第三章「ポイント崩壊と天使の配信! そして、死を呼ぶ四番(ハードボイルド)の鎮魂歌」
祭りの後と、猫耳守銭奴の無慈悲な算盤
「ふぁぁ~……よく寝たでござる。昨日の『至高の海神宝箱』、最高だったでござるな……」
ポポロ村の朝。
村長宅の庭先に停められた『サスガ屋』の屋台の裏で、良樹は大きく伸びをした。
三大国の徴税官を撃退(幻覚漬け)したボーナスで得た50,000pt。昨夜はその大半を全ツッパして、ヒロインたちと特大の海鮮桶をつつくという、異世界転生者としてこれ以上ない至福の夜を過ごしたのだ。
「さて、昨日はあれだけ大盤振る舞いしたとはいえ、まだ数千ポイントは残っているはずでござる。今日の朝飯は優雅に『特上うな重』でも……ステータス・オープン!」
良樹はウキウキ気分で、空中にホログラムパネルを呼び出した。
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【ユニークスキル:丼マスター】
所持善行ポイント: 3 pt
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「…………」
良樹は、右目をごしごしと擦り、もう一度パネルを見た。
「…………さん?」
一・十・百・千……と桁を数えるまでもない。ただの『3』である。
うな重どころか、紅生姜のトッピングすら怪しい数字だ。
「な、なんでござるかぁぁぁ!!? 拙者のポイントが! 湯水のように湧いていた魔力が、完全に枯渇しているでござるよぉぉ!?」
村中に響き渡るような良樹の悲鳴。
その時、屋台の横から「スゥーッ……プハァ……」と、紫煙と共にのんびりとした声が聞こえてきた。
「おはようさん。朝からえらい元気がよろしいなぁ、店主はん」
「びくぅっ!? な、誰でござるか!」
振り向いた良樹の前に立っていたのは、猫の耳と尻尾を生やした、細身の青年だった。
年齢は25歳ほど。仕立ての良い商人風の服を着こなし、口元には煙管を咥えている。そして、その手には彼の相棒である『算盤』が握られていた。
「わいはニャングル。ゴルド商会のゴールドランク商人にして、このポポロ村の『財務担当』をやらせてもろてます」
「財務、担当……?」
ニャングルはニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべながら、手元の算盤をカチャカチャと弾き始めた。
「いやぁ、昨夜の宴は凄まじかったでんなぁ。あれだけの巨大桶、さぞかし後片付けが大変やったやろ? せやから、わいが村のおばちゃん連中を総動員して、深夜の『特急配膳・清掃サービス』を手配しときましたんや」
「えっ? あ、そういえば……朝起きたら綺麗に片付いてたでござるな。それはありがたいでござるが……」
「それと、広場の『無許可占有ペナルティ』と、巨大桶の『魔導産廃処理費用』。それに加えて、三大国が来るたびに村のブランド価値が上がるっちゅう、わいの『先物取引・特別コンサル料』やね」
ニャングルは煙管の灰をポンと落とし、片目を細めた。
「〆て、49,997ポイント。あんさんのスキル口座から、タロウ・ペイ経由で『システム天引き(経済封鎖)』させてもらいやしたで♡」
「――――ッ!!??」
良樹の心臓が止まりかけた。
この猫耳の守銭奴、良樹が持つ「善行ポイント」のシステム的な隙(L-Payとの互換性)を完全に突き、合法的な名目で全財産を強制徴収したのである!
「き、貴様ぁ! そんなぼったくり請求、誰が認めるでござるか!」
良樹が抗議の声を上げた瞬間。
ニャングルのニコニコしていた両眼が、スッと細められた。
猫耳族特有の『神眼の動体視力』。それが良樹の瞳孔の開き具合、発汗、筋肉の強張りを一瞬でスキャンし、彼の「底」を完全に見透かす。
「……ほう。払えんっちゅうなら、この請求書、キャルル(幼馴染)に回してもええんやで? あの子、村の借金のためなら、また血を吐くまで月光薬を作り続けるやろなぁ……」
「ぐっ……!!」
最も痛いところ(ヒロインの自己犠牲)を突かれ、小心者の良樹は完全に沈黙した。
喧嘩などせず、ただ「算盤」と「情報」だけで相手を完全に屈服させる。これがポポロ村の裏の支配者、ニャングルの恐るべき交渉術であった。
「まいどあり♡ ほな、今後もよろしゅう頼んますわ、店主はん」
ニャングルは再び人懐っこい笑顔に戻ると、紫煙を残して軽やかに去っていった。
* * *
数十分後。
ポポロ村のメインストリートでは、黒コートの青年が、涙と鼻水を流しながらドブの中で這いつくばっていた。
「ゼェ、ゼェ……! クソッ! あの猫耳守銭奴め! 許さないでござる! 絶対に許さないでござるよぉぉ!」
【 ピロッ♪ 善行(溝掃除)を検知しました。 +50 pt 】
【 ピロッ♪ 善行(ゴミ拾い)を検知しました。 +1 pt 】
「うぅ……ポイントの音が、ポイントの音が身に染みるでござる……! 今日の昼飯は『牛丼(並)』で我慢するでござるよぉぉ……」
50,000ptの栄光から一転、再び底辺ポイ活地獄へと叩き落とされた良樹。
(――アダム・スミスは『国富論』にて、「見えざる手」による富の再分配を説いたが……)
泥まみれで働く良樹の姿を、屋台の横で寝そべりながら見つめていたロード(始祖竜)は、心の中で深くため息をついた。
(一人の愚か者に富が集中せぬよう、システムが自動的に搾取する。見事なまでの完璧な再分配だな。あの猫耳、まさに『資本主義の番犬』だ。……やれやれ、我の今日のメシも当分は『並』になりそうだな)
最強の哲学竜による、あまりにも的確な冷や水。
かくして、ハイパーインフレの危機は回避され、サスガ屋の自転車操業スローライフは、元の正常な姿へと原点回帰を果たしたのである。




