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連休明けに修は職員室へ呼び出された。クラスメイトの多くは遂に問題を起こしたのだろうと思った。修が職員室に着くと葵の姿もあった。何かあったんだろうかと不安に思ったが、彼女のために素知らぬふりをしていた。
学年主任と担任と校長まで出てきて修は顔を歪ませた。何かやらかしたかと色々と思い浮かべた。あの悪辣な連中が仕掛けた罠なのではないかとも考え思考を巡らせた。
意外なことに、学年主任は職員室の端に縮こまっている葵も呼び出すと、修の肩を嬉しそうに叩いた。
「二人に警察から感謝状の贈呈をしたいと連絡があったよ」
修はようやく胸を撫で下ろした。葵の方を盗み見ると彼女も同じようにホッとしていた。
「俺はただそこに偶然居合わせただけなんで辞退します」修は目立つことは嫌っていたし、葵が自分と出先で一緒にいたと知られるのも嫌だろうと思った。それに、悪辣な連中を刺激しかねない。あとは自分は進学するつもりなどないから構わないが、葵にとっては内申書が重要になる進学をする場合にも有用だろうと。
「……え?」と葵は修の方を見て彼の考えが分かった。
本当に彼は優しく、常に葵のことを第一に考えているのが伝わってきた。葵はありがたく、また申し訳なく思い、自分を責めた。この男が本当に欲するものを与えることは不可能だった。
修の言葉は何一つ疑うことなく信じられた。学校としてもトラブルを避けたい思惑があった。地元の新聞にでも修の名前が紹介されたら何かと面倒な連絡が来るであろうことは明白だった。ただでさえ、犯罪者の息子は退学にしろ、他の生徒の安全を守れとの連絡が匿名で届いていた。
「本当に良かったの?」昼休みに中庭のベンチで葵は尋ねた。
「いいよ別に、それに欲しかったらまたいつでも貰えるし」フッと笑った。
「京谷くんらしいね」
「でしょ?」
葵は頷いて微笑みながらも、結衣から課せられた“ミッション”を思い出し、途端に憂鬱な気持ちになってしまった。
「どうしたの? 気分でも悪い?」心配して顔を覗き込んだ。
「もうご飯食べ終わったよね?」
「え、まあね」
「じゃあ、何も言わずにちょっと付き合ってほしいんだけど」
「……いいけど」
葵は早足で旧校舎の近くにある古びた女子トイレに入った。当然修は女子トイレには入れないため、その前で立ち止まると葵は修の手を引いて女子トイレの個室に連れ込んだ。
「あの室生さん、これは一体……」これから起こることをなんとなく予見していた。
「また悪い欲求が溜まってるみたいだから……」
「いや、本当にもう大丈夫だよ。室生さんのお陰で本当に初めて魘されずに眠ることができて、朝日ってのがこんなにも心地いいものだって知ったんだ。あとは肉欲は自分でどうにかするからさ、あまり迷惑をかけるわけにもいかないし」
「……それじゃあ、ここで証明してみせて」
「証明って、今ここで?」
「うん、こんなところ誰も来ないから大丈夫だよ」
「そんなこと言っても……」
「京谷くんがまた一人で抱え込んで溜め込むんじゃないかって心配なの。もうこんなにしてるし」視線を落とした。
「……分かったよ」
葵は頷いた。修はベルトを外し、ズボンとパンツを少し下ろした。肉は反り返っていた。
「これ付けて」と、葵はポケットからゴムを取り出した。
「これを、どうして?」複雑な感情が絡み合いながら尋ねた。
「制服にかかったら大変だからさ」それは修が求める回答ではなかった。「付けてあげるね」
葵はゴムを付けながら、自分では相手をしなくて済むことに安堵していた。
修は性欲に満ちた視線で葵を舐め回しながら肉を握りしめた。修にはとっては随分久し振りの自慰であった。
葵は修の醜い性欲を全身に感じて悪寒がした。自身の身体を抱き、視線を落とした。彼女に必要なのは修の幸福や快楽ではなく、ミッションの証拠として要求されている吐き出された欲求が溜まったゴム袋だけであった。
修は葵の姿を目線で犯し手を動かし始めた。その音や視線や荒れる呼吸を穢らわしく思い、耐え忍んだ。葵は視線に修の姿は収めずに音だけを聞き、その激しさに驚愕し身慄いした。
ただ、どれだけ時間が経っても修が性を吐き出すことはなかった。
「まだ、時間かかりそう?」耐えきれず尋ねた。
「……ちょっと難しいかも」
「なんで、どうしたの?」
「……室生さんも、本当はこんなことしたくないでしょ」嗄れた声だった。
葵は態度に出し過ぎたと思い、すぐに修に抱きついた。楓から聞いた話ではこの男は着々とあの二人を追い詰める手筈を進めているとのことだった。今、男の好意が損なわれて計画が実行されなくなっては意味がなかった。葵は悪辣な連中と修を天秤に掛けて必死に考えて、男の情欲を取り戻そうとした。
「……だって本当はしてあげたかったのに、自分でするなんて言うんだもん。酷いよ」背伸びをして修の耳元で甘く囁いた。
効果は抜群だったようで硬く熱いものは葵の太ももに押し付けられた。
「……そうだったんだ。ごめん」と修もその背に手を回した。
葵は修の肉を持って太ももで挟み込んだ。熱い不快感が脚全体に広がってきた。それでも太ももを動かし肉欲を高めさせて煽った。
「どう、ほんとうにエッチしてるみたいでしょ? 我慢しないでいつでも出していいからね」
修は頷きそれから葵の口元に顔を寄せた。自身で高めていたのもあって限界は近かった。葵はその悍ましい顔を拒絶しようかと思ったが、男の見た目とは正反対の繊細の心では拒絶すると萎えてしまうかもしれないと考え、受け入れて舌を絡めた。
もう、どうにでもなれ。そう思いながら、激しく脈打つ肉の鼓動と舌による凌辱を男の気が済むまで受け入れた。男はすぐに性を吐き出した。
「ありがとう、室生さん」葵の頭を撫でた。
「うん……」その手を払いのけたかった。
修はその後も愛おしそうに優しく葵を抱きしめて頭を撫でた。葵は友人から彼氏が射精した直後にひどく冷たくなり、自身は性欲を満たすための相手だとしか思われてないと相談を受けたことを思い出した。この男は射精した直後でも自身を大切そうに抱き寄せて愛撫をするのに、好き同士で付き合った男女がそんな関係になってしまうのだろうと儘ならない気持ちになった。冷たくなって突き放された方がどれだけ楽だったろうか。
「そろそろ時間だから戻らないと」
「ごめん、時間を忘れてたよ」
葵は男の欲求が溜まったゴム袋を取り外して先端を縛ってポケットにしまった。気持ちの悪い熱がこもっていた。葵はそれが本当に子を成す為の液体だとは思えなかった。ただ、女性の尊厳を踏み躙り、穢すためだけに体外へ放出されたように思われた。この性液で孕んではあらゆる生命を冒涜した人外の奇形が産まれてくると直感した。葵はあの悪辣な東に肉体を弄ばれている時でさえ、ここまでの忌避感は覚えなかった。
修と別れてすぐに自分の校舎の女子トイレで口を濯いだ。
「フェラでもしてあげてたの?」薄ら笑いを浮かべて結衣は愉悦に浸っていた。
葵は返事もせずに必死に口を濯ぎ続けた。
「ちゃんと証拠は用意したんでしょうねえ」声は低かった。
葵は濯ぎながら頷いた。
「みせなさい」
葵はポケットからゴム袋を取り出して掲げた。
「あんたのフェラが随分良かったみたいねえ」その量を見て嘲るように笑った。
「するわけないでしょ、気持ち悪い」言い放った。
結衣はそれを聞いてゲラゲラ下品に笑った。笑い続けた。
「葵それ、ちゃんと放課後まで取っておきなさいよ」それだけ言い残し歩いてトイレから出て行った。
葵が教室に戻ると美しい鈴木が彼女を待ち構えていた。
「また、修と会ってたの?」心配そうに。
「……うん」
「やっぱり元気がなさそうに見えるけど」
「……そんなことないよ」
「本当に困ってたら頼って欲しいんだよ」真っ直ぐな瞳で貫いた。
「……京谷くんがこの前お婆さんを助けて警察から私と二人で表彰されることになったんだけど、多分私や学校に迷惑がかかるからって辞退したの。それを想うとなんだか悲しくて、なんでそんなに思い詰めないといけないんだろうって……」葵は追求されることを恐れた。それに、本当のことを言えるわけもなかった。
「……そんなことがあったんだ」声は掠れていた。「もしかしてこの前の涙も?」
葵は黙って頷いた。
鈴木は自分を責めた。親友を信じようとせず周りの評判だけで彼を判別しようとし、彼がどれだけ傷ついてるかさえ理解しようとはしていなかった。
葵が修を想って流した美しい涙さえ彼女が修に傷つけられたと勝手に思い込んでいた自分を恥ずかしく思った。
どうしてそんなにも苦しんでいる友のために手を伸ばさず、勝手に心を穢してゆけるのだろうか? 自身は彼の手を取って救われたのにも関わらず。
鈴木は目が覚めるような想いだった。
「鈴木くんが助けになってあげたら、京谷くんも絶対に喜ぶと思うよ」
鈴木は覚悟を決めた美しい凛とした表情で頷いた。
「室生さんは修を支えてくれてたんだね。本当にありがとう」
鈴木は握手のために手を差し出した。葵はその手をぎゅっと握り締めた。
葵は美しい鈴木との繋がりをもっと強固にしたいと願った。




