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藁人間  作者: Yem
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13/24

13

鈴木と別れた田口は、夜遅く自宅へ戻った。

スーツを脱ぎ、ソファへ腰を下ろしたところで、不意にインターホンが鳴る。


――ピンポーン。


「……またか」


田口は思わず苦笑した。


「どうせ、あいつだ…」


そう呟きながら玄関へ向かい、ドアを開ける。

そこには予想どおり和葉が立っていた。

しかし、いつもと様子が違う。

和葉は肩で大きく息をし、額には汗がにじんでいる。


「お、おい。大丈夫か?」


和葉は何度もうなずくが、息が整わない。


「待て、とりあえず……」


田口は玄関を開ける。


「中に入れ」


リビングへ案内すると、和葉はソファへ座り込んだ。

田口は冷蔵庫から冷えた水を取り出し、コップへ注いで差し出す。


「ほら」


「ありがとうございます……」


和葉は一気に飲み干し、大きく息を吐いた。

ようやく落ち着きを取り戻した様子だった。

田口は正面へ腰を下ろす。


「それで。一体何があった?」


和葉は真剣な表情になる。


「ヤバい映像が撮れちゃったんです」


そう言って、スカートのポケットからスマートフォンを取り出し、動画を再生する。


「これ、見てください」


田口は画面へ目を向けた。

映像には、公園のベンチが映っている。

少し離れた場所から撮影されたものらしく、画質はそれほど鮮明ではない。

だが、一人の青年の姿だけははっきり確認できた。


青年は黒い服をまとい、静かに本を読んでいる。

その整った横顔は――。






朝日零だった。


「ほら!」


和葉が興奮気味に言う。


「ヤバいでしょ!?最初、芸能人でもいるのかと思っちゃって!

それで動画を撮ったんです」


田口は無言のまま画面を見つめる。


「ビルから飛び降りた青年!つまり!これって朝日さん…だよね?」


「……」


「今日のお昼に急いで撮ったんだけど、結構きれいに撮れてません?」


その言葉に、田口の表情が変わる。


「……待て」


和葉が首をかしげる。


「え?」


「今、何て言った?」


「芸能人かと思ったって……」


「違う」


田口は遮る。


「今日の昼に撮ったって言ったな」


「そう…だけど」


「何時だ?」


和葉はスマートフォンを見つめる。


「えっと……お昼の、二時くらいだったかな」


少し考え込み、首を振る。


「あ、違う。えっと。動画の記録だと……午後三時三十分です」


その瞬間だった。

田口はポケットからスマートフォンを取り出し、鈴木へ電話をかける。

数回の呼び出し音のあと、鈴木が出た。


『はい、鈴木です』


「鈴木!」


「今日、遺体安置所で朝日と会ったのは何時だ?」


『え……?』


突然の質問に戸惑いながらも、鈴木はすぐに答えた。


『朝日さんが僕らの前に現れた時…、警察署の時計では、午後三時二十八分でした』



「……そうか。わかった、ありがとう」


電話を切る。

田口の顔から血の気が引いていく。

ほぼ同じ時刻。

一方は遺体安置所。

もう一方は公園。


今日の午後三時三十分、朝日は確かに警察署にいた。

一人の人間が、同時に二つの場所へ存在できるはずがない。


「田口さん……?」


不安そうな和葉の声も耳に入らない。

田口はゆっくりと和葉からスマートフォンを受け取り、動画を停止した。

画面に映る青年の横顔。

朝日によく似ている。

いや――。

決定的に何かが違う。


田口は食い入るように画面を見つめ、小さく呟いた。


「ビルから飛び降りたのは、朝日じゃない……」


さらに画面を拡大する。


「……こいつだ」





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