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藁人間  作者: Yem
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2

その夜。

刑事・田口修司はネクタイを緩めると、スーツの上着をソファへ放り投げた。

時計の針は午後九時を回っている。

冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プルタブを開ける。


「……ふぅ」


一口流し込むと、ようやく張り詰めていた神経がほぐれていく。

恋人の渚は、法事のため数日間だけ実家へ帰省していた。

いつもなら「おかえり」と迎えてくれる部屋は静まり返り、テレビの音だけが空間を埋めている。

田口はリモコンを手に取り、ニュース番組へチャンネルを合わせた。


『速報です。本日午後八時過ぎ、市内の○○駅構内の男子トイレで男性の変死体が発見されました。警察は事件と事故の両面から捜査を進めています――』


画面には規制線の張られた駅前が映し出される。


「最近、多いな……」


そう呟いた瞬間、テーブルの上でスマートフォンが震えた。

画面には「中村」の文字。

直属の上司だった。


「はい、田口です」


『ニュース、見てるか?』


「ええ。駅の変死体の件ですか?」


受話器の向こうで、中村は一拍置いた。

『まだ公表されてない情報だが……死んだ男の身元が判明した。』


田口は自然と姿勢を正す。


『お前が半年追っていた連続殺人事件……その容疑者だった男だ。』


「……え?」


思考が止まる。


「あの男が……?」


田口の脳裏に、一枚の捜査資料が浮かぶ。

何人もの証言から浮かび上がった一人の男。

しかし決定的な証拠は掴めず、逮捕には至らなかった。

その男が、突然、駅のトイレで死体となって見つかったというのだ。


「そんな馬鹿な……」


『俺も信じられん。明日の朝、本部に来い。詳しい話はそこで――』


その瞬間だった。


――ピンポーン。


静かな部屋に、インターホンの音が響く。

田口は思わず玄関へ目を向けた。

こんな時間に誰だ。

渚が帰ってくる予定はない。

宅配便にしては遅すぎる。


『……田口? 聞こえてるか?』


受話器越しの中村の声が遠く聞こえる。


もう一度。


――ピンポーン。


今度は先ほどより長く、執拗に鳴り続けた。



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