EP 9
炸裂!竜撃砲(※ただしエア操作)
ドワーフの地下帝国ドンガンで作られた、男のロマンの結晶体『竜撃砲』。
その漆黒で巨大な砲身を肩に担ぎ、良樹は滝のような冷や汗を流していた。
(お、重い……! なんでござるかこの鉄の塊! 肩が外れそうでござるよ!)
プルプルと震える足を踏ん張りながら、良樹はドワーフの行商人から言われた『注意点』を思い出していた。
『兄ちゃん、こいつは山を吹き飛ばす威力が誇るが、魔力充填に【3分間】の棒立ちが必要だ。アンカーもセーフティもない完全な欠陥品だから、実戦じゃ使い物にならねぇぞ!』
(3分! カップラーメンができるまでの果てしなく長い時間を、このイカつい騎士団の前で棒立ちで待てというのか!? 無理でござる! 絶対に殺されるでござるぅぅ!)
しかし、後ろにはキャルルとリーザ、そして愛しの『サスガ屋』の屋台がある。
逃げるわけにはいかない。
良樹は腹を括り――持ち前の『中二病』をフル稼働させて、時間稼ぎ(ハッタリ)を開始した。
「ククク……愚か者どもめ。冥界の炎に焼かれる覚悟はできたでござるか!?」
良樹は砲身を片手で支え(プルプルしている)、もう片方の空いた手で、砲身の側面の【何もない空間】をカチャカチャと弄り始めた。
「足部アンカー固定! 魔力バイパス接続! セーフティロック第一、第二、解除!」
「な、なんだ? あいつ、空中で指を動かして何をやってるんだ?」
騎士団たちがざわつき始める。
「最終リミッター、コード666承認! 対消滅エネルギー、臨界点までカウントダウン開始でござる!!」
「す、すごい……!」
背後でキャルルが両手を組んで感嘆の声を漏らした。
「あの巨大な魔砲、目に見えないほど複雑な術式ロックが幾重にも掛けられているのね……! 良樹さんはそれを、瞬きするほどの速さで解除しているわ!」
(※ただのエア操作である)
「ダーリン様ぁ! かっこいいですぅ! スパチャ投げたいですぅ!」
リーザも興奮してぴょんぴょん跳ねている。
しかし、相手は実戦慣れした悪徳騎士団だ。
団長が舌打ちをして、剣を振り上げた。
「チィッ! ハッタリ野郎が! 何のカウントダウンかは知らねぇが、撃たれる前にぶっ殺せばいいだけだ! 野郎ども、ジオ・リザードごと突撃しろォォ!!」
「ウオォォォォォッ!!」
地響きを立てて、数十人の騎士と巨大な魔獣たちが一斉に良樹へ向かって突進してくる。
(ギャァァァァァァッ!! 待って! 待ってでござる! まだ1分しか経ってないでござるよぉぉ!?)
良樹の顔面が蒼白になる。エア操作のレパートリーももう限界だ。
このままでは、サスガ屋ごとミンチにされてしまう。
――その絶体絶命の光景を、屋台の横で寝そべりながら見つめる一つの影があった。
(……やれやれ。ルソーの『社会契約論』に言わせれば、生命と財産の保護こそが社会の基礎だというのに。この程度の輩に村を荒らされるとはな)
始祖竜クロノ(ロード)は、呆れ果てたようにため息をついた。
(ここで良樹が死ねば、我の明日の『牛丼』が消滅する。それは世界の終焉よりも重大な損失だ)
ロードは薄く瞳を開き、その金色の眼光を良樹の担ぐ『竜撃砲』へと向けた。
始祖竜の真なる力。
それは、対象の時間を自由自在に巻き戻し、あるいは『早送り』する神の権能。
(我の食の平和を脅かす者どもよ。その愚行、高くつくぞ)
ロードが密かに魔力を発した瞬間。
チクタク、と。良樹の担ぐ竜撃砲の周囲だけで、時間が異常な速度で加速した。
「えっ……? アレッ!?」
良樹が違和感に気づいた時には、すでに遅かった。
まだ1分しか経っていないはずの竜撃砲の砲身が、突如としてマグマのように赤熱し、ギィィィィンッ! という鼓膜を破るような魔力充填の臨界音を鳴らし始めたのだ。
(ちゃ、チャージ完了!? なんで!? まだカップ麺の麺も硬いでござるよ!?)
「くらえぇぇぇ! ぶっ殺せェェェ!」
目の前には、剣を振りかざした騎士団長が迫っている。
パニックになった良樹は、思考を放棄し、ヤケクソで引き金を引いた。
「い、逝けぇぇぇぇッ!!(やけくそ)」
ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
発射されたのは、一筋の光ではない。
神の怒りのごとき、極太の『紅蓮の閃光』だった。
「ひぶっ!?」
圧倒的な反動により、良樹の細い体は一瞬で後ろへ吹き飛ばされ、屋台の裏の茂みへと頭から突っ込んだ。
その反動で砲身が大きく上を向いた結果――。
放たれた光の奔流は、突撃してくる騎士団の【遙か頭上】を通過し、そのままポポロ村の背後にそびえ立つ巨大な岩山へと直撃した。
ピカァァァァッ……!
数秒の静寂。
直後、大地を揺るがす大音響と共に、山の頂上が『消滅』した。
砕け散った岩盤が、まるで花火のように空中で四散し、轟々たる爆風が村の広場を吹き抜ける。
「「「…………」」」
突撃していた悪徳騎士団全員の動きが、完全に停止した。
彼らはゆっくりと首を後ろに向け、先ほどまで山があった【ただの青空】を見つめた。
もしあの光線が、少しでも下を向いていたら。
自分たちは、骨の欠片すら残らず蒸発していた。
カラン……。
騎士団長の手から、長剣が力なく滑り落ちた。
「ば、化け物だ……」
「あ、あんなの……人間に撃てる魔法じゃない……!!」
ポポロ村の広場に、騎士たちの武器が落ちる音だけが、虚しく響き渡っていた。




