EP 10
平和な村と至高の一杯
ポポロ村の背後にそびえていたはずの岩山が、跡形もなく消滅した。
その圧倒的すぎる破壊の現実を前に、悪徳騎士団たちの心は完全にへし折れていた。
カラン……ガシャァン……。
次々と武器が地面に落ちる音が響く中、茂みの中からカサカサと音がした。
「い、痛いでござるぅぅ……。肩が、肩が外れるかと思ったでござるよぉぉ……」
頭に葉っぱを乗せ、涙目で肩をさすりながら、良樹がフラフラと這い出てきた。
ただ反動に耐えきれず吹っ飛ばされただけの、情けない姿である。
しかし、その姿を見た騎士団長の顔色は、恐怖で土気色に染まっていた。
(ば、馬鹿な……! あれほどの超絶魔術を放っておきながら、息一つ乱していないだと!? しかも、あの男……我々を殺すのではなく、わざと狙いを上空に逸らしたというのか!?)
己と相手の実力差(※完全な勘違い)を悟った騎士団長は、震える膝を折り、見事なスライディング土下座をキメた。
「も、申し訳ございませんでしたァァァァッ!!」
「「「お許しくださいぃぃぃっ!!」」」
団長に続き、数十人の屈強な騎士たちが一斉に地面に額を擦り付ける。
ポポロ村の広場に、重装備の男たちの美しい土下座ウェーブが完成した。
「えっ? あ、あれ……?」
良樹が呆然としていると、背後からタタタッ、と足音が近づいてきた。
村長のキャルルである。
彼女は顔を真っ赤に紅潮させ、潤んだ瞳で良樹を見つめ上げていた。
「良樹さん……っ! あなた、この村に被害を出さないために、撃つ瞬間にわざと砲身を上に向けて……! ごめんなさい、私、あんなにすごい人だなんて知らなくて……っ!」
(いや、ただ反動で後ろにひっくり返っただけでござるよ!? 山が消えたのを見て、拙者が一番ビビってるでござるよぉぉ!?)
良樹の悲痛な心の叫びは、誰にも届かない。
「ダーリン様ぁぁぁ! かっこよすぎますぅぅ!」
リーザが猛ダッシュで飛び込んできて、良樹の腰にギュッと抱きついた。
「もう私、一生ついていきますぅ! パンの耳生活には絶対に戻りません! 私の専属プロデューサー(スポンサー)になってくださいぃぃ!」
「だーかーらー! 誰がダーリンでござるかぁぁぁ!!」
ヒロイン二人からの好感度と尊敬が、限界突破してしまった瞬間だった。
(……やれやれ。騒がしい人間どもだ)
屋台の横で、ロード(始祖竜)は呆れたように鼻を鳴らした。
村の平和(と、自身の牛丼ライフ)が守られたことに満足しつつ、彼は良樹の脳内に直接テレパシーを送りつける。
(おい、良樹。茶番は終わったか。ならばさっさと飯にしろ。我は腹が減った)
「ト、トカゲ殿……じゃなくてロード殿まで! 空気読んでほしいでござる!」
良樹がツッコミを入れていると、土下座していた騎士団長が、震える手で革袋を差し出してきた。
「こ、これは我々の迷惑料(全財産)です! どうか、どうか命だけはお助けを……っ!」
ずっしりと重い革袋。中には大量の金貨や銀貨が詰まっている。
「……ふむ。罪を悔い改めるというのなら、漆黒の魔闘剣士としてこれ以上の追及はしないでおくでござる。さっさと消えるが良い!」
良樹がドヤ顔で言い放つと、騎士団は「ははぁーっ!」と再び額を擦り付け、乗ってきたワイバーンやジオ・リザードと共に、逃げるように村から去っていった。
* * *
数十分後。
ポポロ村の広場には、再び平和な時間が戻っていた。
「さぁ、みんな! 迷惑料も貰ったし、今日は特別大盤振る舞いでござるよぉぉ!」
『サスガ屋』の屋台の前に、良樹の威勢の良い声が響く。
【 ピロッ♪ 善行(村の危機を救う)を検知しました。 +10,000 pt 】
騎士団を追い払ったことで、規格外の善行ポイントをゲットした良樹は、空中のパネルをタップして次々と丼を召喚していく。
「お待たせでござる! 『始祖竜の直火炙り・チーズ牛丼』! そして今日は特別に『ネギ玉豚丼』も追加でござるよ!」
ゴォォォォォッ!
ロードが(面倒くさそうに)絶妙なプチブレスでチーズを炙る。
香ばしい匂いが広場を満たし、村人たちの歓声が上がった。
「はふっ、はむっ……! 豚丼も最高ですぅ! ダーリン様、豚汁のおかわりお願いしますぅ!」
口の周りをタレだらけにしながら、リーザが幸せそうに丼をかき込む。
「良樹さん、私も少し手伝うわね。はい、お茶をどうぞ」
キャルルが甲斐甲斐しく、屋台の横で村人たちにお茶を配っている。
その光景は、まるで若夫婦が営む人気食堂のようだった。
(……ふふっ。まさか、深夜のバイト帰りにトラックに跳ねられた時はどうなることかと思ったけど)
良樹は、忙しく立ち働きながら、青い空と二つの月を見上げた。
魔法も闘気も使えない。
親父にもぶたれたことがない、ただの小心者な中二病大学生。
そんな自分が、気高き村長、貧乏アイドル、そして最強の始祖竜と共に、辺境の村で屋台を引いている。
「ククク……悪くない。悪くないスローライフでござるな!」
良樹は黒コートの裾を翻し、今日一番の笑顔で叫んだ。
「いらっしゃいませでござる! 至高の一杯、サスガ屋へようこそぉぉ!!」
こうして。
後にマンルシア大陸全土の経済と胃袋を支配し、神々すらも列に並ばせることになる伝説の移動丼屋『サスガ屋』の、長くも騒がしい日常が幕を開けたのである。
【第一章 完】




