第8章 37 冬フェス ヴァーチャルリンク開催
サオリは大きく息を吐く。
「はぁ……」
迅に視線を向ける。
「……嫌い、リリカの事やっぱ許せない」
呟くように言う。
「頭じゃ分かってても、どうしても無理……」
「なんで、こんなに嫌な気持ちになるの」
迅は何も言わない。
ただ、聞く。
「リリカから、私のこと聞いてるんでしょ」
「いや……詳しくは知らない」
迅は正直に答える。
「リリカも話したくなさそうだった。
だから、無理に聞いてないしリリカも話してない」
サオリは疑うように迅を見る。
だが、その淡々とした様子に、やがて視線を外す。
「……………………」
サオリは言葉が出ない。
喉の奥で、何かが詰まったように引っかかる。
迅は、少しだけ息を吐く。
「嫌いでもいい」
短く言う。
「無理にどうにかしなくていい」
一拍。
迅は少しだけ視線を落とす。
「……俺も、そうだったから気持ちは分かる」
サオリは目を見開く。
「情けない自分がどうしようもなくて、嫌いで」
「それでも……」
言葉を探すように、少しだけ詰まる。
「それ以上、自分のこと嫌いになるのは……やめとけ」
――
その言葉は、
励ましでもなく、
綺麗な答えでもない。
ただの実感だった。
胸の奥にあった何かが、少しだけ緩む。
その代わり――
喉の奥が、きゅっと締まる。
言葉が出ない。
悲しいわけじゃない。
苦しいわけでもない。
それでも、
サオリの目から、涙がこぼれた。
サオリは、その涙を拭わなかった。
しばらくして、サオリは息を整える。
「私、ほんとどうかしてるみたい……人前であんな情けない姿さらして……」
「イベント中なのに……」
視線を逸らし、周囲を見渡す。
その視線の先――
注目は上層に集まっていた。
今さらそれに気づき、
サオリは小さく息をつく。
そして――
迅に向き直り、頭を下げる。
「さっきは助けてくれて、ありがとう」
一瞬だけ顔を上げる。
「言っとくけど、さっきのことは……誰にも言わないでよ……!」
気恥ずかしそうに付け足す。
迅はその変化に、わずかに目を細める。
(……ほんとは、そういう性格だったんだな)
その時、サオリに通信が入る。
「――やっと出た!」
天藤の声。
「さっきは一人で勝手に突っ込んで落ちてくし! 今どこにんだよ!」
「……ごめんなさい。私が、迂闊だった」
サオリは素直に謝る。
少しだけ間を置いて続ける。
「……今は、リリカの仲間に助けられて……下層にいる」
一瞬、言い淀む。
「はぁ?」
天藤の声が跳ねる。
「さっき飛び降りたプレイヤー!? あの高さから落ちて2人とも無事だったのか……?」
一拍。
「……そっか。下層にサオリがいるなら……」
その時――
今度は迅に通信が入る。
「迅……!」
美咲の声。
一拍。
「……無事、じゃなかったみたいね」
視線が、迅の失った片腕に向く。
「ああ。でも、まだ動ける」
迅は短く返す。
「どこに行けばいい?」
「それなんだけど――」
美咲は状況を共有する。
「上層にチームが集まってきてて、ポイントが取りづらくなってるの」
「だから、私たちも下層に向かうつもり」
「下層の南エリアまで来れる?」
迅は無言で頷く。
マップを確認する。
「……そっちも、南エリアに行くの?」
いつの間にか、横に立っているサオリ。
「⋯ああ。お前も?」
「“お前”じゃなくて、サオリ!」
少し強く言い直す。
その声に、少し離れた位置にいたリリカが反応する。
一拍。
「サオリ……無事だったんだ……」
その場から動かず、
安堵したように、息をこぼす。
サオリは一瞬だけリリカの背中に視線を向ける。
だが、すぐに外す。
「……目的地一緒なのね、そっか⋯」
短く言う。
「だったら南エリアに着くまで、一時的に私達同盟組まない?」
『はぁ!?』
美咲と天藤の声が重なる。
短い沈黙。
サオリは一瞬だけ口を閉じる。
わずかに、言葉を選ぶ。
「……あんたが右手失ったの、私のせいだから」
「少しでも、恩を返したいの」
一拍。
「それだけ」
迅は何も言わず、手を差し出す。
サオリは、その手を掴む。
「相変わらず勝手に決めやがって……神崎が怒るぞ……」
天藤が青い顔でぼやく。
その背後から、神崎が歩み寄る。
視線は鋭い。
「ふざけるな。勝手に動いて下層に落ちた挙句、こいつらと組むだと…?」
怒気を帯びた声。
だが、サオリは一歩も引かない。
「……なに?」
「これ以上いい案あるの?」
「私が一人で南エリアまで行ける方法、あるなら教えて」
神崎は怒りを滲ませる。
しかしやがて怒りよりも、諦めと嫌気が勝る。
「……勝手にしろ」
「はは、神崎からの了承も得たし」
天藤が肩をすくめる。
「じゃあ僕ら、一時的に同盟ってことで♪」




