EP 8
【急転】悪徳騎士団の来襲
『サスガ屋』のオープンから数日後。
ポポロ村の広場は、連日かつてないほどの賑わいを見せていた。
「フハハハハ! 儲かる! 儲かるでござるよぉぉ!」
良樹は屋台の裏で、小箱に山と積まれた銅貨や銀貨を数えながら、ゲスい笑みを浮かべていた。
美味くて安い『始祖竜の直火炙り・チーズ牛丼』の噂は、あっという間に行商人を経由して近隣に広まった。
今やサスガ屋の所持ポイントは【 15,200 pt 】。
この圧倒的なポイントと売上で、良樹は先日、村を訪れたドワーフの行商人から「あるロマン武器」を衝動買いしてしまっていた。
(男の子たるもの、ポイントと金が貯まったら『ガチャ』か『クソデカ武器』に全ツッパするのが異世界転生の定石でござるからな! 使う予定はないけど!)
「ダーリン様ぁ! 牛丼おかわりですぅ! 今日は紅生姜マシマシでお願いしますぅ!」
「だーかーらー! ダーリンと呼ぶなでござる!」
相変わらずパンの耳を卒業し、牛丼の虜となったリーザにツッコミを入れた、その時だった。
――ドゴォォォォォォォンッ!!!
突然、ポポロ村の入り口方面から、鼓膜を破るような爆発音が轟いた。
広場にいた村人たちが悲鳴を上げ、一斉にしゃがみ込む。
「な、なんでござるか!?」
良樹が驚いて振り向くと、村の木柵を強引に踏み潰し、土煙を上げながら数十人の重武装した集団がなだれ込んでくるのが見えた。
彼らが騎乗しているのは、獰猛な『ワイバーン』や装甲車のように分厚い鱗を持つ大型の『ジオ・リザード』。
先頭に立つのは、派手な金ピカの鎧を着た、いかにも傲慢そうな騎士団長だった。
「ガッハッハ! 辺境の田舎村の分際で、我ら『強欲の牙』騎士団を待たせるとはいい度胸だな!」
男の怒声に、村人たちが震え上がる。
ポポロ村は三国間の緩衝地帯だが、その隙を突いて私腹を肥やそうとする悪徳傭兵や野盗上がりの騎士団が時折ちょっかいをかけてくるのだ。
「貴様らの村で、食えば闘気が爆上がりする『魔法の肉料理』を出していると噂を聞いてな! そのレシピと料理人、そしてそこの青髪の女と兎耳の女は、我々が奴隷として没収する!」
「ひぃぃっ!? なんで私まで!? 私、ただ牛丼食べてるだけのアイドルなんですけどぉ!?」
リーザが牛丼の器を抱きしめたまま涙目になる。
(……やれやれ。ホッブズの言う『万人の万人に対する闘争』が、こんな田舎村にまで。人間の強欲とは果てしないものだな)
屋台の横で、ロード(始祖竜)は「またか」という顔で欠伸をした。
だが、その時。
良樹の隣から、スゥッ……と恐ろしいほど冷たい空気が流れ出した。
「――人の村を荒らして、私の大切な居場所(日常)を壊そうっていうの?」
声の主は、ポポロ村村長のキャルルだった。
彼女の瞳からハイライトが消え、完全にヤンデレ気質の『闇』が漏れ出ている。
「ふふっ。顎、砕かれたいみたいね」
ギリ、と彼女が足元を鳴らした。
ルナミス帝国特注のワークブランド『タローマン』製の強化安全靴。その内部に仕込まれた雷竜石が、チリチリと紫電の火花を散らし始める。
このまま彼女が『超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)』を放てば、悪徳騎士団は一瞬で肉片となるだろう。
しかし――。
良樹の脳内に、最悪のシミュレーションが駆け巡った。
(ま、待つでござる! 村のド真ん中でマッハ1の飛び蹴りなんかされたら、衝撃波で拙者の『サスガ屋』まで吹き飛んでしまうでござるよぉぉ!?)
せっかく築き上げた平和な牛丼ライフ(とポイント無限ループ)が、キャルルの必殺技の余波で物理的に消滅してしまう。
それだけは、絶対に阻止しなければならない!
「待たれよ、キャルル殿!!」
良樹は恐怖でガクガク震える膝を必死に気力で抑え込み、バサァッ! と黒コートを翻して、キャルルの前に立ち塞がった。
「え……? よ、良樹さん?」
「フッ。このような有象無象の小悪党に、気高き村長殿が手を汚す必要はないでござる。ここは、漆黒の魔闘剣士たるこの拙者が引き受けよう!」
ビシィッ! と、良樹は騎士団長に向けて右手を突き付けた。
(い、言っちゃったぁぁぁ! 親父にもぶたれたことないのに、あんなゴツい鎧の連中の前に出ちゃったでござるぅぅぅ! 誰か助けてぇぇ!)
内面では滝のような冷や汗を流し、今にも土下座しそうな良樹。
だが、その背中を見たヒロインたちの目には、全く別の光景が映っていた。
(私のために……彼が、あの細い体で盾になってくれた……!?)
キャルルは胸を両手で押さえ、顔を真っ赤にして良樹の背中を見つめた。
(ダ、ダーリン様……! スパチャもしてくれて、悪者からも守ってくれるなんて……一生ついていきますぅ!)
リーザも牛丼の器を握りしめ、感動の涙を流している。
「ガッハッハ! なんだそのモヤシ男は! 俺たちのジオ・リザードに踏み潰されたいのか!」
騎士団長が嘲笑し、配下の騎士たちも一斉に下劣な笑い声を上げた。
「ククク……笑うが良い。だが、その笑みもあと3分で絶望に変わるでござるよ」
良樹は、震える手で腰の『魔法ポーチ(拡張インベントリ)』に手を突っ込んだ。
先日、ドワーフの行商人から有り金を全ツッパして購入した、男のロマン結晶体。
「刮目せよ! これが深淵より喚び出されし、我が魔竜の咆哮でござるッ!!」
ズズズンッ!!
良樹がポーチから取り出したのは、彼の身長を優に超える巨大な鋼鉄の筒――ドワーフの狂気の産物、『竜撃砲』だった。
「な、なんだあのバカでかい筒は!?」
騎士団長の顔から、余裕の笑みが消える。
(さぁ、後戻りはできないでござる! 撃つしかない! 撃つしかないでござるよぉぉ!)
良樹は巨大な砲身を肩に担ぎ、冷や汗をダラダラ流しながら、発射準備のプロセス(ただの妄想)へと移行した。
果たして、小心者の中二病男は、この絶体絶命の危機を乗り越えられるのか!?




