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歳の差夫婦が整えて、生きる食卓〜料理とものづくりで暮らしを整える、歳の差夫婦の異世界スローライフ〜  作者: 望月 小鳥
転生編

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18/28

清湯スープと、琥珀色の湯気

 タルトタタンをフリージルームに収めてから、錬金・調合部屋へ向かった。


 作業台に薬草図鑑と調合の本を広げ、作業台の端に腰を下ろす。

今日もやることは決まっている。

読んで、鑑定して、参照して、黒板にメモをとる、この繰り返しだ。


 薬箪笥の引き出しを順番に開けながら、まだ確認できていない素材を一つずつ鑑定していく。

調合素材だけでなく錬金素材も混在しているうえ、鑑定レベルが足りずに情報が出てこないものも多い。

思っていたより、手間がかかる。


 そうして引き出しを一段ずつ下りていくと、見慣れない小瓶にたどり着いた。

水色の半透明で、とろみのある液体が入っている。


「鑑定」


 未精製スライム液(モンスター素材・錬金素材・調合素材)。


 用途も使い方も、何も出てこない。

Lv1の鑑定では、これが限界らしい。

黒板に名前だけ書き留めて次へ進んだ。


 それからしばらく、本を読み続けた。

ページをめくるたびに知らない素材の名前が出てきて、その度に薬箪笥を開け、鑑定して、図鑑と照らし合わせる。

地道な作業だが、少しずつ輪郭が見えてくる感覚は嫌いじゃない。


 区切りのいいところで顔を上げたとき、ふと棚に視線が止まった。

さっきの小瓶が目に入る。


 もう一度、手に取る。


「鑑定」


 未精製スライム液(モンスター素材・様々な用途に使用可能・食用化)。


「……さっきと違う?」


 思わず小瓶を持ったまま固まった。

先ほどとは明らかに表示内容が異なっている。

同じ素材を、同じスキルで鑑定したはずなのに。


 おかしい。


 試しに、自分に向けて鑑定を使ってみる。


「鑑定」


 スキルの一覧が視界に広がった。


 <鑑定:Lv2>

 <調合:Lv2>

 <錬金:Lv2>


「全部上がってた」


 誰もいない部屋に、独り言が落ちる。

気づかないうちに、上がっていたらしい。


 もう一度、小瓶に目を落とす。

食用化——スライムの見た目から食べ物を連想するとしたら、ゼリーだろうか。

精製すれば、固める素材として使えるかもしれない。

面白いとは思うが、今は優先することが他にある。


 Lv2で何ができるか確認しようと本を引き寄せる。


 調合はLv2から、単一効果の回復薬が作れるようになるらしい。

HP回復薬(小)、MP回復薬(小)——まずはここからだ。

錬金はLv2から素材の単純分解と基礎再構築ができる。

薬草粉、精製スライム液、粗糖、固形甘露……扱える素材の幅が一気に広がった。


「明日、ポーション作ってみよう」


 呟いてから、本のページを繰る。

ポーションの調合素材を確認すると、頭が少し痛くなってきた。


 HP回復薬(小)にはミール草粉末、精製スライム液、白湯、固形果実甘露が必要だ。

MP回復薬(小)はメル草、精製スライム液、白湯、固形果実甘露。


 どちらも精製スライム液と固形果実甘露が必要になる。

つまり調合の前に、錬金で素材を作らなければならない。

未精製スライム液を精製して、砂糖と果実水を煮詰め、さらに錬金で水分を分解して固形果実甘露を作る。

既に粉末になっている薬草もあるようだが、メル草は粉末にする工程が必要なようだ。


「……順番に整理しないとな」


 やることが思ったより多い。

黒板に手順を書き出しながら、明日の段取りを頭の中で組み立てていく。


 そのまま続きを読もうとしたところで、扉の外に静かな気配がした。


「奥様、そろそろお時間でございます」


 ヴァルドの声だった。


 本を閉じ、羊皮紙を重ねて端に寄せ、立ち上がる。

小瓶を棚に戻し、扉に手をかけた。


「今行きます」


 廊下に出ると、頭の中はもう夕食の段取りに切り替わっていた。



 キッチンへ向かいながら頭の中で段取りを組み立てた。

まず鶏ガラを仕込んで火にかける。

煮込んでいる間に、リュネ草(たんぽぽ)コーヒーを作る。


 キッチンの扉を開けると、リナがロッキングチェアから立ち上がった。


「奥様、本日の夕食の準備でございますか?」


「そうです。今日は鶏の清湯(チンタン)スープとリュネ草(たんぽぽ)コーヒーを作ります。少し手順があるので、一緒に覚えてもらえますか?」


「はい、お願いいたします」


 まず鶏ガラの下処理から始める。


「フリージルームから鶏ガラを出して、血の塊や余分なものを指で丁寧に取り除きながら、冷水でよく洗ってください」


 リナが両手で鶏ガラを持ち、水の下でゆっくりと洗い始める。

小さな手で丁寧に、血の塊を一つずつ確認しながら取り除いていく。


「次に、湯を沸かしてその中にくぐらせます。これで臭みと残った灰汁を抜きます」


「くぐらせる、とはどの程度の時間でございますか?」


「さっとで十分です。長く入れすぎると、肉の旨みまで抜けてしまいますから」


 リナが慎重な手つきで鶏ガラを湯にくぐらせ、すぐに引き上げる。

流水でもう一度洗い直したところで、鶏ガラを水を張った大鍋へ移した。


「火にかける前に、野菜の準備をしましょう。ベルネ(長ねぎ)は大きめに三つへ切り分け、オルニア(玉ねぎ)は半分に、ジェルナ(生姜)は薄切りにします」


 一つずつ手順を見せながら、リナに実際にやってもらう。


「ジェルナはこのくらいの厚さで大丈夫ですか?」


「ちょうどいいです。薄すぎると香りが飛んでしまうので、そのくらいが一番いいですよ」


 リナが小さく頷き、手を動かし続ける。


 野菜を鍋に加えて強火にかける。

表面がふつふつと沸き始めたところで、火を弱めた。


「ここからが大事です。表面に浮いてくる灰汁をおたまで丁寧に取り続けてください。ぐらぐら煮立てると鶏白湯(とりパイタン)になってしまうので、火加減は弱火のまま保ってください」


「……浮いてきたものを、こうして取り続ければよいのですね」


 リナがおたまを手に取り、鍋の前に立つ。

浮いてくる灰汁を丁寧に、一掬いずつ取り除いていく。

最初は少し迷いがあったが、すぐに手つきが安定してきた。


「良いですね。この調子で一時間半、煮込んでください」


「承知いたしました」


 リナに鍋を任せて、私はお昼にノームたちに運んでもらっていたリュネ草(たんぽぽ)の根をパントリーから取り出した。


 ざるに広げてタワシで土をよく落として水洗いする。

水気を軽く切ってから、根を一~二センチほどの長さに刻んでいく。


「リナ、少し手伝ってもらえますか? 少し苦味のある飲み物を作りたいんです。乾燥させる工程があるので、ドライでカラカラになるまで水分を飛ばしてもらえますか?」


「これを乾燥させるのですね。少々お待ちください」


 リナが刻んだ根にドライをかけると、みるみるうちに水分が抜けていく。

カラカラになったところで、今度はフライパンへ移して弱火にかける。


「深い茶色になるまでじっくり炒ります。木べらで焦がさないよう、ゆっくりかき混ぜてください」


 リナがフライパンの前に立ち、慎重にかき混ぜ始める。

しばらくすると、香ばしい匂いがキッチンに漂い始めた。


「奥様、色が変わってきております」


「もう少しです。根全体がしっかり色づいたら火から下ろして」


 リナが根の色を確かめながらかき混ぜ続け、やがて深い茶色に変わったところで火を止めた。


 焙煎した根を鍋に移し、水を五百ミリから一リットルほど加えて火にかける。


「沸騰したら弱火にして、五分から十分ほど煮出します」


 沸騰したところで、リナが火を弱めた。

じわじわと色が出てきて、鍋の中が深みのある美しい琥珀色に染まっていく。


「火を止めて、五分ほどそのまま置いてください。根が底に沈んだら、上澄みをカップに注ぎます」


 リナが丁寧に上澄みをカップへ注いだ。

琥珀色の液体が、静かにカップの底へ広がる。


「リナ、一口飲んでみてください」


 リナがカップを両手で包むように持ち、ゆっくり口をつけると、小さく目を瞬かせた。


「苦みがございますが、角がございません。香りに丸みがあります」


「リュネ草コーヒーは、朝や甘い物と合うと思うんですよね。今夜はタルトタタンと一緒に出しましょう」


「では、デザートの際にお持ちすればよいでしょうか?」


「そうしてもらえると助かります」


 出来上がったリュネ草コーヒーをポットへ移し、香りが飛ばないよう蓋を閉じた。


 その間も、リナは静かに灰汁を取り続けている。

鍋から立ち上る湯気が、ゆっくりとキッチンへ広がっていた。


 一時間半が経った頃、ざるとさらし布でスープを漉す工程に入る。


「リナ、ここも一緒にやってみましょう。さらし布をざるに敷いて、ゆっくりと注ぎます。急ぐと濁るので焦らず」


 リナが慎重な手つきでポットを傾ける。

透き通った淡い黄金色の液体が、下の鍋へゆっくり落ちていく。


「……綺麗でございます」


「そうでしょう。ここまで丁寧に作るとこうなります」


 そのスープに鶏もも肉を入れ、カルナ(にんじん)の乱切りを加えてしばらく煮る。

火が通ったところでセルナ(キャベツ)のざく切りを加え、サルディア塩で味を整えた。


「味の確認もしてみてください。塩加減はこのくらいで十分です」


 リナがおたまで一口すくい、口をつける。


「……旨みがございます。塩だけとは思えない深さです」


「鶏ガラをしっかり下処理して、時間をかけて煮出すとこうなります。濃さも煮出す時間で変わるので次は一人でできますよ」


 リナが小さく頷いた。

その目に、少しだけ手応えのようなものが見えた。


「あとはサラダと黒パンを添えて食堂に出してもらえますか?」


「承知いたしました。すぐに準備いたします」


 リナに後を任せて、私も食堂へ向かった。


 その前に、一つやることがある。

フリージルームからタルトタタンを一切れ取り出し、スープを小さな器に注ぐ。

リュネ草コーヒーも小さなカップへ注ぎ、シルバートレイにまとめた。


「リナ、礼拝堂に寄ってから食堂に向かいます」


「かしこまりました」


 シルバートレイを持って礼拝堂へ向かう。

扉を開けると、いつもの静かな空気が迎えた。

祭壇の前にトレイを置き、軽く頭を下げる。


「今日も一日、ありがとうございました。初めて作ったリュネ草コーヒーとタルトタタンです。鶏の清湯(チンタン)スープも一緒にどうぞ」


 返事はない。

でも、この場に置くことに意味がある。


 扉を閉め、廊下を歩いて食堂へ向かった。

もし少しでも楽しんでいただけたら、

続きも読んでいただけると嬉しいです。


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