信奉者
特異とされた熊の魔獣の消滅により、選抜予選会は予定通り進んでいった。予選会後、学院はその対応の遅さと曖昧さを強く非難され、追求することになるのだが、それはまた別の話。
死者重軽傷者、計三十八名。負傷者の中で予選会に残ると決めた二名以外は選抜権を放棄して棄権となった。
「バルト!鍵集めは私に任せてくれ!なっ!ブロータス!」
「いや、悪いよ。君たちも選抜になりたいわけでしょ?」
「そんなのどうだっていいさ!それよりバルト、君の事を聞かせてくれよ。」
後ろを歩くブロータスとシヴァはワニの言動には意識が向いていないようで、何か考えている様子だった。
「きっと二人もバルトの呼んだものについて考えているんだと思うよ。」
視線に気づいたワニは楽しそうに言う。二人の視線に気付き、ワニの言葉を聞いた二人も
「「うん。」」とハモるように頷き、バルトは逃れられない状況に追い込まれていた。しかし、バルト本人も彼らと同じように頭の中には疑問符ばかりが浮かんでいた。説明するどころか自分だって質問したい気持ちでいっぱいだった。
困惑した様子を察したワニは
「まぁいっか。いつでもいいから話せるときに話してよ。気長に待つからさ、」とバルトに笑いかけた。
「それで、これからは、」
少し沈黙が続き、シヴァがそれを破る。
「これからって、」
「脱落者は多く出たが、まだ選抜会は一日目だ。バルトの事を狙ってくる奴らもまだいるだろう。」
「ん?どういうこと。誰が?狙うって誰を?」
ワニは一連の会話が理解できていない様子で首をかしげる。
「バルトが狙われてるんだ。特級の一部にな。」
「ん?」何の話をしているのか未だ理解できていないワニにブロータスが説明をする。ごにょごにょと小さく行われる説明会の中、バルトとシヴァは今後の動きについて考えていた。
「なるほど!噂のあの子はバルトだったのか!じゃあ、おかしくない?色々と。」一連の説明を受けたワニはどこか不服そうにしている。
「愚か者ばかりしかいないのだ。」シヴァも同調するように頷く。
「なるほどね。なんでハルアドの君がバルトといるのか気になったけど、色々とあった感じなんだ。じゃあ折角だからさ、チームが三つあるんだから。こんな選抜さっさとクリアして皆で次まで行っちゃおうか。」
「そっか、四つ鍵があればいいから。どこかひとチーム分の鍵があれば。」
「じゃーん。これ。」
ワニが取り出したのは鍵の束。
「それって、」
「脱落者の鍵を使っちゃダメなんてルールはないし、他にも隙を見て盗ったやつもあるから、四種類どころかそれぞれ十種類くらい持っていられるよ。」
ワニという少女はバルトが思った以上に抜け目のない人間だった。
――――――――――――――――――――――――――――――
選抜予選会。フィールド戦闘、第一会場合格者8チーム。
他の会場も試験が終わり、翌日、学院には第一試験の合格者人数が張り出された。総勢130名。例年より人数は下回るが、イレギュラーと特Sの多さを考えれば例年よりも質の高い合格者たちだという声も少なくない。ただ一点を除いて。
「おい、聞いたか?G級のやつらワニの班と亜人たちに取り入って合格したらしいぞ。」
「なんだよそれ、先生たちはちゃんと審査してくれよ。キョウガたちが可哀そうだ。身を挺して魔獣を食い止めてたのに何の評価も得られないなんて。」
「親も卑怯なら子もおんなじか。」
選抜予選会で結果が振るわなかった者達による僻み。特にキョウガの実力を知り、キョウガによって弱者であることを自覚させられた〈攻撃魔法〉の生徒たちは合格したバルト達G級の面々を恨ましく思っていた。
「やったね!バルト君!」
レタはニシシといたずらっぽく笑いながらやってくる。陰鬱としたG級の教室だが今日はいつもとは違った雰囲気を放っている。緊張感があるような殺伐としている様な。そんなことお構いなしといった様子のレタ。生徒の中ではバルトも特に気にした様子はない。寧ろ、ずっと外せない錘がとれたような晴れやかな気分でいっぱいだった。
「次ってトーナメントだっけ。」
「そうだよ、ランダムで組み分けされて対戦相手が決まるの。」
「結構運ゲーになりそう。」
「そうなんだよぉ。バルト君はいいなぁ。召喚魔法って苦手がないじゃん。レタなんて支援魔法だからほぼ負けみたいなもんだよ。」
普通に会話するようになったバルトは、ここでクラスメイトがどんな魔法を使うのか知らない事に気が付いた。周りを見ようとしなかった弊害が出ていた。
「そういえば、シャーリアって何使うの?」
「シャーリアはねぇ、」
「こらぁぁ!ダメでしょレタ。勝手に人の魔法教えちゃ。」
「えー、良いじゃん。バルト君は仲間なんだからさ。」
「ごめん、シャーリア、だめならそうって、」
「違う、違うよ。こういうのはちゃんと自分で言わなきゃダメだって師匠が。」
「それもそうか。学院外だと使用魔法は個人情報の一つだもんね。」
「私はね、守護魔法を使うの。」
「シャーリアは攻撃は全然ダメダメだけど、守るのはすごいんだよ!」
「ダメダメまで言わなくてもいいでしょ!」
「とにかく、バルト君のおかげでチャンス貰ったんだから、頑張ろうねシャーリア!」
「なっさけねぇな。おこぼればっかりでよ。」
雑談する三人に悪意の声が飛んでくる。
「ボンボロ先輩、」
シャーリアは小さく呟く。
「いい迷惑なんだよ、お前らさぁ。元特級のお知り合いのおかげで再来年までいられるの確定してよ、自慢げに勝てるわけもないトーナメントの話しやがって。なんかのあてつけか?」
「そんなことっ、」
「ゴミみたいな箱庭に追いやられて、もがいても無駄だと気付かされて、残り時間を平穏に少しでも何か得て去ろうとすることも許されねぇのか!」
「そんな、まだ時間はあり、」
「ねぇんだよ。そんなもん最初から!ここにいる連中は親が大貴族とか!商家の生まれとか!学院の上の連中がギリギリまで金を引っ張るためにいる家畜なんだよ。調子の落とした天才とは違うってそいつ見たらわかんだろ!」
ボンボロはバルトを指さす。
「魔力から桁外れだ。外のやつらは特級に媚び売ったとか、いろいろ言ってるけど俺からしたらそいつは外のやつらとおんなじなんだよ。凡人の俺らとは違う格上。そいつに気にってもらえば今回みたいに評価されて在校期間伸びるからよ!おれもそうすれば良かったよ!」
ボンボロの言葉にクラスの雰囲気はズンと鎮まる。おそらく多くの生徒が思っていた事なのだろう。沈黙は同調の意を示していた。バルトは自分が助かったという気持ちがあったのだと、少し前の苦しさを思い出した。あんな気持ちを背負う彼らの前で、とバルトは胸が苦しくなる。が、
「そんなこと知らない!レタが選抜会に残ったのはレタが動いたからだ!誰かのおこぼれでも運でも、レタが勝てばそれはレタの勝ち!誰かのせいにして負けるのになれた奴がレタの邪魔するのはおかしい!」
「レタ!そんなこと、」
「シャーリアもシャーリア!同じ科の先輩だからって気を使わなくてもどうせ居なくなるんだからほっとけばいい!」
さっきよりもひどい空気が流れたところで
「今日も始めるぞ、」
と担任のドリオンが入ってきた。
隣にいるレタはバルトに向かって小さい声で
「下を見てると上り方忘れちゃうよ。この教室でバルト君だけはちゃんと上だけ見てて。」
と呟いた。
バルトは膨れそうになった罪悪感を噛み殺して、「ありがとう」とレタに告げた。
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