いつかの時を待ってる
「リーリア~」
高い声が少女を呼ぶ。
「何よ、ポプリ」
返す声もまた高く、幼い。
この二人は店内では一際幼く、そして仲がよい。二人揃ってあっちへこっちへと店内を騒いでいる姿をよく見た。はじめて会った時にも一緒に出てきたことを思えばよい友達なのだろう。
「ダグラス。ねえ、ダグラスも遊ぼう」
ポプリに袖を引かれ、私は微笑んだ。
「ええ。いいですよ」
「本当に! やったー」
ポプリと一緒にリーリアが手を叩いて喜ぶ。やっぱりとても仲がいい。
「二人は仲良しですね」
「まあね。うらやましいー?」
ポプリがにっこりと歯を見せるので、私は素直に羨ましいですと頷いた。
「でもね、最初ポプリってばあたしのこと怖がって泣いたのよ。ひどいでしょー?」
「そ、それはだって、リーリアってクォーツに食って掛かってたから、強そうに見えて、つい、その……」
リーリアがつんと顔を背ける。どうやら当時のことを思い出して怒っているようだ。私が来る前、どれ位前に二人はここにやってきたのかと疑問に思った。
「あのね、ボクはクォーツが見つけてくれたの。外で捨て置かれているボクを見つけてね、此処に連れて来てくれたんだよ」
「それはよかったですね」
「うん」
捨てられていたということは人に必要にされなくなってしまったのだろう。私は必要以上に必要されてしまって逃げたけれど、それを思うと贅沢な身の上だったのだと感じた。
「別に不運じゃないのよ、ダグラス」
考えていたことが顔に出ていたのか、リーリアが余裕の笑みで応じた。彼女は時に大人の女性の顔をする。
「だって、あたしだって逃げてきたもの。それに大切に扱ってくれない人なんて必要ないわ」
「また、リーリアってば……」
苦笑するポプリに私はどう対するべきか迷った。そういえばリーリアは私同様逃げてきたと言っていた。そこに何か事情があるのだろうか。
「あたしのことなら深い事情はないわよ」
やはり表情が出ていたらしい。私は顔に出やすいのだろうか。
「あたしはね、もっと格好いい人に使われたいのよ。例えばダグラスみたいな、ね。それなりに大事には扱ってもらえてたと思うけど、でも好みがあるの。これは譲れないのよ。それに他にもあたしと同じモノは居たから、あたしは居なくても大丈夫だと思ったのよ」
けらけらと笑いながら言い放つリーリアに暗さはない。それがきっと本心だからなのだろう。
「未練はこれっぽっちもないわよ」
爽やかすぎて私は笑うしかない。
「……ボクは必要とされたいなあ」
だがポプリがぽつりと呟くと、リーリアが怯んだ。どういう過去を持つのか、詳しいことはわからない。けれどポプリはリーリアと違って未練があるのだ。ポプリの心情を思うと、私は哀しくなる。
「あ、ダグラス! リーリアも! そんな顔しないで! ボクは今みんなと一緒で嬉しいんだから」
そうは言われてもこの状況で笑顔など出せない。でも、ポプリは笑っている。
「ポプリ」
まただ。また、リーリアが物事を悟ったような笑みを閃かせている。
「プラチナクォーツはあたし達の墓場じゃないのよ」
「え?」
「此処はモノと人の会する場所よ。まあ、居残っちゃうモノが多いのも確かだけど、そういうモノは自分で選んだの」
人間が店に現れることもあると、クォーツは言っていた。それは例えばモノを手放しにやってくる。それは例えばモノを求めて店へ来る――。
「あまりないことではあるけど、あんたを必要とする人間もいるわよ」
「……いるかな?」
不安そうなポプリの額を指で弾いて、リーリアは笑う。
「いるわ。あたしが断言してあげる。ポプリを必要とする奴は絶対にいるわよ。だから気長に待ってなさい」
腰に手を当てて、胸を張るリーリアに束の間呆気に取られた。ポプリはどう思ったのだろうかと彼を窺うと、腹を折ってくつくつと肩を振るわせ始めた。なんだろう。
「……はは、あははは! 力強いなあ、リーリア。本当にそんな気がしてきたよ」
「あら、あたしは本気よ。女の勘をなめちゃだめ」
「勘なのー?」
まだ笑い続けるポプリに晴れ渡る笑顔で、リーリアは人間がよくするように二本の指を掲げて見せた。




