表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藁人間  作者: Yem
PR
22/28

22

暗い夜道を、一人の少年が走っていた。

その少年は、14歳の鈴木だった。


行き先もわからないまま、ただ必死に前だけを見て走る。

その手には、一枚の写真が握られていた。

写真には、優しく微笑む女性が写っている。

養護施設の寮母だった。


両親のいない鈴木にとって、母親のような存在。

だが、その女性は施設で働いていた一人の男に命を奪われた。

警察は捜査を始めたものの、犯人は逃走。

鈴木は誰にも言わず、一人で犯人を追い続けた。


そしてある夜。

人気のない路地裏で、犯人を見つけた。

だが、鈴木が駆け寄るより早く、一人の少年が男の前へ立っていた。

黒い服をまとった、無表情な少年。


――朝日京。


京は何も話さなかった。

鈴木が声をかけようとした、その瞬間。

世界が白く光った。


眩しい閃光。

思わず目を閉じる。


光が消えたときには、少年の姿はなく、犯人だけが血を流しその場に倒れていた。


後日。

ニュースが流れる。


『〇〇事件の容疑者が遺体で発見されました―』


鈴木はテレビを見つめたまま、動くことができなかった。

あの夜。

一体なにが起こっていたのか。


それから月日が流れ

警察学校に通っていた鈴木はある日、

あの時の少年によく似た人物を公園で見つける。


「あの、ちょっとお話いいですか?」


鈴木が京に声をかけた。

それ以来、鈴木と京は度々会うようになった。


夜中の公園。

人気のない図書館。

古本屋。


二人は言葉を交わさなくても、一緒に本を読み続けた。

京はほとんど話さない。

それでも鈴木にはわかった。

京は悪人ではない。

誰よりも静かで、誰よりも孤独な人間だと。


鈴木にとって京は、初めてできた親友だった。


     ◇


夜の道路を一台の車が走っていた。

後部座席では和葉が静かに眠っている。

和葉は睡眠薬の作用で、規則正しい寝息を立てていた。


助手席では京が窓の外を眺めている。

鈴木はハンドルを握ったまま静かに話し始めた。


「田口さんは、お前を止めようとする。

刑事だから当然だ。でも、僕は違う」


赤信号で車が止まる。


「京、お前には、これからも凶悪犯を消してほしい。

法では裁けない人間は、沢山いる。

お前にしか止められない悪もある」


鈴木はバックミラー越しに和葉を見る。


「……田口さんには刑事を辞めてもらう。

交渉の為に、この子を人質にするしかない」


苦しそうに目を閉じる。


「こんなこと、本当はしたくない。

でも、それしか方法が思いつかない」


しばらく沈黙が流れる。

鈴木は再び京を見る。


「どうして…。田口さんの前で能力を使ったんだ!?

約束しただろ!能力のこと、誰にも話さないって!」


京は何も答えない。

窓の外へ視線を向けたまま、流れていく夜空を静かに見つめていた。


街の灯りが、京の横顔を淡く照らす。

その瞳が何を見つめ、何を考えているのか。

鈴木にもわからなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ