第12章 第5話 月食エリアの危機
『鼎サン今すぐ月食エリアに来て!』
普段戯けた調子の桃香からの焦ったメッセージを見て、鼎は迷わず月食エリアを目指した。何らかのトラブルが発生した事は間違いないのだ。
ーー
「これは…?!」
月食エリアは何者かの攻撃によって、既に荒れ果てていた。ゲームであるlunar eclipse project用の空間が何故ここまで激しい攻撃を受けているのか。
「鼎サン遅い!」
先に来ていた桃香の周囲には、男達が倒れていた。彼らの装備は、見覚えがあるものだった。
「例のテロ組織ね」
「やっぱりこのゲームそのものを破壊する事が目的かな?」
「でもこんな過疎ってるゲームを破壊する理由が分からない」
「取り敢えずお喋りは後!」
そう言われたので、鼎は桃香の後に続いて走った。今は色々考えるのではなく、敵を排除する事を最優先にするべきだった。
「怪我したプレイヤーはどれくらいいるの?」
「誰もいないよ」
「やっぱりね…プレイヤーに危害を加えるつもりなら、もっとユーザーが多いゲームを狙うはず」
「狙いはNPCだよ…間違いなく」
鼎はすぐに、そのNPCがユームだと分かった。このゲームには、どういう訳か自我を持つNPCがいるのだ。
「いた、ユームだ!」
「周りにいるのはテロ組織の奴らね!」
ピンク色の髪の少女であるユームは、既に囲まれていた。テロ組織の目的は、明らかに彼女を拘束する事だった。
「さて、派手に吹っ飛ばそうか!」
桃香がテロ組織の男達に向けて投げたのは、花火だった。だがこんなところでただの花火を投げる桃香ではない。
「のわあああぁ!」
花火の威力は爆弾に近く、男達は空中に吹っ飛んで地面に叩きつけられた。美しい花火の後には、気絶した男達が転がっていた。
「ユームは巻き込まれてない…完璧に計算したのね」
「ボクにとっては造作もないよ」
ユームは驚いていたが、鼎と桃香の顔を見て安堵した様子を見せた。
「助けに来てくれたのですか?」
「まあね。暴れてる奴らを倒さないとだし」
「とにかく指揮官格を探さないと」
ーー
「あれれ〜あの人達は…」
戦闘用エリアに身を潜めていたナガレは、鼎と桃香を観察していた。彼女達の登場は想定内だったが、現れるタイミングが早すぎる。
「また邪魔しにきた感じか〜」
ナガレは相変わらず笑顔だったが、明らかに不機嫌になりつつあった。まだ月食エリアでの目的地は達成していないのだ。
「私が直接ボコボコにするしかないね」
ナガレはそう言って、浮遊する大型の銃を複数召喚した。そして鼎達がいる地点に向けて、一斉に掃射し始めた。
ーー
「うわっなんか飛んできたっ!」
桃香は咄嗟に飛び退いて、鼎はペルタを庇いつつ後退した。それが敵の攻撃だと理解するのは容易なことだった。
「精密射撃だね〜」
すぐに高台の方…ではなくその陰に隠れている崩れた塔の方を確認した。攻撃の独特な軌道から、敵が素直な人物ではないと分かったのだ。
「げっ…もう見つかった」
「アイツは確か…」
「テロ組織の指揮官ね」
桃香と鼎は、すぐにナガレを見つけて警戒体勢になった。彼女の強さは充分に把握しており、それ故に危険である事を分かっていた。
「鼎サン、このまま戦う?」
「逃がしてくれるような相手じゃない…2人で挑めば、隙をつけるかもしれない」
桃香と鼎はナガレを前に逃げる事は無かった。




