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悪役令嬢、大魔王との決戦の場所に行く。皆と共に。

 大魔王との決戦当日。

 私は公爵邸の自分の部屋で、優雅にお茶を飲んでいた。


 スミレが見つかって、人間側にも勝機が見え出した。

 大魔王を倒すほどの力はまだスミレにはないが、恋愛対象者が5人揃ったことで、スミレの足りない部分を補うことができる。

 大魔王自体にはスミレの聖魔法しか効かないが、他の部分を全て周りがフォローしてくれたら、スミレは大魔王だけに集中できるのだ。


 ジルによって箱に封印されたマイリントアも取り戻したし、リュージュもテテテト山脈の呪いの沼の処理を終えて戻ってきた。


 私が大魔王と戦うということが世間に広まると、カナタイドの人達や、スタジアムの再建に関係した亜人達も決戦の場に駆けつけてくれるらしい。しかも、この前知り合ったばかりの義賊『ピュアカルマ』の人達も、フォローしにきてくれるという。


「ーーーだいぶ強固になったわよね」

 本当は私が1人で大魔王と戦うはずだったのに。むしろ、こうなると私はいらないのではないかと思うほど最強の布陣になっている。

 あとはスミレがどれだけ頑張ってくれるかに掛かっているのだ。他人に人生預けるなんて私らしくないけど。こればかりは仕方ない。

 大魔王は聖魔法でないと倒せないのだから、聖魔法を使えない私は、ただの、ちょっと剣が使えるだけの可愛いレディに成り下がる。


 私はカップに注いだ温かいお茶をもう一口飲んで、はぁ、と幸せのため息を吐いた。

「やっぱりカリナの入れるお茶は最高ね。香りも余韻も全然違う」

 カリナは嬉しそうに、持っているお盆を口元に当てて頬を紅潮させる。

「ありがとうございます。最近さらに暖かくなってきましたので、お湯の温度を少し変更してみたんです。そしたら、とても良い蒸らしができました。今年のお茶も最高級のものですし」

「そう。じゃあ、今日、私がちゃんと帰ってきたら、またこのお茶を飲ませてね」

 にこりと笑うとカリナは目に涙を溜めて、鼻を赤くした。

「か、必ず帰ってきてくださいね、リーネ様……」

 涙で最後は声になっていなかった。

「大丈夫よ。私は必ず帰ってくるわ」

 俯いたカリナの頭をよしよしと撫でて、私は窓から見える空を眺めた。


 アラン皇子には、本当は大魔王のところに来てほしくなくて嘘を言ってしまったけど、スミレが見つかったことで事実を話した。他の皆が集まるのに、アラン皇子だけ来ないというのもどうかと思ったのだ。

 でもアラン皇子に話した時にはすでに、アラン皇子は本当の戦いの場所を知っていた。それまで私が嘘をついているとアラン皇子に思われていた事を考えると、恥ずかしくなる。


 嘘をがバレていたと知った私の驚く表情を、少し意地悪そうに笑ってみせたアラン皇子の顔を思い出すと、嘘つくとかほんと私らしくないし、もう嘘をつくのはやめようと心から思った。


「ーーーところでリーネ様?もうそろそろ時間ですが、行かれなくてよろしいのですか?」

 泣きながらも私の時間を気にする細かいところ、ほんとカリナはいつでもカリナだと思う。

 私は笑った。

「いいのよ。大魔王が、私の名前を刻んだみたいだし。時間になったら、ビューって私の身体が飛んでいくらしいじゃない。それも面白いかなって」

「……面白いわけないだろ」

 頭の上からジルお兄様が、とてもお怒りの表情で私を見下ろしてきた。何か息を切らしている。

「あ、あら。ジルお兄様。何をそんなに慌てていらっしゃいますの?」

「リーネを迎えに来たんだ。決戦の場にリーネの姿がどこにもないから探し回った挙げ句、まさかと思って帰ってきたら、のんびりとお茶など」

 ほほほと私は笑って誤魔化す。

「で、でもわたくしが約束した以上は、身体が」

「可愛い妹の身体が、そんな不可解な契約の呪いごときで連れていかれるのを見たくないから、こうやって迎えにきたんだろう。ほら、早く準備をするんだ。皆もう集まっているぞ」


 ジルお兄様の転移魔法も、私からしたら仕組みがよくわからないものだと思うのだけど、それは言わない。


 準備のための部屋の中。

「ーーー兜、割れてしまったのよね」

 鎧をつけようとしたけれど、そういえばアラン皇子とジルお兄様との戦いの時に、二人を止めようとして攻撃に当たってしまい、兜が割れてしまった。

 鎧だけ装着してもいいけれど、兜と鎧のセットでずっとつけていたから、鎧だけつけるのはなんとなく気が引けた。


 なので、動きやすいボディスーツのような服を着ることにした。今回の戦いのメインは私ではない。

 スミレをいかに守るかという戦い。

 大魔王は無数の部下を連れて現れる。その部下がスミレに向かわないようにするためには、動きやすさが重視される。

 ただ、ボディスーツは、全身ピチピチになっていて、特にお尻辺りのラインが丸見えになる。

 リーネのスタイルは良い方ではあるが、さすがにこれはあんまりかと腰にストールを巻いた。ミニスカートみたいになって、幾分かマシになる。


 その格好でジルお兄様の前に出ていくと、真っ赤な顔をして激しく怒られた。動きやすさが大切なことを説明したら、隠蔽魔法で、ボディスーツでもゴテゴテの服に見えるようにされた。隠すにしても、ゴテゴテにする必要はないと思うのだけど。あちらの世界でのゴスロリ風ゴテゴテ。とても私には似合わない。


 二人で話し合った結果、結局、いつもの鎧で行くことになった。着てみるとやっぱり、この鎧が一番しっくりくる。重い鎧なのに不思議だ。


 私が鎧をつけるとようやくジルお兄様は落ち着いて、私に向かって手を差し出した。

 私はジルお兄様を見上げる。

 ジルお兄様は、ふっと優しい瞳をして微笑むから、私も笑顔でジルお兄様のその手を取った。


 転移魔法で、決戦の場所へ飛ぶ。

 大魔王との戦いはゲームのクライマックスと同じ場所だった。


 ーーーゲームの終わりが近づいていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※


 ゲームでの大魔王との決戦は、王宮の北に位置するツノセゴ平野に作られた、大魔王作のスタジアムだった。


 そのスタジアムであった場所に、巨大な塔が建てられている。

 これはゲームの中では見たことのないもので、マイリントアいわく、『巨大なダンジョン』であるらしい。 


 私はダンジョンとは地下に広がるものとばかり思っていたのに、大魔王の創ったダンジョンは、天まで伸びるほどの高い建物だった。幅も広く、広大なツノセゴ平野の何割かを、このダンジョンが占領しただろう。

 てっぺんは雲の上まで続いており、頂上を見ることはできない。

 あちらの世界の絵画でみた、神の怒りを買った塔を思い出すが、多分それよりもずっと大きい。

 創作にどれだけ頑張ったのだろうか。

 まぁ、元々山のような大きさの大魔王だ。空の上までの高さであっても、大魔王からしたらただの家程度なのかもしれないが。


 辺りを見渡すと、あちこちに知った顔が見えた。

 一番先に目に入ったのは、様々な種族が集まっている亜人達の集団だった。

 アラン皇子と仲良くなったドワーフ達がそれぞれに大きな武器を持っている。その周りにホビットやエルフの姿も見えた。


 その奥にはカナタイドの軍隊。

 手前に、茶色のショートカットの女性が見えた。アーモンドの形の目に、そばかすがチャーミングな女の子。

 その子は私を見つけて破顔した。

「リーネ」

 私もつられて笑い、走り出した。

「レイラ!」

 駆け寄って、二人で勢いよくハグをする。

「こんな遠くまできて、馬車酔いは大丈夫なの?」

 私が言うと、レイラは当たり前でしょと顔を上げた。

「リーネが大魔王と戦うって聞いて、いても立ってもいられなくて。私だって戦えるんだもん。力不足かもしれないけど、頑張るわよ」

 そう思ってくれるのは嬉しいが、本当に大魔王は強い。ゲームでは沢山の人が命を失った。

 レイラが心配になる。

「ありがとう。でも無理しないでね。危ないと思ったら、すぐに逃げて。ーーー絶対よ?」

 念を押すと、レイラは「わかってる」と答えた。

 本当に理解して(わかって)いるといいのだけど。


「リーネ。それとーーーレイラ嬢。久しいな」

 ゾクッとする良い声がして、私は後ろを振り向いた。

 アラン皇子とノクトが近付いてきていた。私を呼んだ美声の主は、もちろんアラン皇子だ。

「アラン殿下。ノクト様」

 光に溶けるような金色の髪に紫の瞳。整いすぎた顔立ちのアラン皇子は、いかにも『皇族の戦い』という立派な装備をしていた。染色が絶妙の赤いマントをつけて、凛々しいにも程がある。

 あまりに素敵すぎて、大魔王より先に私を殺しにかかっているのかもしれないとさえ思うその姿に、私は小さく苦笑した。

 戦いが得意ではないノクトは、普通の丈夫そうな戦闘服を着ているだけなので、グレーの長髪のノクトも美男子ではあるが、見劣りしてしまう。

 そしてそのノクトの手の上に乗る小さな生き物達に、私は目を見開いた。

「マイリントア!リュージュ!!」

 家にいないと思ったら、なぜノクトのところに。

「探したのよ!?」

 ホッホッとマイリントアは笑う。

「大魔王様の創られたダンジョンが完成したようなので、先に下見をしにいったのじゃ。決戦の地のことを周知していないと、戦うにも戦えないじゃろ?」

「それは有難いけど、なぜノクト様と?」

 聞いた私の質問への返事はない。マイリントアは、顔を反らしていた。代わりにノクトが答える。

「下見ついでに、決戦前に野外で料理しているところがありまして。その料理人と食料の奪い合いになりそうだったのを見つけて、僕が確保したんですよ」

 ノクトが言うと、マイリントアは余計な事を、という顔をする。

 私は呆れてしまう。

「マイリントア?」

「だ、だって仕方なかろう。あんなに良い匂いをさせて肉を焼いておるのに、この可愛いワレに肉を分けてくれないというのじゃぞ。有り得んじゃろ。あんなケチな人間の1人や2人、殺したところで大して問題にはならんわ」

「大いになります!食べ物くらいで人を殺さないで」

 私は苦笑して、マイリントアに手を差し出した。

 マイリントアがノクトから私の方に移ってくる。それにリュージュも続く。

 小さな生き物達が傍を離れて、ノクトは少し寂しそうにしてみせた。

 その横にいるアラン皇子がニコリと笑う。

「もし大魔王を倒せたあかつきには、盛大に野外で焼き肉会でもするか」

 マイリントアが目を輝かせた。

「アラン。そなた、意外とわかっておるではないか」

「当たり前だ。ーーー大魔王を倒せたら、の話だがな」

 そう言って、アラン皇子は巨大なダンジョンを見上げた。

 

 目の前のアラン皇子は、まだ大魔王と戦ったことはない。

 だがアラン皇子も、ジルお兄様の過去を視ている。大魔王の異常な強さは理解しているのだろう。


 ーーーそう。

 『世界の中心で魔法を叫ぶ』のゲームの中では、聖女の恋愛対象者の1人がここで聖女を庇って死ぬ。


 ジルお兄様の記憶の中でその対象になったのは、アラン皇子だった。その死した姿を、アラン皇子自身も『視て』いた。

 自分の死が頭に過るのも無理ないのかもしれない。しかしアラン皇子は恐怖する様子は一切見せなかった。


 私も、アラン皇子と同じ方向を向き、ダンジョンを見上げた。 

 ゲームではこんな大きなダンジョンは創られない。私が一週間、戦いを先延ばしにしたことでできた『副産物』だからだ。 


「マイリントア。このダンジョンは、大魔王にとって有利になるの?」

 私の手から肩に移動したマイリントアは、同じくダンジョンを見上げて頷いた。

「ダンジョンはいわゆる、魔界の者にとっての『食糧庫』じゃ。ダンジョン内で死んだもののエネルギーが蓄えられて、食糧となる。つまり、ダンジョン内でこれだけ集まった人間達が死んだら、それだけ大魔王様達の有利になるということじゃな。長期戦は分が悪い。短期決戦でいくしかないぞ」

「そういうことなのね……」


「ーーー中はだいぶ広かったぞ」

 低い声が近くから聞こえて、私はそちらに視線を移した。そこには熊のような雰囲気の男が立っている。


 もさもさ頭の大男。だが顔自体は悪くない。ダイナ1の女達からは意外と陰で人気のあるベックだった。恋愛(ラブ)というよりは好意(ライク)の方ではあるが。

「ベック。もうダンジョンの中に入ったの?」

「そりゃそうだ。新しいダンジョン見つけたら、まずは入るだろう?これでも冒険者だからな」

 にかっと歯を見せて、人好きのする顔で笑うベックを見ると、なぜか心が安らぐ。大きなぬいぐるみを抱いて寝る子供の気持ちに近いのかもしれない。

「勇敢と無謀は違うのよ、ベック」

「その言葉は、リネには言われたくねぇなぁ」

 苦笑いのベックを、レイラが見上げた。

「リーネ。ーーーあの、こちらの方は……?」

「ベックのこと?あぁ、ベックは冒険者よね?ギルドの一員で……」

 義賊『ピュアカルマ』の一員と言いそうになって口を閉じた。

「このべっぴんなお嬢さんは、リネの知り合いか?」

「カナタイド辺境伯の一人娘、レイラよ。私のお友達なの」

 私が自慢気に言うと、レイラは頬を染める。

「ーーーリーネ。そんな風に言ってくれるの、すごく嬉しい」

「ふふ」

 私はレイラと微笑み合う。この世界に来て初めてできた気の合う女友達だもの。

「あぁ、あのカナタイドの。そこにいる奴らのカナタイドの連中だよな。強いとは噂には聞いていたから、一度は手合わせ願いたいと思っていたが」

「落ち着いたら、カナタイドにいらして?カナタイドの副官を紹介致しますわ。今日は、リーネを慕う戦士達がここに来たがって普段の守りを離れるので、万が一に備えて副官はカナタイドの地で待機してるから、ここにはいないけど」

「そうか。じゃあ今度、カナタイドにも行ってみるか」

「ぜひ」

 レイラは満面の笑みで微笑む。


 私はこっそりレイラに小声で尋ねた。

【随分とベックに優しいわね。もしかして好みだったりする?】

 それにレイラは首を振った。

【人格的に好みそうではあるけど、好みではないわ。それよりもあの身体よ。随分鍛えているみたいだけど、やり方次第でまだまだ伸びるわ。原石と言ってもいいわね。副官が会ったら、間違いなく欲しがるでしょうね】

 優しい微笑みの下に潜む魂胆。

 さすが常に戦いを強いられる辺境伯領地の令嬢は、心の基礎から作りが違う。

 土地を守るために人材育成の精神まで鍛えあげられるのか。ただ単にレイラがそういう性格なだけかもしれないけれど。

「……辺境伯も大変そうね」

「え?何か言った?」

 聞こえないように言ったからだが、聞こえなくて聞き返したレイラに私は首を振った。

「いいえ。ちゃんとカナタイドに帰れるように、本当に無理をしないようにって思って。レイラはこんなところで死んではダメよ」


「そういうリーネもね」

 急に男の声が割り込んできたが、私の横に自然と立っていたロジーを私は目を細めて見る。黒髪が懐かしい。

「ロジー」

「リーネは僕が守るから大丈夫だけど。でもたまにリーネは僕も思い付かないような行動をとるからね。自殺行為はやめてよね」

 私は眉を八の字にして肩をすくめた。

「わかってる。自分から死ぬ気はないわ。ーーースミレはどこ?ちゃんと来てくれる?」

「大丈夫。薔薇の人が迎えに行ったよ」

「薔薇の人?」

 ロジーはニコリと笑う。あぁ、そうか、ジルお兄様はスミレから『薔薇の人』と呼ばれていたのだった。正体がわかってからは「ジル様」と呼んでいるけど。


「じゃあ大丈夫ね」

 ジルお兄様は大魔王と戦う前に国外に出るつもりだったようだが、スミレが大魔王と戦うことを決めたから、ジルお兄様も諦めた。

 大魔王と戦うことを選んでくれたスミレを、私は誇らしく思う。嫌な子と思っていたのが申し訳ないくらいだ。

 スミレの過去の記憶が薄れていっているというのが、気にはなるけど。


 ダンジョンの周囲を確認していたらしいケリー先生も戻ってきて、アラン皇子は私の横に並ぶ。アラン皇子は張りのある声を響かせた。

「揃ったな。さぁ、そろそろ時間だろう。行くか」

 私はアラン皇子に頷いて、一歩足を踏み出した。


 ダンジョンの入り口は、1つの大きな屋敷が入るのではと思うほど大きかった。私達が入り口の前に立つと、化け物が口を開けるように開いて、私達を抵抗なく受け入れた。


 足を踏み入れてダンジョンの中に入った途端、外とは全く違う世界が広がった。


 そこはとても暗い。

 建物の中だというのに、どんよりと曇った空が頭上を覆う。雷が大きく一度鳴った。

 地面には、壊れた建物が立ち並ぶが、その建物は、あちらの世界でのマンションの形に酷似していた。少し離れたところには広い公園のようなスペースがあり、そこの駐車場には、車が何台か置いてある。どれも壊れてはいるようだが。

 その側をカーブしている線路は、電車が走るためのもの。遠くにその電車が止まっている。

 

「え……?」


 私は声を出して驚いた。

「ここはーーー?」

 

 似ている。

 私のいた元の世界に。

 私の元いた場所に。

 都会から少しだけ離れたベットタウン。 

 

【ーーー面白かろう?お前の記憶を少しいただいた】


 頭から発してきたのかと思うような声が聞こえた。


【とても面白い世界だ。神があちらから人を呼びたがるのも、わからなくはない】

 ふ、ふ、ふ、と笑い声が地に響く。


 ダンジョンに入った人は、どこから声が聞こえているかわからず、キョロキョロと顔を動かして大魔王を探した。だが、どこにも見当たらない。


「約束通り来ましたわよ!何処にいるのです!?」

 私が空に向かって叫ぶと、返事が聞こえた。

【ーーーそうだな、確かに来たようだ。ゾロゾロと命を無駄にする愚か者達も引き連れてーーー】

 ふ、ふ、ふ、ふ。


「姿を現したらどうなのです。それとも、わたくし達が怖くなったのですか?」


【怖い?(ちん)が、お前達をか?ーーーは、は、は、それはまた、面白いことを言う。竜が子ねずみに怯えることがあろうか。虎がバッタに震えるとでも?】

 

「ではなぜ、姿を現さないのです。正々堂々と出てきたらいいではありませんか」

 

【朕が出ては、朕が大きすぎて、その者が暴れることができぬのではと思ってな】


「ーーーその者?」

 私は首を捻る。

 マイリントア以外の四天王でも呼ぶ気だろうか。そうなると、この集めた人達では太刀打ちできなくなるかもしれない。私が少し焦り始めた時に、大魔王は、小さく笑った。


【名を刻んだ『リーネ』が来ておらんからな】


「は?」

 私は呆れて眉を寄せた。

 私はここにいる。

「いますわよ。ここに。ちゃんと、約束の時間前にこの地にたどり着いて……」


 アラン皇子が、急に私を振り返って見つめた。その顔は不安と、自分の考えてしまった可能性を信じたくないという思いが込められていた。


【ーーーさて。時間ぞ。ーーー!いでよ『リーネ・アネット・グランドロス』】


 

 ーーーーーーリン。



 鈴の鳴る音がした。


 リン、リン。

 リンリンリンリン。


 鈴が鳴り続ける。

 その鈴の数は増えていく。


 私は耳を塞いだ。

 ーーーうるさい。


 リンリンリンリン。


 ………リリリリリリリリリリリリリリリリリリ。


 まるで鈴の太鼓を打ち鳴らすように。

 あまりにうるさくて私は耳を塞ぎながら身体を屈める。

「リーネっ!!!」

 アラン皇子が私の方に駆け出した。

 私はそのアラン皇子に視線を向ける。

「ーーーアランーーーっ!!!」


 助けて。

 

 ーーーそう言う前に、私はアラン皇子の手を掴みながら、意識を手離した。







 アラン皇子の手を握った『わたくし』は、気を取り戻し、そのまま、夢にまで見たアラン皇子を眺めた。

 それは想像するよりも、ずっと端正なお顔で。


 素敵、と思った。


 この顔が、この凛々しい立派なお身体が、『わたくし』の旦那様になるのね。


 わたくしは目を見張るアラン皇子に、満面の笑みで返し、立ち上がった。

 アラン皇子は照れたのか、握っているわたくしの手をゆるりと離した。

 顔がとても驚いていらっしゃる。

 綺麗なお顔は、驚いても綺麗なのね。

 ーーーああ、今すぐにでも壊してしまいたい。


 そんな願望を、ぐっと我慢する。


「ーーーお前は誰だ」


 アラン皇子が、わたくしに向かって尋ねた。

 何をそんなに当たり前のことを聞くのでしょう。

 アラン皇子は賢い方だと聞いていたのに、本当はそうでもなかったのかしら。

 期待外れ?

 ーーーいいえ。わたくしのアラン皇子が、そんなはずございませんわ。きっとそのように見せているだけなのでしょう。


 わたくしは未来の旦那様が尋ねたのだから、答えなければと、口を開いた。

 これ以上ないほどに微笑んでみせる。


「……わたくしはリーネ。グランドロス公爵が一人娘。ーーー『リーネ・アネット・グランドロス』でございます」

 

 わたくしが名を名乗ると、そこにいる全ての人達がわたくしの言葉に驚いて、声もでないようでございました。

 わたくしはわたくしですのに。


 ……ほんと、可笑しなこと。


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