第五話 自由に生きるって一番難しい
朝 太陽の優しい光で目を覚ます
「……ん」
ゆっくりと体を起こす
視線を横に向けると
当たり前のように
隣で丸くなって眠っているゼルカディア
小さな体が規則正しく上下している
少しずつ愛着が湧いてきた
「……かわいい」
自然とそんな言葉が出ていた
「そういえば君、ゼルカディアとか言ってたよね……」
少し考える
「うーん 長いし」
小さく息を吐く
「ゼルでいいか」
ドラゴンを見る
「ね ゼル」
呼んでみる
耳が動く
少しだけ指でつついてみる
ぴくっと反応して また眠りに戻る
「警戒心ゼロだな」
小さく笑う
そのままぼんやりと天井を見上げる
昨日のことが頭に浮かぶ
見知らぬ世界 そして あのおじいさん
「自由に生きるか……」
ゆっくりと言葉にする
少しだけ考える
『自由に生きる』
簡単そうで 意外と難しい言葉
「私のやりたいことって なんだろう」
ぽつりとつぶやく
ふと 思い出す
毎日毎日 サービス残業
心をすり減らしながら働いていた日々
なんだかもう遠い昔のように感じる
「……あぁ、そうだ」
少しだけ表情がゆるむ
「ここでは フリーターみたいにのんびり生きたいな」
「憧れのスローライフってやつ」
「……でも」
すぐに現実に戻る
「のんびりするにしてもなぁ〜」
お腹に手を当てる
「お金なきゃ 何もできないよね まずは資金集めか」
静かな空間にその言葉だけが残る
少し考える
けれど 答えは出ない
「……よし」
ぱっと顔を上げる
「とりあえず 近くを見てみよう」
軽く伸びをする
「なんか細道あったし」
立ち上がる
「行ってみるか」
簡単に身支度を済ませ外に出る
朝の空気が心地いい
家の横から続いている細い道を進む
草木に囲まれた 静かな道
しばらく歩くと視界が開けた
そこには
小さな街が広がっていた
赤い屋根の家々 石畳の道
行き交う人々
静かすぎず 騒がしすぎない
ちょうどいい賑わい
「……いいとこだな」
思わずつぶやく
道の端には 小さな店が並んでいる
野菜を売る店
焼きたてのパンの香り
雑貨を並べた屋台
ゆっくりと歩く
「こういうの 嫌いじゃないかも」
ふと 目に入る
木の板に紙がいくつも貼られている場所
「……あれ」
近づく
「掲示板?」
一枚一枚 目を通していく
その中でひときわ目立つ紙があった
『急募』
大きく書かれている
「お」
少し身を乗り出す
「求人ってやつ?」
紙をじっと見つめる
『畑を荒らす魔物の駆除』
『人手不足につき 急ぎ求む』
「……魔物かぁ」
腕を組む
(いや いきなりハードル高いよなぁ)
(てか魔物ってなんだ……?)
少し考える
(でも お金ないしなぁ)
お腹を押さえる
(ここで生きていくためには やるしかないか)
(いざとなったら……)
ちらっと肩を見る
ちょこんと乗っているゼルカディア
小さくあくびをしている
(いざとなったら なんとかしてくれるでしょ)
完全に他力本願
「……よし」
紙をぺりっと剥がす
「これやります!」
誰に言うでもなくつぶやく
紙を見つめる
「とりあえず 行ってみるか!」
紙を手に 持ったまま歩き出す
書かれていた通りの道を進んでいくと
やがて 視界が開けた
そこには
広い農園のような場所が広がっていた
「……すご」
思わず足が止まる
たくさんの作物が実っている
赤く熟したトマト 青々としたきゅうり
見覚えのある果物も並んでいる
どの作物も生き生きとしていて
丁寧に育てられているのが伝わってくる
「ちゃんと手入れされてるんだな」
小さくつぶやく
けれど
ふと奥の方に目を向ける
「……あれ」
少し様子が違う
土が荒れている 掘り返されたような跡
踏み荒らされた作物
枯れ果ててしまった一角
そこだけ 空気が違っていた
そのとき
「どなたかな?」
後ろから声がかかる
「……あ」
振り返るとそこに立っていたのは
短い髭を生やした男
日焼けした肌
しっかりした体つき
いかにも農家という雰囲気だった
「あ あの〜」
少し慌てて紙を取り出す
「この紙を見て来ました」
男に見せる
「あぁ〜」
男は紙を見て うなずく
「私はこの農園の主、ガルドだ」
「この依頼は私が出した」
しかし
心春の姿をじっと見て
少しだけ表情を曇らせた
「……君が?」
言葉を選ぶように続ける
「魔物の駆除と書いてあったはずだが……」
「大丈夫なのか?」
「えっと……」
少し言葉に詰まる
「魔物の駆除って……」
「具体的にはどんな感じなんですか?」
男は畑の方へ視線を向ける
「この農園に魔物が出始めてな、もう一ヶ月になる」
静かに話し始める
「夜になると現れては畑を作物を荒らしていくんだ」
「おかけで大切に育てた野菜や果物は全部めちゃくちゃ 売り物にもならないよ」
少し間を置く
「これまでにも何人か来たが」
苦笑する
「皆 途中で逃げ帰ってしまったよ」
ガルドはゆっくりと畑を見渡した
「私はこの畑が好きなんだ」
穏やかな声だった
「どの野菜も 果物も」
「全部 愛情を込めて育ててきた」
そう言って
ひとつ トマトをもぎ取る
「ほら」
差し出される
「……いただきます」
恐る恐る口にする
「……おいしい」
思わず声が漏れる
水々しくて 甘くて
気づけば 夢中で食べていた
(この畑……素敵だな)
ふとガルドの表情を見る
どこか困ったような悲しそうな顔
(……放っておけない)
気づいたときには 口が動いていた
「私に任せてください!」
一瞬の沈黙
「……本気か?」
ガルドが驚いたように聞き返す
「はい!私は召喚士なので安心してください!」
(まぁ なんとかなるでしょ)
軽く考えていた……
⸻
夜になる
昼とは雰囲気が変わり 静まり返った畑
虫の音だけが響く
「……来るかな」
周囲を見渡し
ふと 思い出す
「あ!一応 魔物と戦うわけだし」
「武器 欲しいよね」
手を前に出し 空に掲げる
「私は召喚士、任せなさい!」
小さく息を吸う
「魔物を倒せるような武器お願いします」
(どうせなら 強いやつ)
(勇者の剣とかいいかも!)
(今までみたいに とんでもないの出たりして)
少し期待する 光が広がる
「……きた?」
そっと手元を見る
そこにあったのは……
小さな果物ナイフ
「……は?」
固まる
(あれ……見間違いかな?)
もう一度目を瞑ってから手元を見てみる
そこにはたしかに小さな果物ナイフ
「え?」
冷や汗が止まらない
(なんでこんな時に限って果物ナイフー!?)
(これから魔物と戦うんですけど!?)
(召喚士だから任せてくださいとか大きいこと言っちゃったんですけどー!?)
思わず果物ナイフを地面に叩きつける!
「役に立つかー!こんなものー!」
そのとき
ゴゴゴゴゴ……
地面が揺れる
「……え」
足元の土が盛り上がる
次の瞬間
地面を突き破って現れる巨大な影
「なにあれ……」
思わず後ずさる
土と根でできたような化け物
ツタがうねり
大きく裂けた口が 作物を飲み込む
「うわぁぁぁぁ」
「こんな時に限って本物の魔物きたー!」
ツタがしなる
次の瞬間
地面から突き上げるように攻撃が来る
「うわっ!」
間一髪で避ける
「無理無理無理!」
念のためナイフを拾って必死に走る
容赦なく追いかけてくる
ナイフを握る手が震える
「ゼル!」
周りを見る
パタパタ飛びながら
魔物から逃げるように私についてくる
(これ……戦力になるのか……?)
一瞬の沈黙
そして手元を見る
この大きな魔物を目の前に
ナイフに至っては もはやゴミでしかない
ツタが迫る
「うわぁぁ!」
転びそうになりながら走る
逃げる ただひたすら逃げる
(ちょっと待ってぇぇぇ)
(自由に生きるって言ってたよね 私)
必死に走りながら考える
(もしかして……今日が私の命日ですか?)
追い詰められる 逃げ場がない
振り返ると迫る魔物
息が止まる
「こんなところで 死にたくないよー!」
ツタが振り下ろされる
もう避けられない
目を閉じる




