表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜保育士だって異世界転移したらフリーターです。  作者: 蒼乃ゆら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/11

第八話 子どもの保育もモンスター保育も大変なことには変わりない

朝 やわらかな光が部屋に差し込む


「……ん」


ゆっくりと目を開ける

まだ少し眠いまま

体を動かそうとしたそのとき


「……あ」


胸元に重み

視線を落とす

そこには 丸くなって眠っているゼル

小さな体が規則正しく上下している


「……ほんと 毎日ここだよね」


小さく笑う

そっと指で頭を撫でる

ぴくっと反応するが 起きる気配はない


「起きるよ ゼル」


やさしく声をかける

少しだけもぞもぞ動いて

ゆっくりと目を開ける

眠たそうにこちらを見る


「おはよう」


指で軽くつつく

ゼルは小さく羽を動かす

そのまま ぴょこんと肩へ移動する


「今日から初仕事だよ」


そう言うと くるっと一回転

やる気満々の様子


「……頼りにしてるからね」


小さく笑う


下に降りるとソファーには

だらけきった"勇者“アルトの姿

足を投げ出し

今日も完全にくつろいでいる


「……ねぇ」


声をかけるが反応なし


「アルト」


もう一度


「んー……」


気のない返事


「今日 初仕事行くよ」


「……俺は行かないよな?」


ぼそっと呟く


「行くに決まってるでしょ!」


即答


「俺は留守番でいいだろ」


「ダメ」


間髪入れずに返す


「もうなんでもやの一員なんだから」


ぐいっと腕を引っ張る


「ほら 行くよ」


「ちょっと待てって」


ずるずると引きずられていく



外に出ると朝の空気が気持ちいい

軽く息を吸う


「いい天気だなぁ」


自然と足取りも軽くなる

その横で アルトはやる気ゼロ


「はぁ……」


大きなため息


「そんなに嫌なの?」


「嫌に決まってるだろ」


即答


「まぁまぁ 初仕事だよ?」


前向きな声


「やってみないとわかんないじゃん」


「……もうわかってる」


ぼそっと返す


「だって 預かり屋だぞ?大変に決まってるだろ」


「大変でも 困ってる人を助けるのが なんでもやだから」


軽く言い合いながら歩く

小さな街を抜け 少し外れた場所へ

人通りも少なくなっていく

やがて 見えてくる木でできた家

その横に広がる 大きな囲い


「あ ここだ」


足を止めると囲いの中から

何かの鳴き声が聞こえる


「……」


アルトは無言


「元気そうだね」


軽く笑う


そのとき

家の前に立っていた男がこちらに気づく


「おはようございます」


ベルクが穏やかに頭を下げる


「おはようございます!」


心春も元気よく返す


「今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ」


ベルクはやわらかく微笑む

そして ふと アルトに視線を向ける

アルトの姿を見た瞬間 目を見開く


「……あなたは」


一歩前に出る

信じられないものを見るような表情


「勇者様!?」


空気が一瞬止まる


(やっぱり有名なんだ……)


心春は横目でアルトを見る

当の本人は 少しだけ面倒くさそうに頭をかく


「……まぁ みなさん そう呼びますね……」


軽く答える

その態度にベルクはさらに驚いた様子を見せる


「な 何故このような場所に……!」


思わず声が上ずる

アルトはため息をひとつ


「ちょっとした縁があって……」


ちらっと心春を見る


「今は彼女の手伝いをしています」


さらっと言う

ベルクは慌てたように頭を下げる


「まさか勇者様に手伝っていただけるなんて……!」

「なんとお礼をしたらいいのか……」


アルトは軽く手を振る


「気にしないでください 大したことではないなで」


いつもより丁寧な口調

外で見せるその姿は やはり“勇者らしい”


(ほんとに外面だけは完璧だよな……)

(普段のあの感じ リークしたら儲かりそうだな)


心春は心の中でつぶやくが

ふと気を取り直す


「あ それでお仕事は?」


少し前に出る

ベルクもはっとして頷く


「ではさっそくご案内しますね」


そう言って建物の裏へと歩き出す

その先には 大きな囲いが見えていた


ベルクが囲いの前で足を止める


「こちらです」


そう言ってゆっくりと扉に手をかける


「それでは 開けますね」


ギィ……


木の扉が音を立てて開く

その瞬間 視界に飛び込んできたのは

小さなモンスターたち

背中の毛をきらきらと輝かせた狼のようなモンスターが走り回り

ぴょんぴょん跳ねるスライム

そして ぴいぴいと鳴きながら

小さな火を吐くヒヨコ


「あれ……?」


心春の思考が止まる


(子どもって……まさか……モンスターの子ども!?)


固まる


ゆっくりとアルトを見る

アルトは目を逸らす


「俺は忠告しようとしたからな」


「受ける仕事間違えたかも……」


そのとき 足元に違和感


ぬるっ


「……え」


視線を落とす

スライムが足にまとわりついている

じわじわと上がってくる


「ひ ひぇぇぇぇぇ!!」


情けない声が響く

ぺたぺたと体に張り付く感触


「ちょっ ちょっと待って!」

「なんか来てる来てる来てるぅぅぅ!!」


完全にパニック

その様子を見てアルトは涙を流して笑っている


(あれ……でもなんか……懐かしいような)

(ちょっとひんやりして気持ちいいかも……)

(社畜の頃よく使ってた むくみケア的な感覚……?)


一瞬そんなことを思う

そのとき ベルクがさらっと言う


「あ それ食べられてますよ」


「え?」


時間が止まる


「スライムは貪欲な食欲を持つモンスターなんです」

「どんなものでも食べようとするので気をつけてください」


にこやかに説明


「え えぇぇぇぇぇ!?」


慌てて足を振る


(私 今たべられてるの!?)

(てか笑ってないで誰か早く助けろよぉぉぉぉ!)


アルトを睨みつける

視線を察したアルトは足からスライムを引き離しす


一気に血の気が引く


「スライム怖……」


思わず後ずさる


そのとき

狼のようなモンスターが突っ込んでくる


「今度は何!?」


とっさに身構える


次の瞬間


ドンッ


「うわぁっ!?」


勢いよくぶつかられ

そのままバランスを崩す


「ちょっ……待っ……!」


受け止めきれず そのまま後ろに倒れ込む

ゴロゴロゴロッ

芝生の上を転がる


「いったぁ……」


ようやく止まる

仰向けのまま空を見る

その上に 狼のモンスターが乗っている


「……え?」


きょとんとする

モンスターは尻尾をぶんぶん振っている

顔を近づけてくる


ぺろっ


「ちょっ ちょっと!?」


慌てて顔を背ける


(ほんと……助けて……)


そのとき ぱたぱたと羽音をたてて

ゼルがふわりと飛び上がる

そのまま 狼のモンスターの顔の前で

ぴたりと止まる


「……え?」


ゼルは何もせず ただじっと見つめる

静かな視線

まるで “それ以上はだめ” とでも言うように

狼のモンスターの動きが止まり

尻尾の動きがゆっくりになる

そして すっと目を逸らすとくるりと向きを変え

そのまま走り去っていく


「……え?」


ゆっくりと体を起こす

ゼルは何事もなかったかのように

ぱたぱたと戻りぴょこんと肩に乗る


「……ゼル?」


思わず名前を呼ぶとゼルは小さく鳴く

まるで「大丈夫」と言っているみたいに


「……助けてくれたの?」


そっとつぶやく

胸の鼓動が少しずつ落ち着いていく


その様子を見て

ベルクが少し申し訳なさそうに笑う


「すみません」


穏やかな声


「普段はみんないい子なんです」


囲いの中を見渡しながら続ける


「ただ 今日はお客さんが来て」

「少しはしゃぎすぎてしまったみたいですね」


(これで“少し”……?)


心春は引きつった笑みを浮かべる


「ここは テイマーさんから一時的に 子どものモンスターをお預かりする場所なんです」


落ち着いた口調


「預かった子たちは 責任を持って大切にお世話しています」


そして少しだけ表情を引き締める


「お仕事の内容ですが この子たちのご飯の準備や掃除 それから一緒に遊んであげたり 身の回りのお世話をお願いできればと思います」

「わからないことがあれば 何でも聞いてください」


ベルクの説明を聞きながら 改めて囲いの中を見る

走り回るモンスターたち

跳ねるスライム 小さな火を吐くヒヨコ

そして さっきの狼のようなモンスター

元気よく駆け回っている


「……あの子は?」


ふと気になって尋ねる

ベルクはその方向を見る


「あぁ あの子ですか」


少し柔らかく笑う


「“ウルフリル”です」

「まだ子どもですが 元気いっぱいで 少しやんちゃなんですよ」


(少し……?)


心春は遠い目になる

そのウルフリルと目が合う

ぱっと表情が明るくなると次の瞬間


ダッ!!


全力でこちらに向かってくる


「えっ またぁ!?」


ドンッ!


「うわぁぁぁぁ!?」


再び吹き飛ばされ芝生に転がる


「ちょっ……待っ……!」


ばたばたともがく

ウルフリルは楽しそうに尻尾を振っている

その様子を見て アルトがぼそっと一言


「気に入られてるな」


「見てないで助けてよぉぉぉ!」


必死に叫ぶ


ベルクは少し申し訳なさそうに笑う


「すみません 本当に 人懐っこい子でして」


ゼルが肩の上でぱたぱたと羽を動かす

どこか呆れたように



そして——


夕方


「はぁ……」


心春はその場に崩れ落ちた

全身ぼろぼろ 髪も服もぐちゃぐちゃ


「つ……疲れた……」


かろうじて声を絞り出す

視界の端 アルトは普通に立っている

しかも モンスターたちに囲まれている

モンスターたちはアルトになでられ懐いている


「……なんで?」


思わずつぶやく


アルトはちらっと見る


「たぶん わかってんだな……俺がいい奴って」


ドヤ顔


(え……こいつに人間性で負けたのか……?)


遠い目になる


そのとき ベルクが声をかける


「お疲れ様でした」


そしてにこやかに


「明日もよろしくお願いします」


一瞬 時間が止まる


「……え」


ゆっくり顔を上げる


「これ……」


震える声


「あと四日あるんですか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ