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第8章 40 冬フェス ヴァーチャルリンク開催

背筋をなぞるような悪意。


葵時雨は反射的に周囲を見渡した。


モンスターではない。


足元から――泥のようにまとわりつく、形のない“何か”。


本能的な嫌悪。


(……早く、この場を離れないと)


これまでの戦闘。


出現位置、タイミング、密度。


すべてが脳内に蓄積されている。


その情報をなぞり、突破口を組み上げる。


――ギアを上げる。


踏み込みが速くなる。


攻撃が鋭くなる。


より派手に。


より正確に。


蒼い炎を纏い、戦場を舞う。


モンスターが砕ける。


群れが崩れる。


蝶が死を運ぶかのように、


次々と敵を沈めていく。


だが――


攻撃するほどに、


モンスターは引き寄せられていく。


まるで、


戦闘そのものに吸い寄せられるように。


外周で誘導していたサポートメンバー達が、顔を引きつらせる。


「……あいつ、全部引き受ける気かよ」


「無茶だ……」


だが次の瞬間、


彼らの表情は安堵に変わる。


「……でも、いい」


「これで追い詰められる」


戦術で。


数で。


構造で。


「ねぇ――


君たちは、何が目的なの?」


背後から、聞こえないはずの声が落ちる。


「っ!?」


振り返る。


そこにいたのは――葵時雨。


息遣いすら感じられる距離。


「いつの間に……!」


「まぁいいや、⋯せいぜい、頑張ってね」


冷たい声。


直後、モンスターの唸りがすべてを飲み込む。


視界が埋まる。


取り囲まれる。


サポートメンバー達は視線を滑らせる。


先ほどまで葵時雨がいた場所。


そこには――


モンスターに襲われることなく立つ、汐花の姿。


「……まさか」


理解する。


「……わざと、集めたのか」


葵時雨は、わずかに笑う。


神珍鉄を地面に突き立てる。


伸びる。


空間を切り裂くように伸長し、


そのまま身体を運ぶ。


距離が離れる。


背中が、小さくなる。


残されたのは――


モンスターの波。


「……クソッ!」


「ふざけんな!」


断末魔が響く。


飲み込まれる。


消える。


――


「あらら、やられちゃいましたねぇ」


遠巻きに見ていた一人が、


仲間が襲われていく様を傍観する。


その視線は、


離脱する葵時雨達を追っていた。


「まぁ――逃げられないんですけどね」


小さな欠片が、葵時雨の頭上に落ちる。


手に取る。


それは――アバターの破片。


上を向く。


建物の影から、


モンスターに組み付かれたプレイヤーが落ちてくる。


その後ろから、


雪崩のようにモンスターが降り注ぐ。


(……間に合わない)


即座に判断する。


それでも――


手を伸ばす。


その先にいるのは、汐花。


視線が交わる。


汐花が、ほんの一瞬だけ微笑む。


――届かない。


視界がモンスターの体で埋まる。


あと一歩が、届かない。


葵時雨は、小さく息を吐いた。


二人の姿が、


モンスターの群れに飲み込まれていく。


――


スクリーン越しに、その光景を見つめる影。


フードの男。


静かに立ち上がる。


炎のように揺らぎながら、


その場を去っていく。



――


やがて、スクリーンが切り替わる。


「――ついに終了ー!!」


「波乱万丈のイベントを制したのは――!」


「リリカチームです!!」


歓声が爆発する。


拍手が会場を包む。


復活ポイントで動こうとしていた葵時雨が、


ふと足を止める。


その耳に――


確かに届いた。


歓声の中に混じる、


“異質な笑い”。


それは明確な――悪意だった。




「……ほんとに、優勝……したの……?」


リリカは、次のエリアへ向かおうとしていた足を止める。


視線は、スクリーンに釘付けだった。


中継に、自分たちの姿が映し出される。


――歓声が、爆発する。


「リリカ! リリカ! リリカ!」


名前を呼ぶコールが、会場を揺らす。




「はぁ〜……疲れた……」


「ほんまや……一生分走った気分やわ……」


その場にへたり込む紗良とキャット。


リリカは、すぐに駆け寄る。


「……ほんとに、ありがとう!」


息が上がったまま、それでも声を絞り出す。


「勝てたのももちろん嬉しいけど……」


一拍。


「みんなと、このイベントに出られたことが……一番嬉しい!」


言葉と一緒に、涙が溢れる。


止まらない。


「……そんなん言わんといてや……」


キャットが顔を背ける。


「こっちまで泣けてくるやん……」


目を閉じ、必死に堪える。


「……良かったな、リリカ」


迅が、短く声をかける。


「うん!」


リリカは胸に手を当て、大きく頷く。


――その様子を、


少し離れた場所から見つめる影があった。


美咲は、一歩だけ下がる。


誰にも気づかれない距離。


静かに、目を伏せる。


(……あれ)


胸の奥に、小さな違和感が生まれる。


迅の周りに、人が集まっていく。


笑顔。


歓声。


認められていく姿。


そこには


最初に出会った頃の、


ぎこちなく説明を聞いていた迅はいない。


(……おかしいな)


嬉しいはずなのに。


(……なんで)


胸の奥に、


言葉にならない何かが引っかかる。


「……嬉しい」


小さく、呟く。


「うん……嬉しい」


そう言い聞かせるように、


もう一度、同じ言葉を重ねた。

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