魔物図鑑5
ジャバウォック【支離滅裂漫ろ歩き】
スケッチ著者:エーロ・コスキネン
*フレーバー・テキスト
「……嘘だろ。おい、勘弁してくれ。目の前にいるソイツを見た瞬間、頭の芯がジリジリと痺れ、吐き気がこみ上げてきた。これまで色んな魔物を見てきた。狂暴な狼も、巨大な大蛇も、不気味な怪魚だって命懸けで殺してきた。
だが……アレは何だ? 脳が、目の前の光景を『生き物』として拒絶している。
――長い。蛇のようにのたうつ胴体は、間違いなく這いずる化物のそれだ。なのに、その背には、戦場を駆ける名馬のような、恐ろしく見事なたてがみがぬらぬらと夜風に揺れている。こちらに気づきゆっくりともたげたその頭部は、見間違いでなければ、魚だ。感情のいっさいが抜け落ちた、あの、市場の氷の上に並んでいる死んだ魚の目が、人間を遥かに超える巨体の上に据えられている。瞬きひとつせず、ただ冷酷にこちらを値踏みしている。裂けた口の隙間からは、ヤスリのような牙がびっしりと覗き、生臭い、肺が腐りそうな蒸気が排出されていた。背中でバタバタと不快な音を立てているのは、鳥の羽でも、竜の皮膜でもない。水底を泳ぐ魚の『ひれ』が、そのまま巨大化して油染みた光を放っている。
何より最悪なのは、その足だ。蛇の体に魚の頭、そんなめちゃくちゃな歪みのくせに、その四肢は完全に狩りに特化した『狗の四肢』なんだ。強靭な筋肉が脈打ち、鋭い爪が空気を掴んでいるのか浮遊している。あれは、獲物を切り裂く、狩猟者の足だ。走って逃げられるか? ――どうだろうか。そも普通の生物の常識が通用しない相手だ、地面に足を付かず浮いている時点で見当もつかない。せめて、アレが狂暴に吠え立ててくれれば、まだ『獣』として対処できた。だがソイツは、ただ『ひれ』を震わせ、魚の口をアホみたいに半開きにしたまま、馬のたてがみを揺らして、狗のようにじりじりと空を歩いてくるばかりだ。
はてさて、目の前の存在は神か悪魔か、さもなければ――。」




