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藁人間  作者: Yem
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11/28

11

鈴木の自宅は、住宅街の一角にある二階建てのアパートだった。


「少し待っていてください」


そう言い残し、鈴木は自室へ駆け込む。

田口はリビングで待ちながら部屋を見回した。

本棚には推理小説や工学書が並び、机の上には電子部品や模型が所狭しと置かれている。

部屋の奥からは、三Dプリンターが規則正しく動く音だけが聞こえていた。

しばらくして。


「できました!」


勢いよく扉が開く。


鈴木は満面の笑みで部屋から飛び出してきた。


その手には一本のナイフ。

白い樹脂で造形された精巧な模型だった。


「昨日見たものを、そのまま再現しました」


田口は受け取る。

刃渡り。

柄の長さ。

細かな曲線まで、驚くほど忠実だった。


「……これは、凄いな」


思わず感嘆の声が漏れる。

これほど正確なら、傷口との照合も可能かもしれない。

しかし同時に、田口の脳裏には朝日零の笑顔が浮かんだ。


――『どうぞ』


何の迷いもなくナイフを差し出した朝日。

その後に起きた不可解な出来事。

背筋に冷たいものが走る。


「行こう」


田口は模型のナイフを証拠袋へ入れた。


「急いで確認しないと」


「はい」


二人は急いで車へ乗り込み、犯人の遺体があるであろう、遺体安置所がある警察署へ向かった。



    ◇



警察署に到着し田口が警察手帳を提示すると、職員は申し訳なさそうに頭を下げた。


「申し訳ありません」


「本日は関係者以外の立ち入りは禁止するよう指示を受けています」


田口は眉をひそめる。


「俺は、今朝、遺体で発見された容疑者の事件を追っている担当刑事だ」


「それでも駄目です。上からの命令ですので……」


「上って誰だ?」


「それは、お答えできません」


田口は受付台に手をつく。


「俺は事件の担当刑事だぞ!遺体を確認する権利はあるはずだ」


「田口さん。」


鈴木が腕をつかむ。

しかし田口は一歩踏み出した。

そのときだった。


「大丈夫ですよ」


背後から穏やかな声が聞こえた。

振り向く。

そこには朝日零が立っていた。

朝日はいつもの柔らかな笑みを浮かべている。

受付の職員は朝日の姿を見るなり、すぐに姿勢を正した。


「朝日さん。この方達は?」


朝日は軽く微笑み、受付へ視線を向ける。


「この二人は僕の連れです。通してください」


「承知しました」


職員は何のためらいもなく通路の扉を解錠する。


田口と鈴木は顔を見合わせた。

朝日は二人の前を通り過ぎる。


「来てください」


そう言ってそのまま、振り返ることなく歩き始める。

白い廊下に足音だけが静かに響く。

数歩進んだところで、朝日は足を止めた。

そして、ゆっくりと横顔だけをこちらへ向ける。


「行きましょう」


静かな笑みを浮かべたまま言った。


「――真実を確かめに」


そう告げると、再び前を向き、まるで行き先を知り尽くしているかのような足取りで、遺体安置所の方へ歩いていった。




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