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最愛の人を傷つけられたので、最も残酷方法で復讐したいと思います。  作者: 大大大大大確定!!!


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 修が学校へ登校していると美しい男が曲がり角から出てきた。

 彼の美しさに引き寄せられた女生徒が集まり両手に花だった。美しい男は目の前に現れた修を見てどきりとした。

 修は古い友人にそれとなく微笑みかけた。


 あいつはもう俺のことなんて覚えてないだろうな。


 自嘲と共に通り過ぎて、話しかけることさえしなかった。美しい男に迷惑がかかると思った。彼の学校生活を壊してはならなかった。


「見た今の顔、なにニヤニヤしてるのよ」女性との一人が修が歩いて行ったのを見て嫌味を放った。


「……俺に挨拶をしてくれたんだ」美しい男はこの上なく嬉しそうに微笑み、修の後ろ姿を眺めていた。「そんなこと言わないでよ」


「でも、室生が脅されてるって噂じゃん。毎日中庭で一緒にいるし」心底軽蔑したようで、それは彼女にとって既に確定した事項のことであった。


「本人に聞いたけど違うってさ」


「本人って京谷に聞きにいったの? そりゃやってないって言うでしょ」少し大きい声だった。


「室生さんだよ」


「室生も脅されてたら簡単には認められないでしょ。何されるか分からないんだからさ」


「二人の仲がいいってことは考えられないの?」美しい男は優しく穏やかに笑った。


「あり得ないでしょ。何の繋がりがあるのか分からないし、第一釣り合ってなさすぎる」


 それを聞いて美しい男は鼻で笑った。それは自分自身に対する嘲りだった。京谷修は自分の友人だから、そんなことは言わないでくれ。たったそれだけで十分なのに、勇気が足りなかった。自分自身が情けなく、どうしようもなかった。

 彼が修の美点の一つとして見出していたのは、修が人の陰口を言わないところだった。それどころか修は「そんなつまらねえ話をしてないで、もっと面白い話をしろよ。気分悪いわ」と、陰口に興じる連中をやっつけていた。

 そんな性格のせいで敵も多かったが、修のあっけらかんとした皮肉屋だが歪んだことが嫌いな天邪鬼な性格に、惹きつけられる者が多かった。

 美しい男もその中の一人だった。


「何がおかしいのよ」女生徒が怪訝そうに尋ねた。


「……脅されてるか」どうしようもない心持ちだった。その表情はあまりに侘しかった。


「……脅されてるってことはないにせよ、付き纏われてるかもしれないね。ほら、室生も気が弱いから嫌だとは言えないで相手を付け上がらせちゃって」男に表情を見て自身があまりに酷いことを言っているのに気がついたのか、言い訳のように捲し立てた。


「もうこの話はやめにしない?」美しい男は諦念をその表情から滲ませていた。


 校舎に着くと便所を理由にその女生徒たちと離れた。自身の友人を平気で汚すような人とはあまり一緒に居たくなかった。

 そして便所から出ると目の前を葵が通りかかった。


「おはよう、室生さん」向けられて喜ばぬ女性はいない爽やかな笑顔で声をかけた。


「……お、おはようございます」やはり声は上擦った。


「この前聞きそびれたことがあったんだけどちょっといいかな」


「……いいけど」鈴木が聞きたいのは自身と京谷のことだと直感したために、表情は暗くなった。


「室生さんって京谷と仲良いの?」無邪気に尋ねた。


「……鈴木くんは、京谷くんと友達なんだっけ、今も仲が良いの?」質問に質問で返したのは求められた回答が葵には分からなかったからだった。


「本当は仲良くしたいんだけどな。修は俺を恨んでると思うんだよ」


「なにかあったの?」


「まあ、いろいろね」なんとか苦笑して誤魔化した。


「そっか。何があったか分からないから私にはなんとも言えないけど、みんなが言うほど悪い人じゃないよ。京谷くん」


葵が少し恥ずかしそうに言うと、京谷も微笑み返した。


「そうなんだよな。あいつは本当に良い奴なんだよ。室生さん、修をよろしく頼むよ。俺は修を傷つけてしまったから」


「ちゃんと話せば、京谷くんもわかってくれるよ」


「そうかな」


 葵は深く頷いた。

 その時廊下に東と結衣の悪辣な二人が通りかかった。

 東は葵のことを睨みつけた。葵は視線を落として、地面が歪んで見えてくるほどその一点を見つめていた。


「あんな女ほっとこうよ」結衣は東の腕を豊満な胸で包み込んで引っ張って行った。


 結衣は現在の状況に至福の悦楽を見出していて浸っていた。

 東は葵の影に潜む修の姿に怯えているのに、彼女を屈服させたくて堪らなかった。それはつまり影に潜む京谷修を屈服させることに他ならないのだから。しかし、修の影は黒く深すぎた。そしてネバネバと絡みつき腐敗を撒き散らし、膿み爛れていた。あらゆる排泄物の凝縮した結晶。諸悪の根源の根源。人間のあらゆる罪と嘘。修の瞳にはそれらが押し込まれて呪いになっていた。

 東は怯えることしかできなかった。


 葵も自身がそれによって守られていることを、最近になってぼんやりと理解し始めた。東の怯え方は尋常ではなかった。


「東たちとなにかあったの?」


「……ちょっとね」精一杯の笑顔を浮かべた。


「そうか、東は修ともなにか因縁があるような感じだったからな。なにかあったか聞いてないか?」


「……うん、あんまりそういうことは聞いてないよ」目を逸らした。


「そうなんだ。普段はさ、修とどんな話をしてるの?」


「孤児院の子供たちが懐いてくれて嬉しいっていつも楽しそうに話してるよ」


「そっか……よかったな」と、破顔したその表情からは優しい愛情が伝わってきた。


 葵は鈴木の美しい表情に見惚れ、修に嫉妬してまいそうだった。すぐにその気持ちも薄らいで彼らの友情の美しさを大事に思った。

 二人は共に教室に入り、各々の席に着いた。




 昼休みなると、葵は鈴木に視線を送った。彼は優しく頷いた。修をよろしくと、葵はその意味を汲み取った。

 修は葵より早く中庭のベンチに座っていた。葵も隣に座って修の横顔を見た。どうしてか、その表情は普段と違うものに見えた。あの美しく優しい愛情を向けられる人物だと葵の認識が変わったからかもしれない。


「あいつらはまだ大人しくしてる? 酷いことはされてない?」心配そうに尋ねた。


「……うん、大丈夫。ありがとう」その声は安らぎに満ちていた。


 修は弁当箱に戻しかけていた視線を、一瞬にして葵へと戻した。彼女のそんな声を聞くのは初めてだった。葵にどんな心境の変化があったのだろうかと、不思議に思った。それが自身に注がれているのかを見極めようとした。


「そういえば、もう今週末が楽しみだよ。結構彫刻のことも調べてさ」修は嬉しそうに笑った。葵と約束していた美術館デートはもう目前に迫っていた。


「京谷くんがそこまで楽しみにしてくれて、私も嬉しいよ」


「本当にこんなに嬉しいことはないよ」澄んだ空を見上げていた。


 葵もその空を眺めてフッと微笑んだ。修は視線を下ろして葵を見つめた。視線に気がついた葵は修と目を合わせた。彼の善良な性格は何かを覆い隠すために身に付けられたと思っていた葵だった。しかし、そうやって善行と得を積み素直に生きることが生来の性格ではないのに、努めてそうしているのならそれはそれで立派なことだと思った。ただその塗り固められた奥にあるものを恐れないわけにはいかなかった。

 良い心が正しいのか、それとも良くあろうとする心の方が正しいのか、葵には皆目見当がつかなかった。


「ところで京谷くん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」


「室生さんから聞きたいことなんて珍しいね。なんでも聞いてよ、俺に答えられる範囲でよければ」修はその細い瞳を丸くして驚いた。


「……鈴木くんと京谷くんってどういう関係だったのかなって」


「あぁ……鈴木佳也のことか?」


「う、うん……」修の表情が少し強張ったのを見逃さなかった。「ごめん、嫌なら答えなくてもいいから……」


「別になんてことないよ。小学校の時の友人ってだけ」すぐにその表情の緊張を解いた。


「そうなんだ」


「俺としてはあいつが俺のこと覚えてるなんて驚きだよ。それで鈴木なんか言ってたの?」


「……うん、京谷くんのこと随分心配してる様子だったよ」


「心配ねぇ」その言葉を辞書で引いてみたいような気分だった。


「傷つけたしまった負い目があるから話しかけられないって。京谷くんから話しかけてあげたら?」首を傾げて修をしたから覗き込んだ。美という強力な力を無意識のうちに行使して修を強引に屈服させていた。


「……俺から話しかけられて一緒にいても迷惑するだけだろ」


「それ私の前で言う? 私は京谷くんと一緒にいて迷惑だなんて思ったこと一度もないよ」


 葵の柔和な表情と穏やかで情に溢れる心に再び撃ち抜かれた。彼女の優しい心が修に注がれているようだった。


「そうだな、今度会ってゆっくり話してみるよ。ありがとう室生さん」


「ううん、本当は想いあってるのに仲違いしたままなんて悲しいもの」


 修は葵の気持ちをありがたく思った。

 彼女に横顔は天使のように美しく光り輝いていた。

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