【皇帝】追従に焦がれた支配者⑦
聖王view
「ここであなたを細切れにしてあげるわ。」
「好き勝手やってくれたわね。覚悟しなさい。」
黒金迷と神崎麗子が私の前に立ちはだかる。
大陸亀の指輪を巡ったこの島での戦いも終焉に向かっている。
小此木直、鳴海美奈、神崎優子、虎徹とかいう使用人は倒した。神崎透子は動けない。ゴッドバードトライは…此方に向かっている増援に対処しているとみて良いだろう。あとはこの二人を潰せば全滅だ。
「結局…私一人で事足りた。」
私の信奉者を名乗る集団をキャドーで操って駒にしてみたが…正直なんの役にも立ちはしなかった。弟は大陸亀の指輪を回収しているだろうが、この二人を相手にしてから私が出向いても十分だった。
まぁ、追従者という者は得てしてそうだ。能力も勇気も持たぬ故、肝心な時に役に立たない。上に立つ者がいなければただの木偶と同じ。……いや、私が運用を誤ったのか?
ー弟はどうか知らないけど、お前、支配者向いてないんじゃねぇの?ー
その時、鳴海美奈の一言が頭をよぎり思わず舌打ちした。
支配者として向いていないだと? もしそれを認めてしまったならば、私の人生とは一体なんだったという話になる。
くだらない思考はくだらない過去を想起させる。私の意識はいつの間にか自らの人生に赴いていた。
◇ ◇ ◇
私、不壊聖王が生まれたのは山岳地帯にある、存在すらほとんど知られていない小さな限界集落だった。
文明レベルが違うほどに現代社会から行き遅れたその村は、研究センターの支援も満足に届かず、常に貧困していた。
そんな場所に私は双子の兄として生を受けた。弟の名前は聖司。こちらはまだわかるのだが、聖王という名前は人につけるにはどうだろうか。
私が生まれたのはその村の指導者の家だった。医療すら満足に受けれぬ環境で私たち兄弟を産んだ母親は、間も無くして死んだ。父親はその悲しみを背負い、私たちや村のために併走したが、悲しいかな…今思えば学も武も才能がある男ではなかった。夜の山道で食料調達中に、クマに襲われて死んだ。
指導者を失った村の連中はどうしたか…あろうことか、当時5歳だった私たちを指導者に仕立てようとしたのだ。
聖王…という名前は両親がつけたものではなく、私の将来に希望を抱いたクルクルパーの村人共がつけたらしい。
「素晴らしいっ、俺が皆んなを導いてやろう!」
弟の聖司は勝気な性格で、まぁ張り切って指導者になろうとした。
「そ…そうか…俺もできるだけ手伝うよ…。」
一方私は引っ込み思案で、弟の背中に隠れながら過ごしていた。
だが神とやらは能力と人格の分配を適切には行わないらしい。弟は、正直私より才能では大きく劣っていた。そのやり方は小さい私からみても穴だらけだった。私が弟に分からぬようにサポートしたことは数知れない。そうしているうちに、村の連中共は弟ではなく私に期待を向けるようになった。
私は臆病な性格だ。目立ちたくもない。誰かに付き従っていられればよかった。だがそれを周りは許さなかった。
私たちが10歳の時、すでに私が実質的な指導者になっていた。弟は歯痒い思いをしながらも、私の実力に口をつぐむしかなかったようだ。
分かるよ聖司…お前は私になりたいんだろう。私もお前になりたいんだ。何故あべこべになってしまったのか。
ある日、私は研究センターと繋がりを作るために街まで遠出していた。その帰り道、街の人々が研究センターの設備でシェルターやバリアを作っていた。まるで災害に備えるかのように。
その時、近くにあった家電屋のテレビが目に入った。
『接触禁忌種ニグラム、大陸亀キラウェンの日本列島接近が予定より早まっています。キラウェンから発せられる噴火落石による被害が想定されます。国民の皆様は研究センターの指示に従い…』
私はもう走り出していた。
キラウェンの接近が早まっただとっ? まずいっ、時間がないっ!
キラウェンの接近自体は前から知っており、私の指示の元前持って準備は村中にさせていた。しかし弟がその緊急時の対応をできるかどうかっ。
私は獣道を走り続け、やがて降り出した落石で怪我を負いながらもなんとか村に辿り着く。
「はぁ…はぁ…そんな………。」
村は火の海、建物も倒壊していた。そして村人たちは死屍累々…。
「聖司っ!!」
そして私は辛うじて息があった弟を背負い、山を降り始めた。
「ぐっ……俺の……俺のせいで……!!」
自分が至らなかったために皆んなを死なせた…そう思いながら胸が押しつぶされそうな罪悪感のもと山を降りる。
だが道が悪く、人一人背負っている。しかも何も食べていない。体力にも限界が近付いていた。
私は聖司を下ろして息を整える。
自分は何でこんなに辛い思いをしているのだろう。空腹からか絶望的な状況からか、さらに気が滅入る思考をする。
その時、私は自身の手を見た。
私の手はこんなにも短い。この手で救えるものなど、初めから多くはなかったのだ。せいぜい、弟一人を守ることくらいしか…。
そもそも昔からおかしかったのだ。普通親の庇護のもと生きている年頃の私たちに、村の全てを背負わせるなど。
第一、私のような子供一人がいないくらいで大の大人たちが揃いも揃って何故自分の命すら守れない。
「あ……………ぅ…………。」
「っ、聖司っ、もう少しだっ、がんばれっ!」
意識を取り戻し始めた聖司に私が声をかける。すると、
「俺………が………まも……らない……と………指示………を……みん……なに………。」
聖司の言葉に私の脳内に冷たい物が広がる。その言葉から、私がいない時の村の最期が簡単に想像できてしまうからだ。
村の大人共は、聖司みたいな子供に最後の瞬間まで、指示をっ、私たちに指示をっ、と言いながらオタオタしていたというのか。
子供…まだ子供なんだぞ…俺も…聖司も…。
終わっている。村の奴らは大人として、人として終わっている。自分の命の責任すら子供に押し付ける最低な追従者共だ。
私だってそうでいたかった。誰かに付き従っていれば楽になれた。でも私と弟は村のために立ち上がった。なのに、奴らときたら…。
私はもはや村の滅亡などどうでも良くなった。聖司さえ無事ならそれで良い。元より私たちが背負う筋合いなどない物だ。
それから私たちはボロボロになって街へ出る。病院がある中心部へと歩いている途中で力尽きたと同時、私たちの前に高級車が止まった。
それは皇居が使用していた車…つまり中に乗っていたのは、桂一族……天皇一家だった。
後日、私は皇居の一室に招かれていた。
「君は、支配者というものについてどう考えている?」
そう問いかけるのは、現在の天皇陛下である桂聖那。
私は、皆を統治し導き、それに相応しい素養と見識を持ち、またその責任が伴う人間と答えた。すると桂様は笑って、
「君の答えはまさに理想の王とも言うべきものだ。だがね、支配者とは誰からも好かれ、頼りにされるだけがそうだとも言えないと私は思うんだよ。それでは、都合の良い働き者でしかない。」
確かに、私はそうあろうとして、幼い頃から大人たちに労力を搾取され続けてきた。
「上に立つ人間というものはね、自身の弱みに向き合うことも大切なんだ。見ていれば分かるよ。君は、自分に付き従う人々のことが嫌いなんだね。」
皇族の慧眼というものは侮れない。私は頷いた。
「ならば、それでも構わない。君は、追従者が嫌いな支配者になれば良い。下々を愛さなければならない。そんなルールは支配者には無い。君ほどの能力を持つ者が挫折してしまうのは惜しい。我々の元で力を振るって見る気はないかな。」
私はもう支配者など、リーダーなどごめんだと思っていたから。下を愛さなくても良い支配者という言葉は天啓だった。
それから私は弟共々、天皇家の近衛として、また政界にも出入りして力を振るった。気は楽だった。擦り寄ってくる奴らや下に付きたがる奴らは等しく下郎と見下せばよかったのだから。それでも相手に気取られなければ、良き指導者として映る。桂様の言葉は真実だった。
私が成人して、エデンから接触があり、当時研究センターの長だった夕霧彼方氏にこの世界の真実を聞かされた。
「なるほど、では女神イリスを討つことが至上命題だと。」
「如何にも。『皇帝』のカードはあなたと弟君を選んだ。どうだろうか。」
この夕霧彼方という男、人の上に立つ者でありながら瞳には強い憎悪を抱いている。共感はした。
「良いでしょう。これからよろしく。」
「光栄です。」
だが油断はしない。自分と同類ということは、私が最も警戒すべき人種ということ。現に世界を滅ぼすという狂気の沙汰の計画を先導している。イリスを倒すまでは良いが、それ以降は敵対する可能性が高いだろう。
それから剛火拳乱という中々に見どころがある男の教育をしたり、陛下の孫の世話をしたりと月日が流れ、エデンとして本格的に始動、神崎家との激突が始まる。
どうやらこれは一度弟が失敗しているらしく、私が直々に出ることにした。長い時と言うのは、私に、本来守るはずだった弟への愛情を少しずつ削っていった。
神崎家、そして【不屈の堕天使】、果たしてどこまで抗えるか。このエデンと、
追従を望んだ支配者、不壊聖王に。
「審判」 夕霧彼方vs佐藤明梨
「世界」 山田吹雪
「教皇」 邪馬脳
「力」 軍尾夏豪
? ?
「月」 上島御奈帆
「運命の輪」蛭子鉄丸
「節制」 神威マニア
「皇帝」 不壊聖王vs黒金迷&神崎麗子
「隠者」 羽田素子 death
「太陽」 稲取楓 death
「戦車」 剛火拳乱 death
「死」 那由多一美death
「塔」 谷岡浩二 death
「愚者」 影木幽 death
「魔術師」上代芳司 death
「吊し人」玉城清 death
「女教皇」山田深雪
「正義」 騎千勇士 death
「星」 屋島祈
「悪魔」 ?
「恋人」 空席 vanish




