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藁人間  作者: Yem
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16/29

16

三人は古びたアパートの鉄階段をゆっくりと上っていく。

階段は一歩踏み出すたびに、ぎしり、と鈍い音を立てた。

二階へ着くと、和葉は迷うことなく廊下の一番奥を指差す。


「あっちです」


田口は廊下の一番奥にある部屋の前へ立つ。

表札はない。

郵便受けにも名前は記されておらず、人が暮らしている痕跡はほとんど感じられなかった。

耳を澄ませても、生活音一つ聞こえない。

まるで空き部屋のような静けさだった。


田口はインターホンを押す。


――ピンポーン。


返事はない。


もう一度押す。


――ピンポーン。


やはり反応はない。


三度目。


――ピンポーン。


沈黙だけが廊下に流れる。


「留守なのでは?」


鈴木が小声で言う。

田口はしばらく玄関を見つめていたが、小さく息を吐いた。


「……出直すか」


三人が踵を返しかけた、そのときだった。


――ガチャ。


静かな音とともに、玄関の扉がゆっくりと開いた。


姿を現したのは、一人の青年だった。

寝起きなのだろう。

黒髪は少し乱れ、眠たそうに目を細めている。

その顔を見た瞬間――。


「……」


田口は言葉を失った。


青年は朝日零に、あまりにもよく似ていた。

違うのは表情だけだった。

朝日のような人懐っこい笑みはなく、感情の読めない静かな眼差しをしている。

田口は気を取り直し、警察手帳を見せた。


「警察だ。少し聞きたいことがある。時間をもらえないか?」


青年は何も答えない。

田口の顔を数秒見つめると、ゆっくりと体を横へずらした。

開いたままの玄関。

そして、そのまま無言で部屋の奥へ歩いていく。


まるで――


【入れ】


そう背中で語っているかのようだった。


田口が部屋の中へと入っていく。

鈴木と和葉、二人も田口の後をついていくように

靴を脱ぎ、静かに部屋へ足を踏み入れた。


室内は意外なほど整然としていた。

床には物一つ落ちておらず、掃除も行き届いている。

生活感はあるのに、不思議と人の温もりを感じない。


リビングの壁一面には、大きな本棚が据え付けられていた。

文学、小説、歴史書、医学書、哲学書……。

分野を問わず、ぎっしりと本が並べられている。

その圧倒的な蔵書量に、和葉は思わず息をのんだ。


「……すごい」


青年は何も言わず、本棚の前を通り過ぎる。

静かな部屋には、壁掛け時計の秒針だけが規則正しく時を刻んでいた。




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