84話「魔性の姫」
「リシャリ姫、もうすぐサリパから使節団が到着するらしい」
「本当ですか!」
それから暫く、デケン軍の無駄な攻勢は続けられた。
アガロンは何度も戦場に姿を見せたが、結局仕留めることは出来なかった。
「アイギスランド国民の避難はどうです?」
「ほとんど完了したらしい。物資も運び終えた」
「頃合いですわね」
だが俺たちは、時間が稼げればそれで十分。
この期間にハンネはアイギスランド国民や物資を、港へ移動させ終わった。
これでアイギスランドは、いつでも大陸領土を放棄することができる。
「タケル殿の尽力には、感謝する」
「いえ。僕は、リシャリ様の命令に従ったまでです」
これからアイギスランド軍は、海戦でサリパとヤイバンを支援する方針だ。
大陸領土はデケンが滅んだあと、ゆっくり取り返せばいい。
「それより、リシャリ姫。君に頼みたいことなんだが」
「ヤイバン王への、口利きですわね?」
「ああ、その通りだ」
ただそのためには、サリパ・ヤイバンの同盟にアイギスランドも加わる必要がある。
サリパは、俺が国王を説き伏せれば何とかなるだろうが……。
「フロリネフの無礼もある、ヤイバン王は話を聞いてくれまい。だから、どうか」
「ハンネ様、私に出来るのは顔を繋ぐ所まででしょう。そこから先は……」
「それで十分だ。話を聞いて貰う機会を得たなら、そこからは余の仕事」
ヤイバン王の説得に関しては、ハンネの態度次第になる。
俺が何を言っても、自分の考えを曲げたりはしないだろう。
「誠実に対応なさいまし。ヤイバン王は不誠実な者を好みませんわ」
「分かった。肝に銘じよう」
逆にヤイバン王は、信頼できると思った相手には友誼を結んでくれる。
十年来の宿敵であるサリパの姫ですら、仲間にする度量があった。
ハンネが誠実に対応すれば、可能性はあると思う。
「その後は、サリパ王にも謁見したい」
「ウチにですか? 国王には、私から話を通しておきますが」
「いや、サリパへの無礼の方が大きいのだ。筋は通しておくべきであろう」
ハンネはサリパとの関係も、軽く考えていなかった。
サリパ国王と直に会って、筋を通そうとするその姿勢は好ましい。
これも、ハンネの王としての在り方なのだろう。
「まずは君を迎えに来るという、パウリック殿にも謝らねばな」
「……」
そう言うことであれば、ハンネの意思を尊重しよう。
そう思った俺は、ハンネの耳元で小さく囁いた。
「パウリックには、謝らない方が良いと思いますわ」
「ん?」
俺の言葉に、ハンネは怪訝な顔をした。
「パウリック!!」
「おお、ぉぉ……リシャリ殿下!」
翌日、ハンネ女王の邸宅に見覚えのある貴族髭のおじさんご一行が訪れた。
サリパ最強の騎士団長、パウリックの使節団である。
「パウリック、もう火傷は大丈夫ですの?」
「この通り、回復いたしました。先日は無様を晒し、申し訳ございませぬ」
パウリックは全身の火傷が癒え、元気な姿であった。
ヤイバン医療部のお陰で、後遺症なく回復することができたそうだ。
「パウリック様、ご無事で何よりです」
「タケル、迷惑をかけた。私に代わり、よくリシャリ殿下を守った」
タケルとパウリックは、目を潤ませながら抱擁した。
最近この二人は仲が良いようで、親子のように接していると聞く。
初対面の険悪さが、嘘のようだ。
「貴殿がパウリック殿か」
二人が抱擁を終えたタイミングで、ハンネが遠慮がちに声をかけた。
声をかけるタイミングを伺っていたのだろう。
「貴女は?」
「余がアイギスランド女王、ハンネ・ヴィ・リトリオーラである」
つられてパウリックが、ハンネ女王に目を向けた。
名乗りを聞いたパウリックは直立し、
「これは、アイギスランドの女王殿でございましたか」
「我が国のフロリネフが申し訳なかった。君主として謝罪しよう」
「いえ、どうかお顔を上げてくだされ」
そんなハンネに対し、パウリックはすぐさま傅いて礼を取る。
しかしパウリックは、その口調こそ慇懃であったが……。
─────顔は、全く笑っていなかった。
「して、私ごときに何を謝っておられるのか」
「無論、貴国の王族への無礼についてだ」
パウリックに睨まれたら、少しはビビりそうなもんなのに……。
ハンネは毅然とした態度を崩さず、彼の前で俺に向かって頭を下げた。
「改めて、サリパ使節団の前で頭を下げよう。我が臣下フロリネフの行いは、サリパにとって無礼極まりない稚拙な行為であった。誠に、申し訳ない」
「……」
「アイギスランド国王として、サリパに正式に謝罪するものだ。受けてくれるか、パウリック殿」
ハンネにはパウリックではなく、国に謝るよう助言しておいた。
そうしないと、パウリックのメンツが保たれないからだ。
「フロリネフ、貴様も頭を下げよ」
「すみません、でした」
パウリックは、サリパで最強と称される騎士団長。
しかし彼はフロリネフと俺の間に割って入り、戦って敗れた。
「了解いたしました。ハンネ女王の謝罪の意、我が王にもお伝えいたしましょう」
「よろしく頼む」
ここでハンネが、パウリックに怪我を負わせたことを謝ったらどうなるか。
それは彼にとって、『弱い者いじめしてごめんね』という挑発にしかならない。
騎士然とした性格のパウリックは、さぞ気を悪くしたことだろう。
それより国王として謝意を告げる方が、受け入れやすいはずである。
「それと、パウリックに頼みがあるのですわ」
「何でしょうか、リシャリ様」
「遠回りになりますが、ヤイバンを経由してサリパに帰りたいんですの」
ハンネとの和解を済ませた後、俺はパウリックにそんなお願いをした。
サリパに帰ってからヤイバンに出向くのではなく、帰り道で寄りたいのだ。
「なるべく早く、ヤイバン王にお礼を述べに行くべきですわ」
「確かに、仰る通り」
今回、ヤイバン王は俺を救うために兵を動員してくれたのだ。
俺が出向いて、お礼を言うのは必須だろう。
「それと、ハンネ様もヤイバンに用事があるようで」
「旅は道連れという。アイギスランド軍も、リシャリ姫の護衛に加わろう」
「ふむ……」
そしてハンネは、なるべく早くヤイバン王と話をしたいはず。
ならばハンネと共にヤイバンに出向き、俺から話を通す。
これがスムーズなはずだ。
「リシャリ様、道中の食料などの備蓄が足りませぬが」
「無論、そこはアイギスランドが支援する」
「了解しました。であれば、そういたしましょう」
パウリックは少し考えこんだが、ハンネの支援があるならと了解した。
こうして俺たちはハンネと共にヤイバンへ向かうこととなった。
「それでは、タケル」
「は、はいっ! リシャリ様」
俺はその後、タケルに向き直った。
パウリックが来たということは、タケルとお別れするということだ。
「今回もタケルに助けられましたわ。ありがとうございました」
「ああ、いえ、その」
「そして貴方はまた、前線に行くのでしょう?」
俺はタケルの手を握り、その無事を祈った。
タケルには世話になりっぱなしで申し訳ない。
「せめて、その無事を祈らせていただきます」
「光栄、です」
「どうか、勇者タケルに祝福がありますよう」
でもお前が前線にいないと、サリパが滅ぶ。
どうかもうちょっと、力を貸して欲しい。
「あっ、はいっ、その! 頑張ります!」
「タケル?」
俺が声をかけると、タケルは顔を真っ赤に敬礼した。
そのままペコペコと、何度か俺に頭を下げて。
「で、ではっ! 僕、タケルは、このまま前線へ向かわせていただきます!」
「は、はいですわ」
「ここで失礼いたします!」
俺から逃げるように叫んで、サリパ方面にかっとんでいった。
急にどないしたんだろう。
「タケルのヤツ、何か様子がおかしかったですな」
「何かあったのでしょうか」
そんなタケルの態度に、俺もパウリックも首を捻った。
何をそんなに照れてるんだろうか。
「ほぼ告白したようなもんだったからじゃないの、りしゃり」
「告白って何ですの?」
「……うーわぁ」
ルリちゃんは、両肩に雪精を乗せながら。
そんなタケルや俺たちを、微妙な目で見つめていた。
「ほら、アイギスランドは兵を引いたでしょう」
一方、デケン軍の幕舎。
波が引くように撤退するアイギスランド勢を見て、ジャルファ王子はそう呟いた。
「ジャルファ王子の言った通りになったな」
「ええ。では領土を返してもらいますか」
その様を見たジャルファ王子は、侵攻を再開した。
誰もいなくなった大地を舗装し、着実に軍を進めていく。
「もう、あの怪物はいないと考えていいんだな?」
「ええ。リシャリ姫も、自国よりアイギスランドを優先しないでしょう」
その先頭は、デケン七英雄アガロン。
タケルを前に何度も戦って、生き残った男である。
「我々の粘り勝ちですね」
「……化け物を押し留めたのは俺一人だけどな」
「アイギスランド軍は、このまま大陸領土を放棄するはず」
元々ジャルファ王子は、タケルがいなくなればアイギスランドは退くと踏んでいた。
こうなれば、ジャルファ王子は労せず大陸領土を奪還できる。
「俺たちは、しばらく占領していくだけか」
「そうなります。言ったでしょう、あの戦勝報告はすぐ真実になると」
タケルが帰った後に悠々と、アイギスランド領を切り取っていく。
これでジャルファ王子が中央に送っていた『戦勝報告』は真実となる。
「俺が、あの化け物に戦いを挑まされ続けた意味は?」
「タケルを釘付けにしたことで、サリパ戦線が楽になってるでしょう」
「何でぇ、俺が無茶させられたのはサリパ戦線の支援のためか」
「違いますよ」
そしてもう一つ、この戦闘には大きな意味があった。
それは、
「サリパ戦線を指揮する『皇帝の盟友』、レジン元帥の心証稼ぎです」
「……」
「手紙では、ずいぶん感謝してくれているようです」
皇位後継者を決める際に、大きな発言力を持つ存在。
デケン皇帝が気を許す『盟友』、レジン元帥に気に入ってもらうため。
「皇帝は間違いなく、レジン元帥に後継者の相談をするでしょうからね」
「抜かりねぇこった」
ジャルファ以外にも、有力な後継者候補は何人かいた。
だから、ジャルファはレジン元帥にアピールをしておきたかった。
父親であるデケン皇帝を騙し、理想の王子を演じ、正当後継者となるために。
「ここからが重要ですよ。分かってますね、アガロン」
「おう」
「僕がこの国を変える。ヴィジャル兄さんが作りたかった平和な国に」
そのジャルファの心根にあったのは、確固たる思い。
ギラリと、ジャルファの瞳に野心の炎が灯った。
「ジャルファ王子、兄のことを慕ってたんだな」
「たった一人の肉親でしたから」
ジャルファ王子は無念そうに、討ち取った兄の遺髪を握りしめる。
ジャルファとて、志は兄ヴィジャルと全く同じだった。
しかしヴィジャルが起こした反乱は、上手く行ったらまずかったのだ。
後継者を決めぬまま皇帝が暗殺されれば、各地で王子が蜂起しただろう。
間違いなくデケン帝国は分裂し、戦乱が勃発する戦国時代になっていた。
そうなれば、何人が犠牲になるか想像もつかない。
「もうすぐ皇帝は死ぬんです、なぜヴィジャル兄さんは待てなかったのか」
「ジャルファ王子が殺されかけたからじゃねーの?」
「……私なんかのために」
その内乱を防ぐには、デケン皇帝のもつ権力を正当に相続せねばならない。
なのでジャルファは、泣く泣くヴィジャルを討ち取った。
自分を可愛がってくれていた兄の心臓を突き刺した。
そうすれば、再び皇位後継者の立場に返り咲けるという打算があったから。
「でも、良かったじゃねぇか。このままアイギスランドの大陸領を奪還できれば、後継者はジャルファ王子で決まりじゃないか?」
「最有力候補の一人になれるでしょうね。ただ、西でデイビッツ兄さんも戦果を上げているようです」
「ふむ、一騎打ちになりそうな感じか」
兄を殺した結果、ジャルファは『アイギスランド軍迎撃』の任務を引き継ぐことになった。
そして恐らく、このままアイギスランドの大陸領は奪還できる。
この戦果なら、デケン皇帝がジャルファを後継者にする可能性は高いだろう。
「ただ、問題もありますが」
「アイギスランド軍は計画的に撤退しただけで、戦力は減らせていないことだろ」
「そうなんですよね。むしろ敵はますます戦力を増大している」
ただジャルファは、アイギスランド軍に大した被害を与えていない。
むしろ敵は三国同盟を組み、ますます強大になっている。
「今までの経緯もあるし、講和とか飲んでくれそうもないしな」
「というかそもそも、サリパの外交はキナ臭いんですよね」
西の大国ヤイバンと、北の大国アイギスランド。
元々この二国は、国交もない無関係な国同士だったのだが……。
「どう考えてもサリパが接着剤となり、連携しています」
「接着剤ねぇ」
「もはや外交力の国、と言っても良い」
今までバラバラに戦っていた二つの大国が、連携を始めた。
その陰に間違いなく、サリパという弱小国の暗躍がある。
これが目下最大の、ジャルファ王子の悩みの種だった。
「サリパの立ち回りが想定以上です。何ですぐ、ヤイバンと同盟できるんですか」
「そうするしかなかったとはいえ、太い賭けを通したよな」
「この調子でサリパが暗躍したらどうなるか」
今や世界情勢は『デケン一強』と言える状況にない。
せっかく皇帝を継いでも、デケン帝国が滅ぶ可能性がある。
「で、その黒幕が、王子が常々ボヤいているあのお姫様?」
「はい。おそらくリシャリ姫でしょう」
その異常ともいえる、サリパの外交手腕。
仕掛け人は恐らく、サリパの第二王女リシャリ姫だ。
「あの娘が黒幕なら、油断を誘うのが上手すぎます」
「ジャルファ王子ですら、本性が見抜けなかったもんな」
「凡庸な少女にしか見えませんでした。今でも、そうあってほしいと考えてしまいます」
これまでジャルファ王子は、たくさんの人間の嘘を見抜いてきた。
だからこそ、人の観察眼には自信を持っているつもりだった。
「権力争いなど無縁で、蝶よ花よと育てられたお姫様。見目麗しく、私の趣味も理解を示してくれる運命の女性」
「おやおや、入れ込んじまったねぇ」
「本当です。恥ずかしいことに私がヤイバンへの侵攻を決断した際、こう考えていました」
そんなジャルファ王子だったから、リシャリ姫の純粋さを信じてしまった。
手玉に取られ、操られているなど想像だにしていなかった。
「これでリシャリ姫も喜んでくれる、とね」
「こりゃ重症だ」
「ええ、重症でした」
だが、最初からジャルファが騙されていたと考えればつじつまが合う。
思い返せば、リシャリ姫の扱いは不審なことは多々あった。
「サリパの第一王女ルゥルゥ姫は、絶世の美女でした。なぜ私の迎えがリシャリ姫だったのか、そこに疑問を持つべきでした」
「サリパは、ジャルファ王子を誑かす気だったってことかよ」
宗主国の王子、ジャルファの出迎えとなれば大役だ。
普通なら年が近く聡明で、礼儀作法の整った第一王女ルゥルゥ姫が迎えのはずである。
若く平凡なリシャリ姫に出迎えさせるはずがない。
「アイギスランドにいたのも、リシャリ姫だったんですよね」
「ああ」
さらにサリパは同盟のため、アイギスランドにリシャリ姫を派遣した。
優秀な王子ジケイや天才の姉ルゥルゥを差し置いて、である。
これらが示す事実は、
「あのチビ姫、アイギスランドと同盟交渉を任されるくらいは腹芸が上手いんだろう。……そうは見えなかったけどな」
「そうは見えないから、怖いんですよ」
リシャリ姫は、ジャルファ王子ですら見抜けなかった腹芸の達人。
あらゆる人間を手玉に取って操る、影の黒幕だと示していた。
しかし、そこまで情報が揃った上でなお……。
「うぅ、でも本当にそうなのでしょうか。リシャリ姫のあの笑顔が偽物だったとは思えません……」
「おいおい、ジャルファ王子?」
「偶然とか、考えすぎているのかも」
ジャルファ王子はリシャリ姫の顔を脳裏に浮かべ、再び苦悩を浮かべた。
リシャリ姫には嘘をついている様子も、騙そうとする気配もなかった。
「王子、敵を警戒しておくに越したことはねぇ」
「そうですね、その通り」
「リシャリ姫は人を操る魔性の黒幕。その前提で動こう」
敵の強さが見通せない場合は、『強敵』と考えて行動する。
それは、あらゆる作戦の基本である。
「間諜は多めに放って、リシャリ姫の動きを優先的に探らせる。それで良いな?」
「もちろん。というかもう放っていますよ」
「さすがに仕事は早いねぇ」
かくいうアガロンも実は、内心で『あのすっとぼけた姫がそんなにヤバいのか?』と思ってはいた。
しかしわざわざ敵を軽視して、油断する必要はない。
むしろジャルファ王子の話を聞く限り、リシャリ姫は『軽視されるよう振舞っている』節がある。
「お、ジャルファ王子。間諜から新しく報告が届いてるぞ」
「では、書簡を持ってきてください」
何にせよ、敵将の首の価値は高い方がやる気が出る。
アガロンは次に会った時、確実にリシャリ姫の首を取ろうと息巻いた。
「やはりそうでしたか……」
「ジャルファ王子?」
しかし一方。書簡に記された報告を見て、ジャルファ王子の顔が曇った。
それは残念そうな、哀しそうな、そんな独特の表情だった。
「これを、アガロン」
「おう」
ジャルファ王子はその書簡を、そのままアガロンに手渡した。
果たして、そこに書いてあった情報とは。
「ヤイバンへ同盟交渉を行った使者は、リシャリ姫だそうです」
「うわっ」
「たった一度の交渉で、同盟を結ばせたとか」
デケン帝国にとって一番の謎、どうやってサリパはヤイバンと同盟を結んだか。
その答えは、リシャリ姫の交渉術にあったようだ。
「リシャリ姫はヤイバン重鎮に殺意で出迎えられ、笑顔で見送られたと」
「魔性だな。十年以上、戦争してた敵国だぞヤイバンは」
「ええ、ええ。本当に魔性です」
そこまで行くと、リシャリ姫は何か魔法を使っているんじゃないか。
そう疑わずにはいられない、気持ち悪い報告だった。
「ジャルファ王子。アンタの見立てが正しそうだ」
「ええ。リシャリ姫は、デケンにとって最恐最悪のトリックスター」
デケン最大の敵は、サリパ国王でも龍神殺しタケルでもない。
一見して平凡に見える、小柄な姫─────リシャリ姫だったのだ。
「魔性の、姫」
ジャルファ王子は、静かに唇を噛みしめた。
「へーくしょん!! へーくしょぉん!」
「ん? りしゃり、かぜ?」
「風邪ひいた感じはしないのですが……、へーくしょぉん!!」
「雪精の体毛が、鼻に入ったのかも」
これが過大評価かどうかは、歴史が知る。




