第12章 第6話 混戦
「やばい!隠れられる場所がない!」
「走って避けるしかないか…」
月光エリアのロビーに当たる場所は、特に複雑な地形ではなかった。その為、ナガレの攻撃を防ぐのに役立つ建物もなかった。
「あれ?さっきまでの威勢はどうしたの?」
ナガレは不思議そうな表情をしながら、ガトリング銃を乱射していた。彼女の方は明らかに余裕そうで、強者の自信があった。
「くっ…戦場のせいで不利すぎる!」
「どうにかして盾とか障害物を出せないかな…」
桃香は素早く生成プログラムを起動しようとしたが、それも無駄だった。以前は素早く銃を構築したりしていたが、今回はその暇すらない。
「この程度で諦めるの?」
そう言ったのはナガレの方だった。
「その程度の辛さで音を上げるなんて…根性足りないね〜」
「根性だけならこっちにもあるよ!」
「アンタ達、食べ物に苦労した事はある?それすら無いんでしょ?」
「…生活に苦労している人間は、テロ行為をしてもいいと言いたいの?」
「停滞こそ悪だよ」
ナガレは話が通じないタイプだという事は明らかである。だが挑発したり煽る事で隙を作れそうな相手でもない。
「私達のシティOI…どんな場所か知ってる?」
「…見捨てられた宇宙都市、でしょ」
「学校の授業で教えられないって聞いたけど、ちゃんと調べたんだ?」
「あなた達の動機を知る為にね」
鼎は冷静さを失っておらず、反撃の機会を窺っていた。相手が話に応じるだけでも、情報を引き出せる可能性はある。
「まさか人が住んでるだなんて考えもつかなかったけど…」
「皆死んだって思ってた?」
ナガレの表情が不愉快そうに歪み、鼎はいい兆候だと判断した。苛立ちは正確な照準に間違いなく悪影響を与える。
「酸素はあるから、呼吸自体はできるんだよ」
「自給自足自体も、可能な都市…」
「ただ単に宇宙に追い出されたから、復讐してるってワケ?」
鼎も桃香もナガレ達がテロ活動に拘る理由が分からなかった。ただ単に自分達の存在をアピールして、地上への帰還を目指すだけではダメなのか。
「私達の街は支配階級が牛耳っている。それ以外の人に人権なんてないの」
「…それは初耳」
やっと新しい情報をナガレから引き出せそうなので、鼎は慎重になっていた。少しでも情報を手に入れてユームを守り切れれば、ナガレに勝つ必要はない。
「地上は平和だよねー内乱とか無いし」
「確かに、ジオフロントに管理されたエリアなら、人類は容易に生き延びる事ができる」
世界大戦以来、地上では人類同士の争いはほとんど発生していない。地下組織の小競り合い等はあるが、それが民間人に被害を及ぼしているエリアは殆どない。
「支配階級と平民の争いが果てしなく続いている街が今もあるなんて、想像もできないでしょ」
「確かにそうだね…地上にも治安の悪いエリアはあるけど…」
王政による露骨な搾取など、とっくの昔のものというのが常識である。鼎も桃香も、まだ完全にどんな場所か想像できていなかった。
「考え込んでるところにドーン!」
ナガレはグレネードランチャーに持ち替えて、容赦なくぶっ放した。鼎と桃香は素早く回避手段を頭の中で考えたが、間に合わない。
鼎と桃香は直撃を覚悟したが、グレネード弾は彼女達に到達する前に爆発した。爆風は届いたが、ダメージはかなり小さかった。
(加勢?!まさかユームが…)
「ちょっと何やってるんですかナガレさん!」
「あの人は…誰?」
桃香からすれば、本当に見た覚えのない人物だった。黒髪のシンプルなアバターを使用している少女である。
「ここってただの過疎化したゲーム用のエリアじゃないですか。ここを荒らしてる理由はなんですか?」
「今取り込み中だから後にして!」
キーリアはナガレから作戦の内容を聞かされていなかったらしく、しつこく質問をしている。ナガレは鬱陶しそうにしており、今は相手にしたくないらしい。
「何この状況?」
「とにかく、ユームを安全な場所に連れて行こう」
鼎達からすれば、今ここでナガレを倒す必要性は薄い。情報を聞き出してユームの安全を確保するのが最優先だ。
「逃げられる…仕方ないな…」
「ナガレさん。作戦について、改めて教えてくれませんか」
ナガレは目で鼎達を追っていたが、執拗に追撃する必要性は薄かった。この状況になった以上、キーリアと共に撤退するべきだ。
「キーリア…私はあの街の惨状を知らしめるために、どんな事でもしなくちゃいけないの」
ナガレはキーリアと共に退いたが、その決意は堅かった…




