20
修の思考はまともに働かず、指の隙間から見える下着と肉の膨らみに囚われた。
「室生さんの心に触れたい……」つい口走った。
「えっち、胸を触りたいだけでしょ?」ジトっと笑った。
修は黙って頷くしかなかった。
「いいよ」頷くとゆっくりと修の手を取った。
修は手の行方をじっと見守った。本当に彼女の心の在処に向かうのだろうか。そう思い彼女の表情を見ると、何かを訴えかける潤んだ瞳だけがあった。
葵は修の手を自身の胸骨に当てがった。修は葵の肌のきめ細やかさを指先で味わいつつも、確かに心臓マッサージって胸骨を押すんだっけ。ここが心の在処か。と、残念そうに葵を見た。葵は修の打ちひしがれた顔を見ると、左胸の方に修に手を動かして下着の中に入れ込んだ。
修はハッとして手を引こうとしたが、その手は葵にしっかりと握られていた。温かく柔らかい指の吸い込まれる肉と主張する先端をその手で包み込んだ。彼女の心臓の鼓動もその小振りな胸の奥から伝わってきた。
葵ももう一度修の胸触れ、今度は蠱惑的な指先で修を揶揄した。
修も繊細な動作で葵を悦ばせようとした。
「ちょっとくすぐったいかも。ねちっこいね」ふふッと笑った。
「……ごめん」優しく普通に触った。それから葵の反応を窺いつつ様々な方法を試した。
暫くすると葵は手を抜いた。修も合わせて名残惜しさを感じながら引き抜いた。手に残った感触に支配されて麻痺し、その手が自分のものだとは信じられず、手のひらをじっと見た。
「私のなんか触っても、あまり面白くなかったでしょ?」自嘲するように言った。
「そんなことないよ。時間と室生さんが許してくれるならずっと触れていたいよ」
「ふーん」
葵は修のシャツに手を伸ばして全てのボタンを外して脱がせた。修の首に両手で触れると、肩から胸、腹と撫でていった。ゾクゾクする快楽を受け入れて、指先の動きを追いかけた。何度も腹筋の割れ目をなぞった。
「何かスポーツとかしてたの?」腕の厚みを握って確認した。
「一応格闘技は昔はしてたけど、今は子供達と遊ぶのがトレーニングになってるかな」
「そっか、京谷くんらしいね」
修も葵のブラウスのボタンに手を伸ばした。拒絶を恐れてその手の動きは極めてゆっくりだった。修の指がボタンに触れても葵は黙って修の行為が済むのを待っていた。
修は震える指先でボタンを一つずつ外していった。その度に露わになる下着と肉体、浮き出た肋骨や臍やくびれの全てが、修の動物的欲求を刺激した。
ブラウスを脱がせようとすると葵も従って、されるがままに服を脱いだ。修の視線は葵に水色の下着に集められた。
「すごいスタイルが良くて綺麗だよ。室生さんも何かやってたんじゃ?」
「昔に水泳やってけど、ずいぶん前だよ」
「室生さんと水泳ってなんかすごくしっくりくるよ」笑って言った。
「なに、どう言う意味?」わざとらしく怒ったように言った。
「いや水泳って育ちのいい子が習ってる印象があるからさ」誤魔化すように笑い葵の剥き出しの肌に触れた。くびれや腕のしなやかさを何度も撫でて確認した。「本当に綺麗だよ。彫刻作品みたい」
「……ありがとう」
修は葵を抱き寄せようと彼女の肩に触れた後その手を背中に伸ばして抱き寄せようとした。葵もその意図を汲み自ら修の胡座の中に座り、自分の肉体の柔さや熱や鼓動を修に押し付けて手を回した。
修は自分の肌と葵の白い柔肌が触れ合い熱が入り混じり、鼓動も溶け合い、浅い呼吸が自身にかかるのをそばで感じた。葵は小さく震えていた。修も緊張の中で強張っていたので、相手が震えているのか自分が震えているのか定かではなかった。
時間を掛けて腕の中にある存在を確かめて、自身に知らしめた。その度に幸福は膨らみ続け、修の心を覆い隠していた闇を払っていった。自身の単純さを自覚して情けなく思いながらも、葵も同じ幸福の中にいてくれたらこの上ない喜びだと思った。
修は葵の背中のホックに手をかけた。もっと多くの肌で触れ合いたいとの欲求が滲み出た。手をかけても葵は拒絶しなかった。修はホックを外そうとしたが、抱き合いながら見えない相手の背中のホックを外すことは難しかった。
「ちょっと待ってね」葵は修を子供のように宥めて修の腕を退けると、自分で背中のホックを外した。
「綺麗だ……」修は薄桃色の小さな突起をじっと見つめた。
「あんまりジロジロ見ないでよ」恥ずかしそうに修の視界から隠すように抱きついてその突起を身体に押し付けた。
布切れが一枚ないことでの密着感の違いと、直接触れる突起と肉の柔さにおかしくなりながら、葵を強く抱きしめ甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「ちょっと変態っぽいよ」修の後頭部を撫でながら笑った。
「そりゃ、変態にもなっちまうよ」
「本当だ。変態だ」薄く笑いながら腰をぐいぐい押し付けた。「こんなに硬くなってる」
「ちょっと、それはまずい」頭はその刺激と快楽から何も考えられなくなった。
「すごいビクビクしてるよ」
「もう限界かも」
「溜まってて苦しいってことだよね」
「室生さんにこんなことお願いするのもどうかと思うんだけど……」
「大丈夫だよ。京谷くんの中に溜まってる悪いものは全部抜いてあげるから」身体を少し離し修の頬を撫でた。「じゃあトラウザー脱がせるから、ちょっと離して」
トラウザーの意味を知らなかった修は頭の中に疑問符を浮かべながら葵の背中に回した手を離した。
「じゃあ立ち上がって」
「あぁ、うん」
葵は修の前で膝立ちになると、ベルトの金具を外しボタンを外してチャックを下ろした。ズボンを下ろすと張り詰めた肉欲が薄い布の下で膨張していた。布には既に何かが滲んでいた。葵布の上からすりすりと撫でた。
修は快楽から声を漏らして腰を引いた。
「壁薄いから声我慢してね」
修は黙って頷いた。
葵は薄い布切れをゆっくり焦らしたように脱がせた。布を脱がせた瞬間にその沢山の血液を集めた熱い肉は暴れ馬のように跳ね上がって屹立した。葵は眼前の肉をじっと見つめた。
「なんかもう既に出てるんだけど」葵は小馬鹿にしたように先端を人差し指で触り、離すと糸を引いた。
肉はビクビク震えた。息は荒くなり、動物的欲求に支配され自分がほとんど猿と変わらないことを自覚させられた。葵は肉をゆっくり握りしめた。
「すごく熱くて、ドクドクって脈打ってる。興奮してるんだ?」
「こんな状況でしない男はいないよ」
「そっか」ふふッと微笑んだ。「じゃあさ、跪いて屈服させたみたいにこのままするか、隣に立って身体をぎゅーってくっつけながらするか、どっちがいい?」首を傾げて修を見た。
「え、どっちて……」
修はその贅沢すぎる二択に悩み、頭を抱えた。
跪いてさせれば葵が言うように征服感を得られるだけではなく、奉仕する姿を全て目に映すことができる。が、隣に立って身体の柔さや熱を感じながら葵の奉仕を受ければ深い孤独は癒えると思われた。
考えれば考えるほど葵が握る肉からは先走って漏れ出した。
「そんなに悩まないでよ。どっちもしてあげるからさ」葵はそのまま手をゆっくり動かし始めた。
修は身体が痺れた。全身に力を入れて歯を食いしばった。
葵は肉の前に自分の美しく白く小さい顔を運び、手をゆっくり動かし続けた。汚れた肉欲の目の前に美しい顔がある異常な状況に、修は得難い快楽に襲われた。
修がその限度を超えた快楽のために苦悶の表情を浮かべると、葵は眼を細めて微笑み小さな口を大きく開けて舌をべえっと出して見せた。葵の顔は近く息がかかった。
修は葵の頭を強引に鷲掴みにして限界まで昂った肉欲をその口から流し込んでやりたかった。しかし、葵の顔に触れた時の拒絶を思い出すと実行できなかった。
止めどなく溢れる汁と葵の手汗が混ざり合いネチャネチャと音を立て、狭い個室の中に響いていた。
「まだ大丈夫そう?」
「……だめ、もうおかしくなりそう」
「ちょっと待ってね」葵は立ち上がり修の横に立ってピッタリと身体を押し付けた。それから再び修の肉を握りしめ、ゆっくりとゆっくりと焦らすように上下に動かした。
葵は少し屈むと修の胸に舌を這わせた。その衝撃は凄まじく修の身体は雷に打たれたように跳ねた。葵は片手で押さえ込み逃れられないようにして、ねちっこく舌を這わせ続けた。
ゆっくりと優しく責められる快楽とねちっこく意地悪く責められる淫楽、上半身と下半身で異なる快楽の波が一斉に脳に押し寄せて何かを破壊した。
「私の身体も好きに弄んでいいよ」と顔を上げて笑った。
右手に胸を左手に尻を弄び本能のままに貪った。指は肉に食い込みその指先から快楽に耽り、尻を揉みしだきながらも自身の身体へ抱き寄せた。
「欲張りなんだから」呆れたように。
修は葵の頭に顔を寄せた。金木犀の香りは何度嗅いでも修の心を満たし潤した。
葵はそれを咎めるかのように手の動きを早くした。修の腰は引けたが、葵は身体を密着させて逃さなかった。そして葵は修の頬に触れて、自分の目を見つめさせた。
「もう、イキそう?」
修は息を荒くして頷いた。
「受け止めてあげるから、我慢しないで全部出し切ってスッキリしてね」
頬に添えられていた手は後頭部へ伸ばされ、葵は修の顔を自身の顔へ近づけた。修も彼女の意図そして彼女の奉仕の精神が伝わった。
二人は目を瞑り口付けをした。控えめな修とは打って変わって葵は貪るようだった。葵の熱に当てられ次第に修も激しさを増していった。
修は快楽に溺れ何も考えることができずにいた。ただその快楽を一秒でも長く味わうために、肛門に力を込めて我慢していた。
葵は修の頭から手を離し、欲望を受け止めるためにその手を先っぽに当てがった。そして片手で先っぽを重点的に攻め立てた。
修が敏感な部分に触れられて身体を震わせたので、葵は口付けをしながら笑った。修は目を開けた。彼女の媚態を含んだ挑発的な眼に貫かれた。
修は遂に我慢の限界を迎えて、葵の柔らかい手のひらの中に凝縮されて濁った欲望をぶち撒けた。
修はあまりの淫楽に気を失うかと思った。全身に快楽が駆け巡り、欲望が放たれる。どうにでもなれとぼんやり思った。全てがその快楽の前では無に等しかった。
余韻は長く続き、葵は根本から残りを搾り取った。
二人は唇を離して見つめ合った。
「気持ちよく全部出し切れた?」
「室生さん、本当にありがとう」修の頬には涙が伝っていた。
彼の背負っていた罪がようやく許されたように思われた。全ての罪を葵に吐き出し、彼女は受け入れて赦してくれた。修の目には世界が違って見えた。身体は確かに怠いが、心はどこまでも飛んで行けそうなほど軽かった。葵に対して一生をかけて報いようと思った。それが自身に与えられた責任と使命だと……。
「泣くほど気持ちよかったの?」
「あぁ……」
「ちょっと待ってね、溢しちゃいそうだからさ」葵は手のひらの欲望を片付けて服を着た。修も同じように服を着た。「男の子って出した後すごい疲れちゃうって聞いたんだけど、ちょっと休む?」葵は女の子座りをして腿を叩いた。
「ありがとう。お言葉に甘えて」修は横になって葵の腿の上に頭を乗せた。
「それで、そんなに気持ちよかったの?」頭を撫でながら。
「天にも昇る心地だったんだけど、それだけじゃなくて抱え込んでいた全ての苦しみや罪を吐き出せたような気分でさ。今まで辛かったことが全部どうでもよくなって、幸福そのもに包み込まれた感じ」
「京谷くんの気持ちが楽になってくれたならよかったよ」心臓に手を重ねた。今回は媚態は含まれておらず、ただ慈愛だけがあった。
「本当にありがとう。感謝してもしきれないよ」胸の上の葵の手を握った。「俺は一生を掛けてでも室生さんに報いたいと思っているから……」修なりの告白であった。
「手でしてあげただけで大袈裟だよ」修の気持ちを知ってか知らでか爽やかに微笑んだ。
修はしょぼくれながらも、いまはただ有り余る幸福を味わった。




