幕間その1 007 003
これは崩壊災害の少し後の出来事…
(ここに戻って来るの、久しぶりだな)
鼎がいるのは緑地が多く閑静なエリア007である。帰りを待っている人間などいないが、彼女にとっては間違いなく故郷なのだ。
「何もないじゃん!オススメスポットとかないの鼎サン!」
(うるさっ…)
今回は桃香も一緒に着いてきていたが、彼女は何も無いエリア007に対する不満を隠そうともしなかった。鼎としては事前に「何もない」と言っていたから、馬鹿馬鹿しい限りである。
「お願いだから騒がないで…」
「鼎サンよくこんな何もない場所で暮らせたよねー。退屈で死なない?」
「随分な聞き方…やっぱり懐かしいとは思う」
鼎は静かに辺りの町並みを見回して、懐古していた。確かに彼女は、人類社会の隅であるこのエリアで生きてきたのだ。
「この先の山中に神社の跡があるよ。大して面白くないと思うけど見てみる?」
「神社?ジャパンの文化には興味があるんだよね」
桃香は僅かに目を輝かせながら、山の方へと向かった。鼎も後に続きながら、ぼんやりと辺りを見回す。
ーー
「神社…?これが?」
「そうだよ」
山を登った鼎と桃香の前にあったのは、古い構造材によって補強された神社の本殿だった。言われないと神社かどうかも分からないだろう。
鼎は「期待はずれ」と言われる事を予想していたが、桃香は静かに遠くの景色を眺めていた。近代化が進んでいるエリア003では山登りなどできないから貴重な体験なのだろう。
「こうしてみるとこのエリアも綺麗だね」
「…ここも嫌いじゃなかった」
夕暮れ時のエリア007からは、哀愁を感じさせられた。このエリアが少子高齢化の末に消滅するまで、そう遠くないだろう。
彼女達は陽が沈む様子を見てから、エリア003行きの列車に乗った。桃香が眠る傍らで、鼎は車窓から夜空を見上げていた。
ーー
そしてある日、鼎と桃香はラーメン屋に来ていた。鼎がこのエリアに来て最初の食事を摂った店だ。
「こんなに暑くなってるのにラーメンが良いの鼎サン?」
「やっぱり美味しいからね」
この店は桃香に勧められた店で、確かな美味しさがある豚骨ラーメンを食べれた。そこまで頻繁に通っている訳ではないが、たまに食べたくなる感覚がある。
「それにいつの間にか無くなってたら嫌だし」
「ここ人気店だから当分潰れないよ…」
そう言いながらも、桃香は鼎と一緒に店に入る。そして彼女達は食券を買って豚骨ラーメンを注文した。
具はチャーシューとネギの以前と変わらない豚骨ラーメンだった。スープはこってりしすぎてない、まろやかさを感じるもので、以前と変わらない美味しさだった。
ーー
「ラーメン久々に食べたけど美味しかったー!」
「…上機嫌だね」
帰宅した後も、桃香は満足した様子を見せていた。彼女は飽きたと言っていたが、久々に食べると美味しく感じるものなのだ。
「今日の夜ご飯は…昨日の残り物でいいよね?」
「インスタントでも良いんだけど。残ってるのがあるなら食べちゃおっか」
その日の夕食はキャロットラペ、野菜スープ、ハムとソーセージだった。簡単な料理で済ませるのが、彼女達の日常となりつつある。
ーー
その翌日。
「…学校に顔出せってさ」
「よく放校にならないね…」
「成績優秀だから。鼎サンも依頼来てるんでしょ」
「アナザーアースで活動している女優の浮気調査。正直しょうもないと思う」
「でもそれが鼎サンの仕事でしょ」
「ええ…崩壊災害の調査を再開する前の一仕事ってところ」
鼎は仮想現実アナザーアースで探偵として活動している。だが漫画やアニメの様な名探偵ではなく、依頼を受けて素行調査や浮気調査を細々とこなしている。
「それじゃあ行って来るよ鼎サン」
その声を聞いてから、鼎はアナザーアースにログインする。
こうして彼女達は生きていく。




