EP 10
最強の防衛(?)拠点、ポポロ村
物理最強の村長、幻覚防衛の天然エルフ(ルナ)、遊撃工作と土木の極貧令嬢、そしてパンの耳を貪る底辺アイドル(リーザ)。
三大国の徴税官すらも無力化(幻覚漬け)して追い返したことで、ポポロ村は図らずもマンルシア大陸において「絶対に手を出してはいけない最凶の要塞」として完成しつつあった。
しかし、当の住人たちにそんな自覚は微塵もない。
「さぁ、皆の者! 今日は村の平和と、我ら『サスガ屋パーティ』の結束を祝して、過去最大の宴を催すでござるよぉぉ!」
夕暮れのポポロ村広場。
良樹は屋台の前に立ち、黒コートをバサァッ!と翻して高らかに宣言した。
その手には、先ほどの「無血開城ボーナス」で得た【 50,000 pt 】という、かつてない桁外れの魔力が握られている。
「ダーリン様ぁ! 宴ってことは、今日は牛丼のお肉が二倍ですかぁ!?」
リーザが空のどんぶりとマイ箸を両手に持ち、目をキラキラさせて飛び跳ねる。
「フッ。甘いでござるよリーザ殿。今日の拙者は一味違う。……刮目するが良い! これが、冥界の深淵より引き上げられし、海神の遺産でござる!!」
良樹は空中のパネルを、親の仇のように連打した。
消費ポイント、一万。二万。三万……全ツッパである!!
「いでよ! 『至高の海神宝箱』ッ!!」
カァァァァァァァァァッ!!!
これまでで最大級の魔法陣が展開され、広場のど真ん中に設置された巨大なテーブルの上に、『それ』はズシンッ! と重々しい音を立てて顕現した。
「なっ……!?」
「こ、これは……っ!!」
ヒロイン四人が、あまりの光景に息を呑み、言葉を失った。
それは、もはや「丼」という枠に収まるものではなかった。
直径一メートルはあろうかという巨大な木製の寿司桶。
その上に、まるで宝石箱をひっくり返したかのように、海の幸がこれでもかとばかりに積み上げられているのだ。
黄金色に輝く、大粒のウニの山。
ルビーのようにキラキラと光を反射する、こぼれんばかりのイクラ。
分厚く切られ、美しい霜降りの脂が乗った大トロ。
手のひらほどもある巨大な赤海老に、コリコリとした食感が伝わってくるようなアワビ、そして極太のズワイガニの爪。
酢飯の香りと、磯の豊潤な香りが、暴力的なまでの質量を持って広場に充満する。
「う、う、うわぁぁぁぁぁっ!!」
リーザが感極まって号泣した。
「パ、パンの耳にネギを乗せてお寿司の味を想像してた私が……本物の、海のお宝の前に……っ! お母様ぁぁぁ!」
「リーザ殿、泣いてないで食うでござる! 今日は無礼講でござるよ!」
「いただきまぁぁぁぁす!!」
リーザが猛然と桶にダイブし、大トロとウニを同時に口に放り込む。
「んんんんんんんっ! 溶けるぅぅ! お肉じゃないのに脂が甘いですぅぅ! イクラが口の中でプチプチ弾けて……っ! 生きててよかったぁぁ!」
「ちょっと、私にも食べさせなさいよ! ……はむっ! な、何これ……! これまで野営で食べてた缶詰のスープと干し肉は、一体何だったの……っ! アワビの歯ごたえと旨味が、脳髄に響くわ……!」
ダイヤも真紅の鎧をガシャガシャ鳴らしながら、感涙にむせび泣きながらカニ爪にかぶりつく。
「わぁ……綺麗ですね! いただきまーす! んっ、お魚さんが新鮮でとっても美味しいです!」
ルナは相変わらず優雅に、しかし恐ろしいペースでエビを平らげていく。
「ふふっ。良樹さん、本当にありがとう。あなたが来てから、この村は毎日がお祭りで、とっても楽しいわ」
キャルルが、イクラの乗った酢飯を上品に頬張りながら、蕩けるような笑顔で良樹を見つめた。
(ククク……最高でござる。美少女たちに囲まれて、最強の飯を食う。これぞ異世界転生の醍醐味でござるよ!)
良樹もまた、わさび醤油をたっぷりつけた大トロを口に運び、そのあまりの美味さに昇天しかけていた。
(――エピクロスは、人生における最高の善は『快楽の追求』であり、苦痛の不在であると説いたが……)
屋台の横で、騒がしい宴会を眺めていたロード(始祖竜)は、心の中で静かに呟いた。
(この底抜けの馬鹿騒ぎと、胃袋を満たす暴力的なまでの旨味。……神だの権力だのと小難しいことを捏ね回すより、この『海鮮丼』を食らって笑うことこそが、宇宙の真理なのかもしれんな)
最強の哲学竜は、スッと立ち上がると、良樹の背後に歩み寄った。
(……おい良樹。我の分のウニと大トロを残しておけ。あの青い人魚に全て食い尽くされる前に、我にもその真理(海鮮丼)を味わわせろ)
「アッハイ、ロード殿の分は別皿に取り分けてあるでござるよ!」
良樹が慌てて巨大な皿を差し出すと、ロードは満足げに鼻を鳴らし、ウニと大トロを一口で丸呑みにした。
「……美味い」
夜空には二つの月が浮かび、ポポロ村の広場には絶え間ない笑い声と、美味いものを食べる幸せな咀嚼音が響き渡っている。
小心者の中二病男が始めた、小さな移動丼屋『サスガ屋』。
その周りには、いつの間にか最強で最凶で、最高に騒がしい仲間たちが集まっていた。
「フハハハハ! 宴はこれからでござるよ! サスガ屋は、明日も元気に営業でござる!」
かくして、マンルシア大陸全土を巻き込む彼らの狂想曲は、さらなるカオスと飯テロを予感させながら、賑やかに夜の闇へと溶けていくのだった。




