EP 8
おもてなしの魔植物
「へっへっへ……エルフのねーちゃんが、俺たちを直々に『おもてなし』してくれるってのかい? こいつは最高じゃねぇか!」
ルナミス、アバロン、レオンハート。
三大国からやってきた強欲な徴税官たちは、下卑た笑いを浮かべながら、無防備に微笑むルナへと歩み寄っていった。
「ダメでござるルナ殿! こいつらは話の通じる相手じゃないでござる!」
良樹が慌てて止めに入ろうとする。
だが、ルナは天使のような笑顔を崩さないまま、パチン! と指を鳴らした。
「ふふっ。遠くから来て疲れている皆さんに、ポポロ村からのささやかなプレゼントです! 出ておいで、『ハッピー・ドリーム』ちゃんっ!」
ポンッ!
ルナの足元に魔法陣が浮かび上がり、そこから一株の巨大な『植物』が顕現した。
それは、鮮やかなピンク色をした巨大な食虫植物のような花だった。
しかし、そのビジュアルは『可愛い』とは程遠い。花弁の隙間からはダラダラとスライム状の謎のヨダレを垂らし、周囲には太くウネウネと蠢く無数の『触手』を生やしている。
どう見ても、一歩間違えれば年齢制限(BAN)に引っかかりそうな禍々しい魔植物である。
「な、なんだこの気色の悪い花は……っ!?」
徴税官たちがギョッとして足を止めた、その瞬間。
シュババババババッ!!!
ハッピー・ドリームの触手が、目にも止まらぬ速度で空を切った。
「「「!? ギャァァァァッ!?」」」
先端が注射針のように鋭くなった触手が、三十人近くいる徴税官たち全員の首筋(延髄のあたり)に、一斉に『ブスッ!』と突き刺さった。
「ヒィィィィッ!! 刺さった! 刺さったでござるよルナ殿ォォォ!?」
良樹が頭を抱えて悲鳴を上げる。
ついに天然エルフが、純粋な善意で公務員を物理的に殺害してしまった!
ポポロ村の平和な日常はここで終わ――。
「……あ、あひぃぃ……。こ、ここは……天国か……?」
良樹が絶望しかけた直後、信じられない光景が目の前に広がった。
首に触手を刺されたままの徴税官たちが、一斉に武器を取り落とし、顔を真っ赤にして『だらしない笑み』を浮かべ始めたのだ。
「ウヘヘヘ……! す、すげぇ! 俺の目の前に、絶世の美女が百人も……! は、はーい! あーんしてくださぁい!」
「おおっ! この酒、最高級のヴィンテージじゃないか! ガハハ! 飲め飲めぇ!」
「金だ! 金貨の山だぁ! これ全部俺にくれるっていうのかい!? ポポロ村、サイコーッ!!」
役人たちは、何もない虚空に向かって抱きついたり、見えないワイングラスを傾けたりしながら、ヨダレをダラダラと垂らして恍惚の表情を浮かべている。
「る、ルナ殿……こいつら、一体どうなってるでござるか!?」
「えへへ! ハッピー・ドリームちゃんは、相手の脳内に直接『その人が一番望んでいる最高に幸せな幻覚』を注入する植物なんです! みんな、美女とご馳走とワイロを疑似体験して、とーっても満足してくれてるみたいですよっ!」
ルナは胸を張り、純度100%のドヤ顔を見せた。
「完全な麻薬成分でござるぅぅぅ!!」
良樹は白目を剥いた。
純粋な善意から繰り出される、違法な幻覚催眠による強制多幸感テロリズム。ある意味、キャルルの飛び蹴りやダイヤの魔導バズーカよりもタチの悪い『おもてなし』である。
「うふふ……最高だ……。おう、ポポロ村の税金……確かに金貨三千枚、この最高のもてなし(幻覚)で受け取ったぜ……! ああ、もう仕事なんかどうでもいい……ここで一生暮らすんだぁ……」
徴税官のリーダーが、幸せそうに虚空を抱きしめながらへたり込んだ。
「ね? 誰も傷つかない、平和的な解決でしょ?」
ルナが満面の笑みで振り返る。
良樹は恐怖でガタガタと震えていたが、ふと横を見ると、キャルルとダイヤは意外にも納得したような顔をしていた。
「……まぁ、誰も血を流してないし、村の被害もゼロだから、いっか☆」
「そうね。私の弾薬費も浮いたし、平和が一番よね」
ポポロ村のヒロインたちの『常識』は、すでに完全に崩壊していた。
(――ルネ・デカルトは『方法序説』において、「我思う、ゆえに我あり」という真理に到達したが……)
狂気に満ちた広場の光景を、屋台の横で寝そべりながら見つめていたロード(始祖竜)は、心の中で冷ややかに呟いた。
(己の欲望が作り出した幻覚の海でしか『我』を満たせぬとは。人間の知性とは、一株の植物の毒にも劣るほど脆弱なものだな。……やれやれ、幻覚など見なくとも、我の目の前には至高の牛丼があるというのに)
最強の哲学竜のキレッキレなツッコミが脳内に響き渡る中、良樹は滝のような冷や汗を拭った。
(色々とアウトな気はするでござるが……とりあえず、税金問題はこれで解決した(?)ってことでいいんでござるよな!?)
村の利益を狙うハイエナどもは、天然エルフの『極上のおもてなし』によって、完全に無力化されたのである。




