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藁人間  作者: Yem
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18/29

18

京がスマートフォンでゆっくりと文字を打ち始めてから数秒後、画面を三人へ向けた。


『そんなに知りたければ教えてやる』


続けて、もう一文が表示される。


『その目で確かめろ』


「どういう意味だ……?」


田口が問いかけても、京は何も答えない。

静かに立ち上がると、すっと和葉の前まで歩み寄った。


「えっ?」


和葉が戸惑う。

次の瞬間。

京は和葉の手首をそっとつかんだ。


「ちょっ……」


和葉が反応するより早く、京は小さな刃物で和葉の腕に浅い切り傷をつける。


「痛っ!」


赤い血がにじむ。

京はその血を指先ですくい、そのまま静かに舐めた。


「なっ……!」


鈴木が息をのむ。


「お前!!!」


田口は反射的に京へ駆け寄り、怒りのまま拳を振るう。

鈍い音が部屋に響き、京は床へ倒れ込んだ。

その瞬間だった。


「痛い!!!」


和葉が突然、自分の頬を押さえてうずくまる。


「い、痛いよ……!」


田口の動きが止まる。


「……どういうことだ?」


京を殴ったはずなのに。

なぜ和葉が痛がっている。

田口は状況を理解できなかった。

部屋に重い沈黙が流れる。


――ガチャ。


玄関の扉が静かに開いた。

全員が一斉に振り向く。

そこに立っていたのは、朝日零だった。

室内を一目見ただけで、何が起きたのか察したように小さく息をつく。


「……最悪だ」


朝日零は倒れている京と、頬を手で押さえる和葉、そして呆然と立ち尽くす田口たちへ順番に視線を向ける。


「説明は後です」


穏やかな口調だったが、その声には迷いがなかった。


「皆さん今すぐ、この部屋から出てください」


その真剣な表情に、田口は反論できなかった。

鈴木が和葉の肩を支える。


「立てますか?」


「う、うん……」


和葉は痛みに顔をしかめながら小さくうなずく。


田口は最後に一度だけ京を見た。

京は床に倒れたまま、静かに田口を見つめ返している。

その瞳には怒りも苦しみもなく、どこか諦めにも似た色だけが浮かんでいた。

三人は朝日零に促されるまま部屋を出る。


古びたアパートの階段を下り、外の空気を吸った瞬間、張りつめていた緊張が少しだけほどけた。

だが、田口の胸には一つの疑問だけが強く残っていた。


――なぜ京を殴ったはずなのに、和葉が痛みを感じたのか。





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