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藁人間  作者: Yem
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23/28

23

日が沈み、空は暗い色に染まっていた。

僅かな街灯が街外れにある廃墟を照らしていた。

崩れかけたコンクリートの建物の手前、二つの足音が響く。

田口と朝日零だった。


建物の奥へ進むと、一台の車が停まっている。

その前には鈴木と京が並んで立っていた。

鈴木は二人を見ると、小さく笑う。


「……来ると思ってました」


田口は周囲を警戒しながら口を開く。


「鈴木、お前、わざとGPSを外さなかったのか」


鈴木は静かにうなずく。


「ええ。田口さんなら、きっと追ってくると思ってました」


「和葉はどこだ」


田口が言った。


鈴木は停めてある車へ目を向ける。


「いま車の中にいます。彼女はいま睡眠薬で眠らせてあるだけです…」


田口は急いで車内を確認する。

後部座席では和葉が静かに眠っていた。


その姿を見て、田口は安堵の息を漏らした。

そして、再び鈴木へ向き直る。


「……お前の目的は何だ?」


鈴木はしばらく黙っていた。

やがて静かに話し始める。


「田口さん。僕、養護施設で育ったんです」


田口は口を閉ざし鈴木の声に耳を傾ける。


「母親みたいに慕ってた寮母さんがいました。

でも、施設で働いてた男に殺された。

警察は犯人を追ってた。でも、なかなか捕まらなかった。

それでも、僕は…!一人で犯人を探した。そのとき京と出会ったんです」


鈴木は京を見つめる。


「京は能力を使って、犯人を殺してくれました。

僕にとって京は、初めてできた親友なんです」


田口は黙って聞いている。

鈴木は続けた。


「だから僕は、京を守りたい。

法で裁けない悪人を消せる力があるなら、その力は必要なんです。

田口さん!今日見たことも聞いたことも、全部忘れて、刑事を…辞職してください」


鈴木が地面に手をついて懇願する。


「お願いします!そうすれば、誰も傷つかない!」


田口は首を横に振る。


「断る」


鈴木の表情が曇る。


「……なら。京が和葉さんを殺すことになりますよ…」


その言葉に零が一歩前へ出た。


「京!殺人犯以外には絶対に手を出さない。それが僕との約束だったはずだ!」


京はゆっくりと零に歩み寄り、スマートフォンを取り出し、

画面を零へ向けた。


『俺はこれから好きに生きていく』


新しい文字が表示される。


『誰の指図も受けない』


さらに。


『お前の指図にもな』


零は言葉を失う。

京はスマートフォンをしまうと、自分の舌を強く噛もうと口を大きく開けた。


「京!」


零が叫ぶ。

しかし、その前に田口が飛び出した。

そのまま迷うことなく田口は京の口へ腕を差し込む。


「っ…!!!!!」


鋭い痛みが走る。

京の歯が田口の腕へ深く食い込んだ。

鮮血が地面へ滴り落ちる。

田口は顔をしかめながら叫ぶ。


「舌を噛んで、和葉を殺すつもりか!ふざけるな!!!」


京は田口の腕を離した。

口元には血が滲んでいる。

その血を舌でゆっくりと舐める。


そして――。

突然、腹の底から笑い声を響かせた。


「……はは。ははははっ!」


誰もが凍り付く。

京が笑っている。

それだけではない。


「やっと……」


京は自分の喉へ手を当てる。


「声が出る」


低く、かすれた声だった。

鈴木が目を見開く。


「京……、話が違う。彼女は傷つけず、脅すだけだっただろ!」


京はゆっくり鈴木へ歩み寄る。

肩へ手を回し、親しげに囁いた。


「あいつが死ねば」


京は田口を見据える。


「全部うまくいく。俺に任せろ」


「やめろ!」


鈴木が京の腕をつかむ。


「そんなことのために連れてきたんじゃない!」


次の瞬間。

京は無言で鈴木の腹を思い切り蹴り上げた。


「がっ……!」


鈴木は数メートル吹き飛び、地面へ崩れ落ちる。

腹を押さえ、苦しそうに息をする。

京はゆっくりと前へ出た。

その瞳には、これまでの静けさはもうなかった。


「どいつもこいつも……」


低い声が廃墟に響く。


「俺は、お前らの道具じゃねぇんだよ!!」






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