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鈴木の自宅は、住宅街の一角にある二階建てのアパートだった。
「少し待っていてください」
そう言い残し、鈴木は自室へ駆け込む。
田口はリビングで待ちながら部屋を見回した。
本棚には推理小説や工学書が並び、机の上には電子部品や模型が所狭しと置かれている。
部屋の奥からは、三Dプリンターが規則正しく動く音だけが聞こえていた。
しばらくして。
「できました!」
勢いよく扉が開く。
鈴木は満面の笑みで部屋から飛び出してきた。
その手には一本のナイフ。
白い樹脂で造形された精巧な模型だった。
「昨日見たものを、そのまま再現しました」
田口は受け取る。
刃渡り。
柄の長さ。
細かな曲線まで、驚くほど忠実だった。
「……これは、凄いな」
思わず感嘆の声が漏れる。
これほど正確なら、傷口との照合も可能かもしれない。
しかし同時に、田口の脳裏には朝日零の笑顔が浮かんだ。
――『どうぞ』
何の迷いもなくナイフを差し出した朝日。
その後に起きた不可解な出来事。
背筋に冷たいものが走る。
「行こう」
田口は模型のナイフを証拠袋へ入れた。
「急いで確認しないと」
「はい」
二人は急いで車へ乗り込み、犯人の遺体があるであろう、遺体安置所がある警察署へ向かった。
◇
警察署に到着し田口が警察手帳を提示すると、職員は申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ありません」
「本日は関係者以外の立ち入りは禁止するよう指示を受けています」
田口は眉をひそめる。
「俺は、今朝、遺体で発見された容疑者の事件を追っている担当刑事だ」
「それでも駄目です。上からの命令ですので……」
「上って誰だ?」
「それは、お答えできません」
田口は受付台に手をつく。
「俺は事件の担当刑事だぞ!遺体を確認する権利はあるはずだ」
「田口さん。」
鈴木が腕をつかむ。
しかし田口は一歩踏み出した。
そのときだった。
「大丈夫ですよ」
背後から穏やかな声が聞こえた。
振り向く。
そこには朝日零が立っていた。
朝日はいつもの柔らかな笑みを浮かべている。
受付の職員は朝日の姿を見るなり、すぐに姿勢を正した。
「朝日さん。この方達は?」
朝日は軽く微笑み、受付へ視線を向ける。
「この二人は僕の連れです。通してください」
「承知しました」
職員は何のためらいもなく通路の扉を解錠する。
田口と鈴木は顔を見合わせた。
朝日は二人の前を通り過ぎる。
「来てください」
そう言ってそのまま、振り返ることなく歩き始める。
白い廊下に足音だけが静かに響く。
数歩進んだところで、朝日は足を止めた。
そして、ゆっくりと横顔だけをこちらへ向ける。
「行きましょう」
静かな笑みを浮かべたまま言った。
「――真実を確かめに」
そう告げると、再び前を向き、まるで行き先を知り尽くしているかのような足取りで、遺体安置所の方へ歩いていった。




