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ハズレスキル『丼マスター』で異世界スローライフ?〜ゴミ拾いしてたら始祖竜が懐いたので、辺境の最強村で至高の牛丼屋はじめます〜  作者: 月神世一


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EP 3

トカゲと奴隷商人

「おい、さっさと歩けこの駄トカゲ! こっちから良い匂いがしたんだよ!」

バシィィィッ! という無慈悲な鞭の音が、深夜の森に響き渡った。

牛丼の空どんぶりを抱えたまま、良樹は木の陰に身を隠し、ガタガタと震えていた。

茂みを掻き分けて現れたのは、でっぷりと太った悪徳商人風の男と、馬車に繋がれた一頭の巨大なトカゲだった。

「ひぃぃっ……! で、出たでござる! 異世界テンプレの悪党とモンスター! しかもトカゲのサイズがトラック並みにデカいでござるよ!?」

良樹が怯えるのも無理はない。

男に鎖で引かれているのは、マンルシア大陸では一般的な騎乗用の魔獣『ジオ・リザード』。

しかし、その体には無数の痛々しい傷跡が刻まれ、首には重々しい鉄の奴隷首輪がはめられていた。

バシッ! と再び鞭が飛ぶ。

だが、その巨大なジオ・リザードは、痛がる素振りすら見せなかった。

ただ、どこか退屈そうな、あるいは達観したような――ひどく知的な瞳で、己を打つ商人を静かに見下ろしているだけだ。

(……なんだ、あのトカゲ。まるで『ツァラトゥストラ』でも読んだ後のような、悟りきった目をしているでござるな)

そんな現実逃避気味の感想を抱いた良樹だったが、これ以上関わるのは危険だと判断し、こっそり逃げ出そうと一歩後ずさった。

その時である。

【 ピロッ♪ クエスト発生:不当に虐げられた命を救いなさい 】

【 報酬: +1000 pt 】

「――――ッ!?」

良樹の足が、ピタリと止まった。

(せ、せんポイント……!? 1000ポイントでござるか!?)

良樹の脳内で、凄まじい速度で計算式が弾き出される。

牛丼(並)が100pt。つまり10杯分。

いや、ポイントを贅沢に使えば『特盛牛丼・豚汁・お新香・生卵つきスーパーセット』すら出せるかもしれない。

恐怖と食欲。

二つの感情が良樹の中で激しくぶつかり合い――勝ったのは、圧倒的な『食欲ポイント』だった。

「ク、ククク……ッ! 愚かなる俗物め。我が深淵の眠りを妨げた罪、万死に値するでござるよ!!」

良樹は震える膝を必死に隠し、バサァッ! と黒のコート(ルナミス帝国で買ったただの防寒着)を翻しながら、月明かりの下へと躍り出た。

「ひぃっ!? な、なんだお前は! 山賊か!?」

「山賊などという下等な輩と一緒にしないでいただきたい! 拙者は漆黒の魔闘剣士……。その気高き竜を縛る鎖、今すぐ解き放つでござる!」

ビシィッ! と、震える指先で商人を指差す。

商人は一瞬ビクッとしたが、良樹が丸腰で、しかも足がガクガク震えていることに気づくと、下卑た笑いを浮かべた。

「なんだ、ただの頭のおかしいガキじゃねぇか。このジオ・リザードを解放しろだと? 冗談じゃねえ! こいつは借金のカタに引き取った俺の所有物だ! 欲しけりゃ金貨1枚(約1万円相当)出しな!」

金貨1枚。

もちろん、異世界に来たばかりの良樹がそんなものを持っているはずがない。

(ど、どうする!? 親父にもぶたれたことないのに、あんな鞭を持ったおっさんと戦うなんて絶対に無理でござる!)

良樹は焦りながら、ポケットを探った。

そこで手に触れたのは、バイト帰りのまま持っていた『財布』だった。

(……これだ!)

「フハハハハ! 金貨1枚だと? 笑わせるな! 貴様のような下賤の者には、これの真の価値が分からぬかもしれぬがな!」

良樹は財布から、一枚の紙幣をドヤ顔で取り出した。

――福沢諭吉が印刷された、日本の『一万円札』である。

「見よ! これは東方の果てに存在した大賢者『ユキチ・フクザワ』が封じられし伝説の魔符(お札)! この緻密な魔方陣すかしと、決して真似できぬ神聖なる紙質……。金貨1枚どころか、城が建つほどのアーティファクトでござるぞ!!」

良樹の中二病全開のハッタリに、商人は目を丸くした。

彼は一万円札をひったくり、月明かりに透かして見る。

「な、なんだこの異常なまでに精巧な透かし絵は!? しかも紙じゃない、なんだこの不思議な手触りは……っ! ひぃぃ、本当に伝説の魔導書の一片かもしれねぇ!」

異世界の火縄銃レベルの文明では、現代日本の紙幣のホログラムや透かし技術は、どう見ても『超高度な魔法技術の産物』にしか見えなかった。

「よ、よし! この魔符と交換だ! ほらよ、こいつの奴隷首輪の鍵だ!」

商人は一万円札を大事そうに懐にしまうと、良樹に鉄の鍵を投げつけ、馬車に乗って逃げるように走り去ってしまった。

「……ふぅ」

馬車が見えなくなった瞬間、良樹は膝から崩れ落ちた。

「怖かったぁぁぁ! マジでチビるかと思ったでござるぅぅ!!」

さっきまでの威勢はどこへやら、良樹は涙目で地面に突っ伏した。

そんな情けない青年を、巨大なジオ・リザードが静かに見下ろしている。

(……奇妙な人間だ。己の命が惜しいくせに、全く価値のない紙切れ一枚のハッタリで、我の首輪を外そうというのか)

奴隷首輪など、始祖竜であるロードにとっては、いつでも指一本……いや、ため息一つで消し飛ばせる代物だった。

ただ『騒ぎを起こすのが面倒』だから、『孫子の兵法』に則って大人しくしていただけである。

だが、この計算外のノイズ(良樹)の行動は、悠久の時を生きて退屈しきっていた彼にとって、ほんの少しだけ面白いものに映った。

ガチャリ。

良樹が這いつくばりながら鍵を差し込むと、重々しい鉄の首輪が地面に落ちた。

「これで自由でござるよ、トカゲ殿。……さぁ、拙者も早く街に行かないと野垂れ死ぬでござる……」

良樹がフラフラと立ち上がった瞬間。

【 ピロッ♪ 『人助け』を達成しました。 +1000 pt 】

「――――キタァァァァァァァァッ!!!」

深夜の森に、良樹の歓喜の絶叫が響き渡る。

彼は先ほどまでの疲労も恐怖も忘れ、空中にメニュー画面を呼び出した。

「ふははは! 拙者の善行が世界に認められたでござる! これで明日も牛丼が食える! いや、明日はカツ丼にしてやるでござるよぉぉ!」

歓喜の舞を踊る良樹。

その後ろを、首輪の取れた巨大なジオ・リザード(始祖竜)が、足音も立てずにトコトコとついていく。

(……ふむ。我が主と呼ぶにはあまりにも間抜けだが。……まあ良い。『君主論』によれば、人間とは利用するもの。この男、観察するに足る面白さがある)

こうして、小心者の中二病大学生と、哲学を拗らせた隠居神(始祖竜)という、マンルシア大陸全土を巻き込む最凶最悪の勘違いコンビが、ここに誕生したのであった。

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