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社畜保育士だって異世界転移したらフリーターです。  作者: 蒼乃ゆら


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9/11

第九話 一度決めたことは最後まで

あれから数日

心春は毎日くたくたになりながらも

なんとか仕事をこなしていた


朝から掃除 ご飯の準備

気を抜けば火を吐くヒヨコ

油断すればまとわりつくスライム

そして 全力で突っ込んでくるウルフリル


「ちょっ……待って……!」


今日も朝から芝生に転がる


「またやられた……」


ぐったりと空を見上げる

その横で

ウルフリルが楽しそうに尻尾を振っている


「……ウルちゃん 元気だねほんとに」


小さく笑う

最初は怖かったはずなのに

気づけば愛着が湧いていた


「ふふ」


思わず笑う

そのまま手を伸ばす


「おいで」


今度はゆっくりと近づいてくる

そっと頭を撫でると少し嬉しそうに目を細める


「……いい子だね」



そして 五日目の朝

いつもと同じように 掃除から一日が始まる

ほうきを手に取りながら

小さく息を吐く


「よし……今日で最後」


自分に言い聞かせるように

少しだけ気合を入れる

最後までちゃんとやり切ろう

そう思う

でも ほうきを動かしながら

ふと視線を上げる

走り回るモンスターたち

じゃれ合うスライム 小さく火を吐くヒヨコ

そして

こちらを見つけて駆け寄ってくるウルフリル


「……あ」


自然と表情がゆるむ


「おはよ ウルちゃん」


頭を撫でると嬉しそうに尻尾を振る

その様子を見て

胸の奥が少しだけきゅっとする


(今日で……終わりか)


ほんの少し 寂しい気持ちがよぎる


「……よし」


気持ちを切り替えるように

ほうきを握り直す


「最後まで頑張りますか」


いつも通りの一日が 始まった


そのはずだった


——そのとき


ドォォォン!!


地面を揺らすような大きな音に思わず手が止まる

同時にまぶしい光が一瞬走る

反射的に顔を上げる


「なに……?」


心臓がどくんと跳ねる

ゆっくりと振り返る

視界に入ったのは 壊れた柵

大きくえぐられたように

ぽっかりと穴が開いている


「なにこれ……」


言葉がこぼれる


土が舞い まだ空気が揺れている

そのとき


「すみません!」


慌てた声が聞こえ振り向くと

男が二人 こちらに駆け寄ってくる


「大丈夫ですか!?」


息を切らしながら 必死に声をかけてくる


「ぼ 僕たち」


もう一人が続ける


「この近くで歩道の整備をしていたんですが……」

「魔法が誤発動してしまって……」


申し訳なさそうに頭を下げる


「お怪我はありませんか?」


一気に現実に引き戻される


「え……あ……」


周りのモンスターたちを見る

ざわざわと騒いでいるが 大きな怪我はなさそう


「だ 大丈夫そう……です」


少しほっとして 胸をなで下ろす


(よかった……)


そのとき

ふと違和感を感じる


「……あれ?」


視線を巡らせる

いつもなら真っ先に駆け寄ってくるはずの

あの子がいない


「……ウルちゃん?」


呼んでみるが返事はない

もう一度 周りを見渡す


いない


どこにも


「……どこにいるの……」


心臓がざわつく

嫌な予感がする

ゆっくりと 壊れた柵の方へ目を向ける

ぽっかりと開いた穴から外へ続く道


「……まさか」


足が勝手に動く

近づいて覗き込む

その先には何もない ただ外へ続く道


「ウルちゃん……?」


かすれた声

胸がぎゅっと締め付けられる


「……いない」


その事実が ゆっくりと現実になる


「……うそ」


手が震える


「……ウルちゃんが……」


ぽつりとつぶやく

風が吹く

さっきまでの賑やかな音が遠く感じる

考える暇もなかった


気づいたときには心春は走り出していた


「ウルちゃん!」


叫びながら 壊れた柵の外へ飛び出す

足がもつれそうになるがそれでも止まらない

頭の中は真っ白


ただ一つ


(探さなきゃ)


それだけ


「おい!」


後ろからアルトの声がする


「待て!」


強い声


「この先の森は危険だ!魔物も出る 戻れ!」


足が止まらない

聞こえているはずなのに

頭に入ってこない


「お前が行くより 俺が——」


そこまで言いかけるがその言葉すら

もう届かない


「ウルちゃん!」


ただ名前を呼び走る

ひたすら前へ

その肩で ゼルも一緒に飛び

必死についてくる


「キュッ!」


小さく鳴くが心春は振り返らない

止まらない

怖いとか 危ないとか

そんなことを考える余裕もない


ただ


「いなくなった」


その事実だけが 胸を締め付ける


(あの子は……まだ子どもなのに)

(怖い思いをしていたらどうしよう……)


息が乱れ 足が重い

それでも 止まれない


「ウルちゃん……!」


森の中へ 迷いなく踏み込む

枝をかき分け 足元も気にせず進む


「ウルちゃん!」


何度も名前を呼が返事はない

気配もない


ただ


風の音と木々のざわめきだけ

息が荒くなる 足も重い

それでも 止まれない

止まりたくない


(どこに行ったの……?)


必死に探す

けれどどこにも姿はない


「……はぁ……っ」


ついに足が止まり その場に立ち尽くす

肩で息をしながら周りを見渡す

同じような景色 どこを見ても


森 森 森


「……いない……」


ぽつりとこぼれる

その瞬間 さっきまでの勢いがすっと抜ける

静けさが押し寄せる


「……」


焦りだけが残る


(このままじゃ……)


ぎゅっと拳を握る

目を閉じる 深く息を吸う

そして ゆっくり吐く


「……落ち着け」


自分に言い聞かせる


「落ち着いて……考えろ」


もう一度


ゆっくりと息をする

鼓動が少しずつ戻ってくる

周囲を見渡す さっきよりもちゃんと見える


(ウルちゃんは……まだ子どもだから)

(まだ遠くまで行ってないはず……)


考える

そのとき ふと頭に浮かぶ


「……あ」


預かり屋での光景

ベルクがモンスターたちを呼ぶために使っていたベル


「……あれだ」


顔を上げる


「呼べばいいんだ」


小さくつぶやく


「私……召喚士なんだから」


手を前に出し集中する


「ベル……」


目を閉じる


(あの時のベル……お願い出てきて……)


ぐっと力を込めると光が集まる

そのとき 肩の上でゼルがぴくっと反応し

少しだけ距離を取る


「なっ……なによ!!今 頑張ってるんだから!」


警戒するようにじっと見ている


「あのベルお願いします!」


魔法陣が浮かび光が弾ける


「……きた?」


そっと目を開け 手のひらを見る


そこにあったのは——


竹でできたような古びた笛

少し歪な形をしている


「……え」


固まる


(いや……なにこれ)


ゆっくり持ち上げる


「笛?」


眉をひそめる


(ベルじゃないんだけど)


じっと見つめる

少し考えて


「とりあえず……」


口に当てる


「吹いてみるか」


息を吹き込む


ピーーーーーー


澄んだ音が森に響く

空気が震える

けれど何も起きない

あたりは静まり返る


「……」


しーん


「……やっぱり」


がっくりと肩を落とす


「こんなんじゃダメかぁ」


笛を見下ろす


「てか なにこれ!」


思わず声を荒げる


「ぜんっぜん使えないじゃん!しかも汚いし!」


ぶんぶん振る


(もう!他の方法考えないと——)


そのとき足元に ふさっとした感触


「……ん?」


ゆっくり視線を落とす

そこにいたのは 見慣れた姿


「……ウルちゃん?」


尻尾を小さく振っている


「ウルちゃん!!」


しゃがみ込み思わず抱きしめる


「よかった……!」


声が震える


「戻ってきたの!?」


頭を撫でる


「すごい……いい子!賢すぎるよぉぉぉ!」


嬉しさが溢れ

胸の奥がじんわりと温かくなる


——そのとき


ゴゴゴゴゴゴ……


地面が揺れる


「……なに?」


動きが止まる

ゆっくりと顔を上げる


空気が変わる

さっきまでの静けさが

嘘みたいに消え森がざわつく

重たい気配 圧迫感に背筋が凍る


ゼルが鋭く鳴く


「キュッ!!」


警戒


視線の先 木々の奥に何かがいる

ゆっくりと影が動く


「……」


言葉が出ない 息が止まる


笛の音に引き寄せられたのは

ウルフリルだけじゃなかった


森の奥から——


ゆっくりと

巨大な“何か”が姿を現そうとしていた


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