出した。


「京!」


零が叫ぶ。

しかし京は振り返らない。

錆びついた階段を、一段飛ばしで駆け上がっていく。


「待て!」


田口と零も後を追う。

崩れかけた階段を駆け上がり、屋上へ飛び出す。

吹きさらしの屋上。

強い風が、コンクリートの上を唸るように吹き抜けていた。


京は屋上の縁に立ち、そのまま下を眺める。

落ちれば助からない高さだった。

ゆっくりと振り返る。

その瞳は悲しみとも怒りともつかない感情に満ちていた。


「まずは、おっさん」


京は田口を真っすぐ見据える。


「てめぇからだ」


口元に薄く笑みを浮かべる。


「ここから飛び降りれば、お前は確実に死ぬ」


「やめろ!」


田口は一歩踏み出した。

その時、零が静かに口を開く。


「……本当に、そう言い切れるのか?」


京の表情がわずかに揺らぐ。


「なんだと?」


零は京を見据えたまま続けた。


「お前の能力は万能じゃない。

何度も使えば、お前自身の身体にも限界が来る。

今ここで飛び降りたとして、お前が無事でいられる確率は何パーセントだ?」


京は何も答えない。

初めて迷いが、その瞳に浮かんだ。

その瞬間だった。

突風が屋上を吹き抜けた。


「!!!!」


京の身体が大きく揺れる。

足を滑らせ、宙へ投げ出された。


「京!!!!」


零の声と同時に田口が反射的に駆け出す。

地面へ滑り込みながら腕を伸ばす。

その手が、京の腕をつかんだ。


「ぐっ……!」


京の身体は宙づりになる。


田口は必死に片腕だけで支えた。

その腕からは血が滴り落ちている。


「手を離せ!」


京が叫ぶ。


「たとえ、俺が死んだって、誰も悲しまない!

だから放せ!」


田口は歯を食いしばる。

腕に激痛が走る。

それでも手は離さない。


「黙れ!」


怒鳴り返した。


「お前の身勝手で、今度は俺が死ぬかもしれない…!

俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだよ!」


京の目が見開かれる。

田口はさらに叫んだ。


「それに――!」


「お前はまだ死ぬべきじゃない!生きて、自分の罪を償え!

現実から逃げるな!」


京の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

その瞬間。

田口の身体が少しずつ前へ引きずられていく。

限界だった。

すると背後から力強い手が田口の腕をつかむ。


「田口さん!」


零だった。

零は田口の腕をしっかりと支え、そのまま京の腕へ手を伸ばす。


「京!もう終わりにしよう。これから一緒に、罪を背負うんだ」


兄の震える声が、夜空へ響いた。

零と田口は力を合わせ、京の身体をゆっくりと引き上げる。

やがて京は屋上へ倒れ込み、大きく息を吐いた。

三人とも、その場に座り込む。


誰一人として言葉を発することはできなかった。

ただ吹き荒れる風だけが、静かな夜の屋上を通り過ぎていった。



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