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その夜。
刑事・田口修司はネクタイを緩めると、スーツの上着をソファへ放り投げた。
時計の針は午後九時を回っている。
冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プルタブを開ける。
「……ふぅ」
一口流し込むと、ようやく張り詰めていた神経がほぐれていく。
恋人の渚は、法事のため数日間だけ実家へ帰省していた。
いつもなら「おかえり」と迎えてくれる部屋は静まり返り、テレビの音だけが空間を埋めている。
田口はリモコンを手に取り、ニュース番組へチャンネルを合わせた。
『速報です。本日午後八時過ぎ、市内の○○駅構内の男子トイレで男性の変死体が発見されました。警察は事件と事故の両面から捜査を進めています――』
画面には規制線の張られた駅前が映し出される。
「最近、多いな……」
そう呟いた瞬間、テーブルの上でスマートフォンが震えた。
画面には「中村」の文字。
直属の上司だった。
「はい、田口です」
『ニュース、見てるか?』
「ええ。駅の変死体の件ですか?」
受話器の向こうで、中村は一拍置いた。
『まだ公表されてない情報だが……死んだ男の身元が判明した。』
田口は自然と姿勢を正す。
『お前が半年追っていた連続殺人事件……その容疑者だった男だ。』
「……え?」
思考が止まる。
「あの男が……?」
田口の脳裏に、一枚の捜査資料が浮かぶ。
何人もの証言から浮かび上がった一人の男。
しかし決定的な証拠は掴めず、逮捕には至らなかった。
その男が、突然、駅のトイレで死体となって見つかったというのだ。
「そんな馬鹿な……」
『俺も信じられん。明日の朝、本部に来い。詳しい話はそこで――』
その瞬間だった。
――ピンポーン。
静かな部屋に、インターホンの音が響く。
田口は思わず玄関へ目を向けた。
こんな時間に誰だ。
渚が帰ってくる予定はない。
宅配便にしては遅すぎる。
『……田口? 聞こえてるか?』
受話器越しの中村の声が遠く聞こえる。
もう一度。
――ピンポーン。
今度は先ほどより長く、執拗に鳴り続けた。




